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【第四章】運命の分岐点
1.穏やかな日々の後に
それから、僕と湊は正式に恋人になった。
でも、何かが大きく変わったわけじゃなかった。
大学に通い、帰宅すれば湊がいる。
一緒に夕食を作って、並んで食べる。
時々アトリエで湊のモデルをする。
「疲れてない?」
「大丈夫」
「そうか。でも、無理したらダメだよ」
湊は僕の頬に触れて優しく微笑む。
むしろ今までと同じように――いや、それ以上に、湊は優しかった。
モデルを終えると、湊は必ず僕を抱きしめてくれた。
「ユウといると、心が落ち着くんだ」
湊は僕の髪を撫でながら、そう言った。
「……僕も」
「そっか。じゃあ、これからもずっと俺の側にいて」
「……うん」
湊は微笑んで、僕の額にキスをした。
本当に幸せだった。
――でも。
ある日。
大学のカフェで友人と話していると、近くのテーブルから女子たちの声が聞こえてきた。
「ねえ、これ見て」
「何それ?」
「天才画家・湊、謎の美少年と密会だって」
「うわ、誰なんだろう。すごい綺麗な子っぽいけど……」
えっ……。
心臓がバクバクと鳴る。
僕は慌ててスマホで検索をした。
画面には、ゴシップサイトの記事が表示された。
記事には、僕と湊がアトリエの前で話している写真が載っていた。
顔は少しぼやけているけれど明らかに、僕だった。
コメント欄には、様々な憶測が飛び交っている。
『モデル?』
『恋人じゃない?』
『湊先生、そういう趣味なんだ』
心臓が、凍りついた。
「……っ」
「ユウ? どうした? 顔色悪いよ」
「あ……いや、ちょっと気分が……」
「大丈夫? 」
「大丈夫……」
僕は慌ててその場を離れた。
トイレに駆け込んで、個室で一人。
「……っ」
手が、震えていた。
湊と僕の関係がバレるかもしれない。
有名人なのに、こんな記事が出てしまった。
「どうしよう……」
不安がどんどん大きくなっていく。
僕のせいで……湊に迷惑かけてる……。
大学が終わってから、僕は湊に電話をかけた。
「もしもし」
『ユウ? どうした?』
「あのさ……今日、記事が……」
『ああ、見たよ。大丈夫だから、心配しないで』
湊の声は落ち着いていたけど、僕の不安は消えなかった。
「……ごめん。僕のせいで……」
『何言ってんの、ユウのせいじゃないよ』
「でも、僕……湊の迷惑になってるんじゃない?」
『なってない』
湊の声は、きっぱりとしていた。
『お前は何も悪くないよ。とにかく帰っておいで』
僕は湊の自宅ではなくアトリエの方へ向かった。
インターホンを押すと、すぐに湊が出てきた。
「おかえり」
「ただいま……」
湊は僕を中に入れて強く抱きしめた。
「……っ」
「心配した?」
「……うん」
「ごめんね」
「違う……僕が勝手に……」
「いや、俺のせいだ」
湊は僕を離して、顔を覗き込んだ。
「ユウと一緒にいられるなら記事なんて、どうでもいい。わかった?」
「……うん」
でも心のどこかで、まだ不安は残っていた。
*
それから一週間後。
僕が大学からの帰り道、黒いスーツの男たちに声をかけられた。
「七瀬ユウくんですね?」
「え……はい」
「少し、お話をさせていただけますか」
「あなた方は……」
「我々は、湊様のご実家の者です」
男の言葉に、僕は息を呑んだ。
「……何の用ですか?」
「湊様との関係について、お聞きしたいのです」
男たちは、僕を近くのカフェへ連れて行った。
個室に通されて、向かい合って座る。
「湊様は、財閥の御曹司。次期当主候補でもあります」
「……はい」
「しかし、最近は絵ばかり描いて、家業に関心を示されません」
男は冷たい視線で僕を見た。
「その原因は、あなたにあるのではないかと」
「え……」
「あなたが湊様に近づいてから、湊様はますます家業から遠ざかっている」
「そんな……僕は、ただ……」
「わかっています。しかし、あなたの存在が湊様の将来を狂わせているんです」
男は、テーブルに封筒を置いた。
「慰謝料です。これを受け取って、湊様から離れていただきたい」
「……そんな……」
「あなたのためでもあります。財閥の世界は、一般の方が生きていける場所ではありません」
男の言葉が、胸に突き刺さる。
「湊様にはもっとふさわしい相手がいる。あなたでは、湊様の足枷になるだけです」
「……っ」
「では、失礼します。良い返事を期待しています」
男たちは、そう言って去っていった。
テーブルに残された封筒を見つめながら、僕は震えていた。
その日は部屋で一人、考え込んでいた。
湊の家族の言葉が頭から離れない。
“君の存在が湊様の将来を狂わせている”
ベッドに横になって、天井を見つめる。
湊は世界的に有名な画家で、大財閥の御曹司。
それなのに、僕はただの大学生で何の取り柄もない。
「釣り合わないよね……」
でも、湊のことが好きだ。
本当に、大好きだ。
僕は湊の未来を奪いたくない。
どうすればいいんだろう……。
「……っ」
涙が止まらなくて、僕は顔を伏せた。
でも、何かが大きく変わったわけじゃなかった。
大学に通い、帰宅すれば湊がいる。
一緒に夕食を作って、並んで食べる。
時々アトリエで湊のモデルをする。
「疲れてない?」
「大丈夫」
「そうか。でも、無理したらダメだよ」
湊は僕の頬に触れて優しく微笑む。
むしろ今までと同じように――いや、それ以上に、湊は優しかった。
モデルを終えると、湊は必ず僕を抱きしめてくれた。
「ユウといると、心が落ち着くんだ」
湊は僕の髪を撫でながら、そう言った。
「……僕も」
「そっか。じゃあ、これからもずっと俺の側にいて」
「……うん」
湊は微笑んで、僕の額にキスをした。
本当に幸せだった。
――でも。
ある日。
大学のカフェで友人と話していると、近くのテーブルから女子たちの声が聞こえてきた。
「ねえ、これ見て」
「何それ?」
「天才画家・湊、謎の美少年と密会だって」
「うわ、誰なんだろう。すごい綺麗な子っぽいけど……」
えっ……。
心臓がバクバクと鳴る。
僕は慌ててスマホで検索をした。
画面には、ゴシップサイトの記事が表示された。
記事には、僕と湊がアトリエの前で話している写真が載っていた。
顔は少しぼやけているけれど明らかに、僕だった。
コメント欄には、様々な憶測が飛び交っている。
『モデル?』
『恋人じゃない?』
『湊先生、そういう趣味なんだ』
心臓が、凍りついた。
「……っ」
「ユウ? どうした? 顔色悪いよ」
「あ……いや、ちょっと気分が……」
「大丈夫? 」
「大丈夫……」
僕は慌ててその場を離れた。
トイレに駆け込んで、個室で一人。
「……っ」
手が、震えていた。
湊と僕の関係がバレるかもしれない。
有名人なのに、こんな記事が出てしまった。
「どうしよう……」
不安がどんどん大きくなっていく。
僕のせいで……湊に迷惑かけてる……。
大学が終わってから、僕は湊に電話をかけた。
「もしもし」
『ユウ? どうした?』
「あのさ……今日、記事が……」
『ああ、見たよ。大丈夫だから、心配しないで』
湊の声は落ち着いていたけど、僕の不安は消えなかった。
「……ごめん。僕のせいで……」
『何言ってんの、ユウのせいじゃないよ』
「でも、僕……湊の迷惑になってるんじゃない?」
『なってない』
湊の声は、きっぱりとしていた。
『お前は何も悪くないよ。とにかく帰っておいで』
僕は湊の自宅ではなくアトリエの方へ向かった。
インターホンを押すと、すぐに湊が出てきた。
「おかえり」
「ただいま……」
湊は僕を中に入れて強く抱きしめた。
「……っ」
「心配した?」
「……うん」
「ごめんね」
「違う……僕が勝手に……」
「いや、俺のせいだ」
湊は僕を離して、顔を覗き込んだ。
「ユウと一緒にいられるなら記事なんて、どうでもいい。わかった?」
「……うん」
でも心のどこかで、まだ不安は残っていた。
*
それから一週間後。
僕が大学からの帰り道、黒いスーツの男たちに声をかけられた。
「七瀬ユウくんですね?」
「え……はい」
「少し、お話をさせていただけますか」
「あなた方は……」
「我々は、湊様のご実家の者です」
男の言葉に、僕は息を呑んだ。
「……何の用ですか?」
「湊様との関係について、お聞きしたいのです」
男たちは、僕を近くのカフェへ連れて行った。
個室に通されて、向かい合って座る。
「湊様は、財閥の御曹司。次期当主候補でもあります」
「……はい」
「しかし、最近は絵ばかり描いて、家業に関心を示されません」
男は冷たい視線で僕を見た。
「その原因は、あなたにあるのではないかと」
「え……」
「あなたが湊様に近づいてから、湊様はますます家業から遠ざかっている」
「そんな……僕は、ただ……」
「わかっています。しかし、あなたの存在が湊様の将来を狂わせているんです」
男は、テーブルに封筒を置いた。
「慰謝料です。これを受け取って、湊様から離れていただきたい」
「……そんな……」
「あなたのためでもあります。財閥の世界は、一般の方が生きていける場所ではありません」
男の言葉が、胸に突き刺さる。
「湊様にはもっとふさわしい相手がいる。あなたでは、湊様の足枷になるだけです」
「……っ」
「では、失礼します。良い返事を期待しています」
男たちは、そう言って去っていった。
テーブルに残された封筒を見つめながら、僕は震えていた。
その日は部屋で一人、考え込んでいた。
湊の家族の言葉が頭から離れない。
“君の存在が湊様の将来を狂わせている”
ベッドに横になって、天井を見つめる。
湊は世界的に有名な画家で、大財閥の御曹司。
それなのに、僕はただの大学生で何の取り柄もない。
「釣り合わないよね……」
でも、湊のことが好きだ。
本当に、大好きだ。
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どうすればいいんだろう……。
「……っ」
涙が止まらなくて、僕は顔を伏せた。
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