【完結】クズ御曹司に嵌められた俺が、スパダリ社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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【番外編】信じることを、もう一度だけ

2.壊れたあとに残るもの

その夜。
誰もいなくなったオフィスで、一人。
モニターの電源だけが点いていた。

未完成のコード、途中で止まった設計書。
空っぽの進捗ボード。

会社は、危機的状況だ。
機密情報は漏れたし、資金も持ち逃げされた。
アプリの開発は、頓挫するかもしれない。

「くそ……」

怒鳴り散らしたい気持ちがないわけじゃなかった。
でも、誰もいない部屋で怒鳴っても何も変わらない。
それよりどこまで被害が出ているかを把握して、どう立て直すかを考えた方がずっといい。

そう思うと、自分がひどく機械的な人間に思えて、少しだけ嫌になった。

「涼、まだ帰ってなかったのかよ」

和真が戻ってきた。
コンビニのコーヒーを二つ、机に置く。

「ほら」
「あー……サンキュ」

一口飲む。ちょっとぬるかった。
でも、なぜか少し落ち着いた。

「和真、俺さ」
「ん?」
「……会社、続けられるかなって、一瞬思ったんだ」

正直に言うと、和真は目を丸くした。

「お前がそれ言うの、珍しいな」
「いや、さすがに今回は堪えたからな」

設計はやり直しになる。資金も削られてる。
規模は小さくても、うちにとっては普通に致命傷だった。
しばらく黙っていた和真が、軽く肩をすくめた。

「じゃあ、やめるか?」
「やめないよ」

口に出した瞬間、自分でも少し笑えてきた。
ああ、俺こういう性格だったなって。

“裏切られたから終わり。”
それだと、会社じゃなくてただの仲良しグループだ。
ここで立て直せなきゃ、どのみち先はない。

「たしかにな。せっかく面白くなりそうだし、やめたらもったいないわ」

そう言って、和真がいつもの調子で笑う。

「面白くなりそうってなんだよ」
「だってさ、ここから作り直すほうがエンジニアっぽいじゃん。今の方が状況的には詰んでるけど、詰んでから始める方が燃えるだろ」

こいつはたまに、本当に意味がわからないことを平然と言う。

「ちなみに、俺は残る。お前とやるって決めたからね」

和真のその言い方があまりにも普通で。
重たい約束とかじゃなく、“今日の作業予定”を話すみたいな温度だった。
だからこそ、逆にすっと刺さった。

「そのつもりで資料まとめてきた。作り直そう」

その夜から、俺たちは動き始めた。



そこからはただ必死だった。

盗まれた部分は全部捨てた。
設計をゼロから引き直して、流出していないコアを拾って、また一から組み上げた。

悔しいとか腹が立つとか考える暇もなく、作って、直して、出す。それだけだった。

和真は最初から最後まで、態度を一切変えなかった。
愚痴も言わなかったし、俺を責めることも、過剰に励ますこともなかった。
ただ隣で、同じペースで動き続けた。

それがどれだけ救いだったか、今でもうまく言葉にできない。

寝たかどうかも覚えていないくらい働いて、気づいたら一年後には別のプロダクトが走り出していた。
投資も入った。ユーザーも増えた。

「倒れるなよ、社長」

和真はいつもの飄々とした表情で言う。

「まだ社長って規模じゃないよ」
「肩書きはもう社長だろ」

俺の会社は生き残った。
でも、あの一件以来、人を雇う時は必ず見るようになった。

能力よりも先に、距離感とか視線とか、話す時の間とか、そういうところに意識が向くようになった。
疑っているというよりは、同じ失敗を繰り返さないための確認に近い。

わざと任せてみる。
わざと判断を委ねてみる。

「涼さ、性格悪くなったよな」

和真がデスクにコーヒーを置きながら、笑いを堪えるように言う。

「リスク管理って言ってほしいな」
「言い方変えただけじゃん」

完全に信用するのは怖い。
でも、会社をやる以上、人と関わらないわけにもいかない。
そのバランスをずっと探してた。

そんな時に出会ったのが、颯太だった。

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