【完結】ノンケだった俺が、敵対企業の年下イケメンCEOに堕とされました

砂原紗藍

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【第1章】 君に教わる恋のルール

5.ノンケの決断と、予期せぬ衝撃

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――朝から、胃が痛い。

よく考えたら、昨夜あんなことがあって、今日こうして普通に出社してる自分を本気で褒めたい。
何もなかった顔してるけど、内側は全然平常じゃない。

デスクを見ると、中川がもう仕事を始めていた。
背筋の伸びた、いつも通りの真面目な横顔。

「おはようございます、瀬戸さん」
「……おはよう」

声が微妙に上ずった。
あ、最悪。

中川の視線が一瞬だけこちらを探るのがわかる。
そりゃそうだ。昨日、あんな感じでホテルを断って、ほぼ逃げたようなもんだ。

その時、スマホが震えた。

『おはよう、京介。昨日はありがとう』

……慧。

朝から送ってくるなよ。
心臓に悪い。

画面を伏せるみたいにスマホを裏返す。
ドキドキしてる自分が情けない。


午前中、仕事はまったく頭に入らなかった。
パソコンの画面は見ているけど、浮かんでくるのは慧の顔ばかり。

唇の感触。
胸に触れられたときの、あの変な痺れ。
耳元で低く囁かれた声。

……だめだ、思い出すな。

考えちゃいけない。
恥ずかしくてたまらない。

「……やば」

気づいたら、頬が熱くなっていた。
周りに見られてないか、無意識に視線を走らせる。

「瀬戸さん」

ふいに名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。

「あ、ああ」
「お昼、ご一緒してもいいですか」

中川が、少しだけ緊張した顔で立っていた。

断れるわけない。

「……いいよ」

短く答えると、中川はほっとしたように微笑んだ。

……ちゃんと、答えを出さないと。

俺はそう思いながら、再び画面に視線を戻した。



会社近くのカフェ。二人きりの席。
中川の真剣な顔を見て、俺は思った。

この人は、本気で俺のことを好きでいてくれた。
でも、俺の心にあるのは――別の人の顔だ。

黒髪のイケメン。優しい笑顔。温かい腕。
慧の顔しか、浮かばない。

……これが、答えなんだろう。

「瀬戸さん。昨日の返事……」
「……うん。ちゃんと話したくて」

覚悟を決めた。
慧が言ってたもんな。曖昧が一番よくないって。

「中川、お前の気持ちは嬉しい。本当に」
「……はい」
「でも、俺……他に気になる人ができた」

中川の表情がほんの一瞬だけ曇る。
その変化がわかってしまって、胸がちくっと痛んだ。

「そうですか」

中川はそれ以上何も言わず、コーヒーを一口飲む。

「俺はお前のこと尊敬してる。仕事仲間として、すごく信頼してるよ」

少しの沈黙。
それから、中川は小さく笑った。

「わかりました。ありがとうございます、ちゃんと答えてくれて」
「中川……」
「瀬戸さんが幸せになれるなら、俺はそれでいいです。でも――もし、何かあったら。その時は俺のことも思い出してください」

そう言って、中川は立ち上がった。

「じゃあ、午後も頑張りましょう」
「……ああ」

背中を見送りながら、思わずため息が漏れる。

……これでよかったんだ。
曖昧なまま引き延ばすより、ずっと。

スマホを見たら、慧からメッセージが来てた。

『京介、今度はご飯食べに行こう』

『わかった』

すぐに返信した自分にちょっと引く。

『今週は仕事が忙しくて、なかなか会えないかも』
『無理すんなよ』
『ありがとう。来週、落ち着いたら会いたいな』
『……ああ』
『楽しみにしてる。今日も一日頑張って』

画面を見てるうちに、自然と口元が緩んでいた。

――それから数日。
毎日のように、慧からメッセージが来た。

「今日も遅くまで仕事」
「疲れた」
「京介に会いたい」

画面越しでも繋がってる感じがして、なんとなく嬉しかった。



そして、月曜。
プレゼン大会当日。

結局、慧とは会わずじまいだった。
忙しすぎてタイミングなんて皆無。

都内No.1ビルの最上階。
ガラス張りの会議室から見える景色は確かに綺麗だけど、正直どうでもいい。

投資家が二十人以上。空気は張りつめている。

今日は音楽フェス「SONIC WAVE」の配信を誰に任せるか――その決定だ。
俺はステラレコードとして、配信権を取るためのプレゼンをする。

「次、名波さんのプレゼンですね」

担当者の声が聞こえる。

――名波。
新興音楽配信プラットフォーム「ECHO-エコー-」のCEO、27歳。

社名は最近業界紙で見かけるようになったから名前くらいは知ってる。

でも、顔は知らない。

三年前、先代社長の急逝で倒産寸前だったが、ライブ配信特化の技術開発で複数の特許を取得。

「天才CEO、技術は一流、資金は三流」――業界ではそう評されている。

ただ、実績不足。大規模配信の経験もない。
今回のプレゼン参加も、技術評価枠での特別招待らしい。

正直、期待はしていなかった。

――その時。

会議室の前方に、一人の男が立つ。

「それでは、株式会社ECHO、代表の名波です」

……え?

心臓が、嫌な音を立てた。

黒髪。
整った顔。
優しくて、ずるい笑顔。

……慧……!?

頭が真っ白になる。

誕生日に失恋したとか。
恋人の練習だとか。
俺にあんなことしてきた男が――

ECHOの代表……?

……冗談だろ。

まさかの正体に、背中を冷たい汗が伝った。


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