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光と記憶〜毒家族の野望、愛がすべてを覆す〜
20.解放の日、本物の家族
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拓実が電話を切り、健たちを睨みつけた。
「少し待ってもらえますか。専門家に確認します」
「専門家?」
健が嫌な予感を抱いたように顔をしかめる。
十分ほど経った頃、一台の車が霊園に入ってきた。義父たちの表情が硬くなる。
スーツ姿の男性が降りてきて、拓実に会釈した。
「お待たせしました」
「いえ。福田さん、状況を説明します」
拓実が簡潔に事情を話すと、福田さんが真剣な面持ちで頷いた。
「承知しました」
福田さんが健たちの前に立ち、名刺を差し出した。
「福田です。アークメディアホールディングスの顧問弁護士をしております」
「弁護士……?」
健が警戒したように名刺を受け取る。義父と義母も顔を見合わせ、明らかに動揺している。
福田さんが落ち着いた声で口を開いた。
「健さん、それからご両親。まず一つだけ、はっきりしておきます。一ノ瀬さんはもう成人されています」
「それがどうした」
義父が強がるように鼻で笑う。
「未成年時は親族が財産を管理できましたが、その権利は成人になった瞬間に消滅します。つまり今は、ご本人以外には一切、口を出す権利はありません」
義父が慌てて言葉を返す。
「で、でも! 私たちはちゃんとした後見人で——」
「後見人でいられたのは、未成年の間だけです。成年になった時点で終了しています」
福田さんは手元の書類を取り出した。整理された資料が、彼らの逃げ道を塞いでいく。
「確認しましたが、ご両親が残された預金や保険金は、今も一ノ瀬さん名義の口座に残っています。それを“借金返済に使う”などということはできません」
「そんな馬鹿な……」
「もし勝手に手を付ければ、それは横領罪にあたります」
義父と義母の顔が青ざめる。二人は互いに顔を見合わせたが、どちらも何も言えなかった。
「そ、そんなつもりは……」
「それに、『神谷さんと別れなければ金は渡さない』『慰謝料を請求する』という発言は立派な脅迫です」
健が食ってかかる。
「何言ってんだ! 脅迫なんて冗談じゃない、俺たちは家族として——」
「家族?」
拓実の声が氷のように冷たくなった。
「家族が財産を隠して、勝手に使おうするか? 墓を汚し、暴力を振るい、根拠のない慰謝料で脅迫するのが家族?」
「っ……」
拓実の言葉は容赦ない。そして福田さんが冷静に続ける。
「財産を本人に知らせずに管理し、勝手に使用しようとするのは、財産上の背任行為に該当する可能性があります」
「黙れ……!」
「さらに、今日の暴行も目撃されています。そして、根拠のない慰謝料請求で脅迫する行為は、恐喝未遂にあたります」
義父が立ち上がった。その顔は怒りで紅潮していた。
「生意気な……!」
「生意気?」
拓実も一歩前に出る。
「遥を一人で苦しませて、困った時だけ利用しようとする人たちに言われたくない」
福田さんが間に入った。
「皆さん、これ以上は法的措置を検討せざるを得ません」
「ほ、法的措置?」
「財産上の背任行為、脅迫、暴行、恐喝未遂の疑いもあります。警察に被害届を出すこともできます」
健たちの顔が絶望的になった。三人は互いに顔を見合わせたが、もう何も言い返せない。
「ただし」
福田さんが続ける。
「今後、一ノ瀬さんに一切連絡を取らず、近づかないと約束していただければ、今回は穏便に済ませます。もちろん、養子縁組の解消もです」
長い沈黙の後、義父が頭を下げた。
「……分かりました」
健が悔しそうに唇を噛み、頭を下げる。その拳は震えていたが、もう何も言えなかった。
「……二度と遥には近づきません」
義母も力なく頭を下げた。
三人は惨めな姿で、足早に霊園を去って行った。
その後ろ姿を見送ると、ようやく張り詰めていた緊張が解けていく。
そして、俺と拓実だけが両親の墓前に残された。
「遥、お前さ、一人で来るなんて駄目だろ」
「ごめん……心配かけたくなくて」
「何言ってんだよ。でも、もう大丈夫だな」
拓実が両親の墓の前にしゃがみ、丁寧に手を合わせた。
「お父さん、お母さん。初めまして。遥とお付き合いをしている、神谷拓実と申します」
俺は、何も言えずにその背中を見つめていた。
「――遥のこと、幸せにします」
手を合わせたまま、拓実が小さく笑った。
胸の奥がぎゅっと熱くなる。
その言葉はずるいくらい、真っ直ぐで。
「……もう、ずっと言ってるじゃん。そんなの」
拓実がゆっくり立ち上がり、俺のほうを振り返る。
「でも、ここで言いたかった。遥のご両親に、ちゃんと」
そして拓実は墓石に向き直り、深く頭を下げた。
「遥を、僕にください」
少し風が吹いて、拓実の髪が揺れた。
その横顔は真剣で、どこか柔らかい。まるで本当に両親に挨拶しているみたいで、俺の目頭が熱くなる。
「遥には、本当の家族が必要だから」
「拓実……」
「俺が、その家族になる」
心の奥の、ずっと冷えていた場所に触れられたみたいで――目の奥が滲む。
「泣くなよ」
「泣いてねぇし」
拓実が少しだけ笑って、俺の髪をくしゃっと撫でた。
両親の墓前で、俺たちは静かに抱き合った。拓実の温もりが、ずっと凍えていた心を溶かしていく。
長い戦いが、ようやく本当に終わった。
そして、新しい人生が始まろうとしていた。
「少し待ってもらえますか。専門家に確認します」
「専門家?」
健が嫌な予感を抱いたように顔をしかめる。
十分ほど経った頃、一台の車が霊園に入ってきた。義父たちの表情が硬くなる。
スーツ姿の男性が降りてきて、拓実に会釈した。
「お待たせしました」
「いえ。福田さん、状況を説明します」
拓実が簡潔に事情を話すと、福田さんが真剣な面持ちで頷いた。
「承知しました」
福田さんが健たちの前に立ち、名刺を差し出した。
「福田です。アークメディアホールディングスの顧問弁護士をしております」
「弁護士……?」
健が警戒したように名刺を受け取る。義父と義母も顔を見合わせ、明らかに動揺している。
福田さんが落ち着いた声で口を開いた。
「健さん、それからご両親。まず一つだけ、はっきりしておきます。一ノ瀬さんはもう成人されています」
「それがどうした」
義父が強がるように鼻で笑う。
「未成年時は親族が財産を管理できましたが、その権利は成人になった瞬間に消滅します。つまり今は、ご本人以外には一切、口を出す権利はありません」
義父が慌てて言葉を返す。
「で、でも! 私たちはちゃんとした後見人で——」
「後見人でいられたのは、未成年の間だけです。成年になった時点で終了しています」
福田さんは手元の書類を取り出した。整理された資料が、彼らの逃げ道を塞いでいく。
「確認しましたが、ご両親が残された預金や保険金は、今も一ノ瀬さん名義の口座に残っています。それを“借金返済に使う”などということはできません」
「そんな馬鹿な……」
「もし勝手に手を付ければ、それは横領罪にあたります」
義父と義母の顔が青ざめる。二人は互いに顔を見合わせたが、どちらも何も言えなかった。
「そ、そんなつもりは……」
「それに、『神谷さんと別れなければ金は渡さない』『慰謝料を請求する』という発言は立派な脅迫です」
健が食ってかかる。
「何言ってんだ! 脅迫なんて冗談じゃない、俺たちは家族として——」
「家族?」
拓実の声が氷のように冷たくなった。
「家族が財産を隠して、勝手に使おうするか? 墓を汚し、暴力を振るい、根拠のない慰謝料で脅迫するのが家族?」
「っ……」
拓実の言葉は容赦ない。そして福田さんが冷静に続ける。
「財産を本人に知らせずに管理し、勝手に使用しようとするのは、財産上の背任行為に該当する可能性があります」
「黙れ……!」
「さらに、今日の暴行も目撃されています。そして、根拠のない慰謝料請求で脅迫する行為は、恐喝未遂にあたります」
義父が立ち上がった。その顔は怒りで紅潮していた。
「生意気な……!」
「生意気?」
拓実も一歩前に出る。
「遥を一人で苦しませて、困った時だけ利用しようとする人たちに言われたくない」
福田さんが間に入った。
「皆さん、これ以上は法的措置を検討せざるを得ません」
「ほ、法的措置?」
「財産上の背任行為、脅迫、暴行、恐喝未遂の疑いもあります。警察に被害届を出すこともできます」
健たちの顔が絶望的になった。三人は互いに顔を見合わせたが、もう何も言い返せない。
「ただし」
福田さんが続ける。
「今後、一ノ瀬さんに一切連絡を取らず、近づかないと約束していただければ、今回は穏便に済ませます。もちろん、養子縁組の解消もです」
長い沈黙の後、義父が頭を下げた。
「……分かりました」
健が悔しそうに唇を噛み、頭を下げる。その拳は震えていたが、もう何も言えなかった。
「……二度と遥には近づきません」
義母も力なく頭を下げた。
三人は惨めな姿で、足早に霊園を去って行った。
その後ろ姿を見送ると、ようやく張り詰めていた緊張が解けていく。
そして、俺と拓実だけが両親の墓前に残された。
「遥、お前さ、一人で来るなんて駄目だろ」
「ごめん……心配かけたくなくて」
「何言ってんだよ。でも、もう大丈夫だな」
拓実が両親の墓の前にしゃがみ、丁寧に手を合わせた。
「お父さん、お母さん。初めまして。遥とお付き合いをしている、神谷拓実と申します」
俺は、何も言えずにその背中を見つめていた。
「――遥のこと、幸せにします」
手を合わせたまま、拓実が小さく笑った。
胸の奥がぎゅっと熱くなる。
その言葉はずるいくらい、真っ直ぐで。
「……もう、ずっと言ってるじゃん。そんなの」
拓実がゆっくり立ち上がり、俺のほうを振り返る。
「でも、ここで言いたかった。遥のご両親に、ちゃんと」
そして拓実は墓石に向き直り、深く頭を下げた。
「遥を、僕にください」
少し風が吹いて、拓実の髪が揺れた。
その横顔は真剣で、どこか柔らかい。まるで本当に両親に挨拶しているみたいで、俺の目頭が熱くなる。
「遥には、本当の家族が必要だから」
「拓実……」
「俺が、その家族になる」
心の奥の、ずっと冷えていた場所に触れられたみたいで――目の奥が滲む。
「泣くなよ」
「泣いてねぇし」
拓実が少しだけ笑って、俺の髪をくしゃっと撫でた。
両親の墓前で、俺たちは静かに抱き合った。拓実の温もりが、ずっと凍えていた心を溶かしていく。
長い戦いが、ようやく本当に終わった。
そして、新しい人生が始まろうとしていた。
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