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【第三章】揺れる心
1.抱きしめる理由
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ある日の夜。
私はキッチンで夕食の準備をしていた。
ピンポーン――。
インターホンが鳴る。
「お帰りなさい!」
ドアを開けると、柊也さんが立っていた。
でも、今日はいつもよりずっと疲れて見える。
「ただいま」
「お疲れ様です。今日……大変でしたか?」
「まあ、少しな」
そう言いながら、柊也さんは靴を脱ぎ、ゆっくりリビングのソファへ座った。
私は急いでお茶を淹れ、そっと差し出す。
「はい、どうぞ」
柊也さんは一口飲んで、ふっと力が抜けたように目を細めた。
「……美味い」
「よかったです」
私は、その隣に腰を下ろした。
少しだけ、控えめに距離を置いて。
「柊也さん」
「ん?」
勇気を振り絞って顔を上げる。
「柊也さんのこと……もっと知りたいです」
ほんの一瞬、柊也さんが瞬きを止めた。
驚いたような、戸惑ったような、そんな表情。
「俺のことを?」
「はい。過去のこととか、好きなものとか……なんでも。私、柊也さんのことをもっと知りたいんです」
柊也さんは、お茶の湯気をぼんやり眺めるように視線を落とした。
そして、小さく息を吐く。
「……分かった。話す」
その声は、どこか覚悟を決めたようだった。
「俺の母は、俺が十五の時に亡くなった。病気でな。突然倒れて、それから……あっという間だった」
声がわずかに震えた。
「俺にできたのは、ただ手を握ることだけだった」
気づいたら私は、そっと柊也さんの手に触れていた。
柊也さんは驚いたように私を見て、ゆっくり握り返してくれた。
「母が亡くなってから、父は仕事しか見なくなった。家にも戻らなくなって……俺は、ほとんど一人だった」
ぽつりと落とされた言葉が、胸の奥に重く響く。
「だから……人に心を開くのは得意じゃない。ずっとそうだった」
柊也さんは、真っ直ぐに私を見つめる。
「でも、君は――なんでだろうな。一緒にいると……心が温かくなる」
その瞬間、柊也さんの腕が私を強く抱き寄せた。
「君がいてくれて……本当によかった」
耳元で低い声が震えた。
「はい。柊也さんのそばにいます」
私もそっと抱きしめ返す。
胸の中が温かくて、じんわり満たされていく。
柊也さんといるだけで、私はこんなにも心があたたかくなるんだ。
――それから数日後。
夜になって急に激しい雷雨が始まった。
ゴロゴロ……ピカッ――!
「っ……」
部屋の中が一瞬で白く照らされ、私は思わず肩をすくめた。
雷……本当に苦手だ。
ケージの中のシンちゃんも、小さく丸まったまま震えている。
「シンちゃん、大丈夫だよ……」
そう声をかけながら、実は私のほうが怖くてたまらなかった。
ゴロゴロゴロッ……!
「ひっ……」
うずくまったその時――。
ピンポーン。
こんな夜に……?
モニターを見ると、冬也さんが立っていた。
「……柊也さん?」
慌てて玄関を開けると、彼は息を少し荒くしながら私の顔を覗きこんだ。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです……!」
そう言った瞬間、雷がまた鳴った。
ゴロゴロッ!!
「きゃっ!」
自分でも驚くほど反射的に、柊也さんの胸にしがみついてしまった。
「……怖いのか」
「い、いえっ……あの……!」
否定したいのに、声が震えている。
柊也さんは少しだけためらったあと、そっと背中に手を回した。
「怖いなら、そばにいる」
その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。
「俺も……君が気になって、来ずにはいられなかった」
「……柊也さん」
雷がまた鳴ると、私はしがみついたまま離れられなかった。
「……ベッドで休め。俺がそばにいる」
「で、でも……」
「心配するな。何もしない」
柊也さんは優しく微笑み、私をベッドへ誘導した。
私はキッチンで夕食の準備をしていた。
ピンポーン――。
インターホンが鳴る。
「お帰りなさい!」
ドアを開けると、柊也さんが立っていた。
でも、今日はいつもよりずっと疲れて見える。
「ただいま」
「お疲れ様です。今日……大変でしたか?」
「まあ、少しな」
そう言いながら、柊也さんは靴を脱ぎ、ゆっくりリビングのソファへ座った。
私は急いでお茶を淹れ、そっと差し出す。
「はい、どうぞ」
柊也さんは一口飲んで、ふっと力が抜けたように目を細めた。
「……美味い」
「よかったです」
私は、その隣に腰を下ろした。
少しだけ、控えめに距離を置いて。
「柊也さん」
「ん?」
勇気を振り絞って顔を上げる。
「柊也さんのこと……もっと知りたいです」
ほんの一瞬、柊也さんが瞬きを止めた。
驚いたような、戸惑ったような、そんな表情。
「俺のことを?」
「はい。過去のこととか、好きなものとか……なんでも。私、柊也さんのことをもっと知りたいんです」
柊也さんは、お茶の湯気をぼんやり眺めるように視線を落とした。
そして、小さく息を吐く。
「……分かった。話す」
その声は、どこか覚悟を決めたようだった。
「俺の母は、俺が十五の時に亡くなった。病気でな。突然倒れて、それから……あっという間だった」
声がわずかに震えた。
「俺にできたのは、ただ手を握ることだけだった」
気づいたら私は、そっと柊也さんの手に触れていた。
柊也さんは驚いたように私を見て、ゆっくり握り返してくれた。
「母が亡くなってから、父は仕事しか見なくなった。家にも戻らなくなって……俺は、ほとんど一人だった」
ぽつりと落とされた言葉が、胸の奥に重く響く。
「だから……人に心を開くのは得意じゃない。ずっとそうだった」
柊也さんは、真っ直ぐに私を見つめる。
「でも、君は――なんでだろうな。一緒にいると……心が温かくなる」
その瞬間、柊也さんの腕が私を強く抱き寄せた。
「君がいてくれて……本当によかった」
耳元で低い声が震えた。
「はい。柊也さんのそばにいます」
私もそっと抱きしめ返す。
胸の中が温かくて、じんわり満たされていく。
柊也さんといるだけで、私はこんなにも心があたたかくなるんだ。
――それから数日後。
夜になって急に激しい雷雨が始まった。
ゴロゴロ……ピカッ――!
「っ……」
部屋の中が一瞬で白く照らされ、私は思わず肩をすくめた。
雷……本当に苦手だ。
ケージの中のシンちゃんも、小さく丸まったまま震えている。
「シンちゃん、大丈夫だよ……」
そう声をかけながら、実は私のほうが怖くてたまらなかった。
ゴロゴロゴロッ……!
「ひっ……」
うずくまったその時――。
ピンポーン。
こんな夜に……?
モニターを見ると、冬也さんが立っていた。
「……柊也さん?」
慌てて玄関を開けると、彼は息を少し荒くしながら私の顔を覗きこんだ。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです……!」
そう言った瞬間、雷がまた鳴った。
ゴロゴロッ!!
「きゃっ!」
自分でも驚くほど反射的に、柊也さんの胸にしがみついてしまった。
「……怖いのか」
「い、いえっ……あの……!」
否定したいのに、声が震えている。
柊也さんは少しだけためらったあと、そっと背中に手を回した。
「怖いなら、そばにいる」
その言葉が、胸の奥にじんわりと広がっていく。
「俺も……君が気になって、来ずにはいられなかった」
「……柊也さん」
雷がまた鳴ると、私はしがみついたまま離れられなかった。
「……ベッドで休め。俺がそばにいる」
「で、でも……」
「心配するな。何もしない」
柊也さんは優しく微笑み、私をベッドへ誘導した。
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