社長に拾われた貧困女子、契約なのに溺愛されてます―現代シンデレラの逆転劇―

砂原紗藍

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【第四章】彼の隣で、少し強くなる

3.シンデレラには、なれなくても

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会場は、都内屈指の高級ホテルだった。
エントランスには高級車が並び、ドアマンが次々と客を迎えている。

「……すごい……」

思わず漏れた声に、柊也さんが横を見る。

「緊張してる?」
「……はい。正直、かなり」
「大丈夫。俺がついてる」

そう言って、私の手を包むように握った。
その温もりに、張り詰めていた胸が少しだけ緩む。

二人で足を踏み入れたホールはまるで別世界だった。
大きなシャンデリアが眩く輝き、ドレスアップした人々が優雅に談笑している。

……私、ここにいていいのかな。

一瞬、足が止まりかける。

「大丈夫だ」

その一言に、そっと背中を押された気がした。

「柊也」

聞き覚えのある声に振り向くと、志津さんがこちらへ歩いてくる。

「来てくれてありがとう。カヤさんも、今日は本当に綺麗ね」
「ありがとうございます……」
「堅苦しくならなくていいのよ。楽しんでいって」

志津さんが離れたあと、柊也さんは次々と知人に挨拶を始めた。
私は隣で微笑みながら、必死に場に溶け込もうとする。

「彼女さんですか?」
「はい」
「お似合いですね」

そのたびに頬が熱くなる。
この人の隣に立っていることが、ただ嬉しかった。

――その時だった。

「あら、カヤさん」

背中に、ひやりとしたものが走る。
振り返ると美咲さんが立っていた。

大丈夫……大丈夫。
自分に言い聞かせる。

「素敵なドレスね」

美咲さんは微笑んでいた。
でもその笑顔は……冷たい。

「ありがとうございます」

私は、できるだけ普通に返事をした。

「……そのドレス、どちらで?」
「知人からお借りしました」

一瞬だけ、美咲さんの目が鋭くなった。

「そう……実はね、私があなたのためにドレスを用意していたの」
「え……?」
「でも、配送の手違いで届かなかったそうで。ごめんなさいね」

謝罪の言葉とは裏腹に、声には感情がない。

――わざと、だ。
私がドレスを着られずに恥をかくように。

「大丈夫です。助けてくださる方がいましたから」

まっすぐに見つめ返すと、美咲さんは一瞬言葉に詰まった。

「……それは、よかったわね」

そう言い残して、彼女は踵を返す。
ほっと息を吐いた。

……怖かった。でも、今回は負けなかった。

「カヤ」

気づくと、柊也さんがすぐそばにいた。
心配そうな視線が、私を捉える。

「大丈夫か? 美咲が何か……言ったのか?」
「大丈夫です。本当に、何も」

そう言って笑ってみせる。
これ以上、心配をかけたくなかった。

柊也さんは少しだけ眉をひそめたけれど、それ以上は追及しなかった。
代わりに、私の手をもう一度、強く握る。

「何かあったら、すぐ言え」
「……はい」

その温もりに、張りつめていた気持ちが少しほどけた。

ちょうどその時、ホールに音楽が流れ始める。

「カヤ」

柊也さんが静かに手を差し出した。

「踊らないか?」
「え……でも、私、ダンスなんて……」
「大丈夫だ。俺がリードする」

穏やかな微笑みに胸が跳ねる。

「ついてきて」
「……はい」

差し出された手を取ると、ダンスフロアへと導かれた。

周りの視線が一斉に私たちに集まる。
緊張で足が震えそうになった。

柊也さんの手が、そっと腰に回る。

……近い。
息遣いまで感じるほど。

「俺を見て」

優しい声に促され、顔を上げる。
深く落ち着いた瞳がまっすぐ私を映していた。

「ステップは簡単だ。俺に合わせればいい」

最初はぎこちなかった足取りも、次第に音楽に馴染んでいく。

「上手だ」
「え……本当ですか?」
「ああ」

くるり、と身体が回される。
淡いブルーのドレスの裾がふわりと広がった。

「わ……!」

思わず声が漏れる。

楽しい。
こんなに、心が軽くなるなんて。

周囲の視線も、美咲さんの存在も――
すべてが遠のいていく。

今、この瞬間は。
柊也さんと、私だけ。

「カヤ」
「はい?」
「今夜、君が一番綺麗だ」

頬が、一気に熱くなる。

「そ、そんな……」
「本当だ」

低く、確かな声。
引き寄せられた腕の中。
胸がいっぱいになって、言葉が出てこない。
こんな気持ち、初めてだった。

――その時、ふと時計が目に入る。

22時45分。

「あ……」
「どうした?」
「シンちゃん……一人で待ってるので。早く帰らないと」

申し訳なさそうに見上げると、柊也さんは一瞬驚いたあと、すぐに微笑んだ。

「そうだったな」
「すみません……」
「いい。ちゃんと大事にしてる証拠だ」

その言葉に、胸の奥がぎゅっとなった。



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