【完結】クズ彼氏に悩んでた俺が、イケメン社長に拾われて溺愛されてます

砂原紗藍

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side 神谷 拓実(たくみ)①

3.再会は、想定外のタイミングで

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その瞬間、互いの時間が一瞬止まった。

「遥……」
「……拓実?」

お互いの名前を呼び合って、しばしの沈黙。
まさか、こんなところで再会するなんて。

「マジか。遥、ばあちゃん助けてくれたの、お前だったの……!?」

思わず声を張り上げると、遥はびっくりした顔で目を見開いた。

「えっ……てことは、拓実のお祖母さん?」
「そうよ。あら、あなたたち……知り合い?」

いつの間にか現れて、何事もなかったようにスカーフを整えてるその姿は、やっぱりどこか“ただの祖母”ではない。

「知り合いっていうか……まあ、偶然というか」

数日前、たまたま駅前で出会っただけ。
ほんの短いやりとりだったのに、まさかこんな再会の仕方をするとは。

……それにしても、あのあと遥と例の“彼氏”はどうなったんだろう。

ふと視線を落とすと、彼の足元に無造作に置かれたスーツケースが目に入った。

「その荷物、もしかして……」
「想像に任せるけど」

軽く返すその声が、妙に乾いてるように感じたのは気のせいか。
冗談っぽく言ってるのに、何か、抱えてるものがあるような目。

――やっぱ、何かあったんだろうな。

聞きたいことは山ほどある。
でも今は、ちゃんと顔を見て、落ち着いて話がしたかった。

「……まあ、ひとまず。お礼も兼ねて、ゆっくり話せるとこ行こう」

そう言ってスーツケースを持とうとしたら、遥がすっと手を出して制した。

「いいって、自分で持つから」
「わかった」

エレベーターのボタンを押し、三人で乗り込む。
扉が閉まり、動き出したタイミングで、遥がぽつりとつぶやいた。

「……なぁ、どこ行くんだよ」
「うちの会社の応接室」
「え!? いや、そんな場所に俺なんかが入っていいわけ?」

その一言に、思わず吹き出しそうになった。

……ああ、なるほど。
こいつ、俺とばあちゃんの素性をまだ知らないんだった。

「社長どころか会長がOK出してんだから、大丈夫だよ」
「……社長? 会長? え、なんで?」

遥の目が疑問符を浮かべてるのを見て、思わず苦笑いが漏れた。

「とりあえず入って」

応接室に案内し、ソファーに腰かけるよう手で促す。遥は戸惑いつつも、おとなしく座った。
スーツケースを足元に置いて、その上に手を添えているのが、妙に健気だった。

「あなた、遥くんって言ったかしら。本当に今日はありがとうね」
「いや……あの、別に俺……」

その言葉をさえぎるように、俺は封筒を差し出した。中には五万円。

「はい、これ。ばあちゃんが世話になったお礼。迷惑かけて悪かったな。ありがとな」

遥は一瞬黙り込み、手の中の封筒をまじまじと見つめた。

「……いや、待って。なあ、なんでこんなに金入ってんの? 俺、タクシー代の五千円しか払ってねぇのに。これは、受け取れないって」

真っ直ぐな目でそう言われて、胸の奥がふっと温かくなった。

「御礼だから。気にしなくていいよ」

ばあちゃんも横でにこやかにうなずく。

「そうよ。貴方が助けてくれなかったら、今頃どうなってたか……。本当にありがとうね」
「……いや、でも、俺……」

何度も拒もうとする遥を見て、逆に居心地悪くなってくる。
欲のなさが眩しいくらいで、むしろこっちが試されてるみたいだ。

「……真面目か。ほんと、いい奴だな。そんなんだから、余計に気になっちまうじゃん」

ぽつりと口にした言葉は、自分でも意図せず漏れたものだった。遥が困ったように笑う。

「え、気に……? 俺、そんな立派なことしてねえし……」
「だから、そういうとこ。見返り求めないで動けるって、そう簡単にできるもんじゃないだろ」
「なんか照れるな、それ……」

遥が少しだけ視線を逸らして、口元に手を当てた。耳の先が、わずかに赤くなっているのが見えて、俺は思わず口角を緩めた。

こいつ、変に媚びたりもしない。遠慮しながらも言うことはちゃんと言うし、誰に対しても自然体だ。

――俺の周りには、こういう人間、意外といなかったかもしれない。

「はい、どうぞ」

コト、とコーヒーカップを差し出したのは、ばあちゃん。

「へえ……ばあちゃんが自らコーヒーいれるなんて珍しいな」

俺が言うと、ばあちゃんはツンとした顔で手を振った。

「私だってそれくらいするわよ。たまにはね」
「ふうん」
「……ほんとに、ありがとうございます」

遥が丁寧にお礼を言って、そっとコーヒーに口をつけた。

「そうだわ、私そろそろ会合に行かなきゃいけないの。拓実、後は頼んだわよ」
「あぁ。ばあちゃん、ありがとうな」

そう言って、ばあちゃん――いや、会長は立ち上がり、静かにドアを閉めてくれた。
きっと気を利かせてくれたんだろう。

応接室に残されたのは、俺と遥のふたりだけ。
急に静かになった空間に、カチリと時計の秒針の音が響く。

遥は手元のカップを見つめたまま、なにか言いたげに口を閉じた。
さっきまでより、ほんの少し距離が近くなったような、でもまだ探ってるような空気。

そろそろ言わなきゃな、と思いながら、軽く足を組み直して声をかけた。

「そういえば、遥の苗字はちゃんと聞いてなかったよな。なんていうの?」
「……え? 一ノ瀬、だけど」

ちょっと緊張したように言う遥に、俺は口角をゆるめる。

「一ノ瀬 遥。やっぱ綺麗な名前だな。響きがいい」
「……マジ?ありがと」

照れて視線をそらすその仕草が、また可愛い。

「俺も、ちゃんと伝えとこうと思ってさ」
「うん?」
「神谷 拓実。俺、ここの代表取締役社長やってる」

遥の手がぴたりと止まる。
少し間を置いて、ゆっくりこちらを見た。

「……えっ、代表取締役……社長って、拓実が“社長”? こんなでっかい会社の……」
「うん、そう言ってんじゃん」
「……え、ええっ? じゃあ……お祖母さんって……」
「ばあちゃんは、うちの会社の会長」
「……」

言葉をなくして固まってる遥の顔が、じわじわと赤くなっていく。

「……まじか……うわ、やっば……俺、さっきまでめちゃくちゃタメ口で……」

焦ったように顔を覆う遥の姿に、くすっと笑いがこみ上げる。

「いいって。敬語で話されるより、そのままのほうが楽。なんなら、これからもタメ口で頼むわ」
「……はあ。いや、なんか、色々追いつかない……」

その姿が、どこまでも飾らなくて――妙に、愛嬌がある。
それがまた、俺の心を引っ張ってくる。

「まあ……そのうち慣れるよ。な?」

声をかけると、遥がちらっと俺のほうを見た。
さっきまでより、ほんの少しだけ柔らかい目をしてて――なんか、それが妙に嬉しかった。


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