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【第3章】恋人で、敵で。それでも惹かれ合う
3.次の一手は、企業の壁を越えて
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その夜。慧のマンション。
「……契約、来週まとまりそう」
その一言で、慧の表情が静かに固まった。
「そっか。でも、まだ終わってない」
「慧、現実を――」
「見てる」
被せるように言われて、言葉が止まる。
「俺は、最後まで足掻く」
……本当にこいつ、しぶとい。
「たとえ道が見えなくても、勝算が1%でも。俺は最後まで音楽を信じる。ECHOを信じる」
その言葉が、胸に刺さった。
慧は、本気だ。
負けると分かっていても、道がないと分かっていても。
情熱だけを頼りに、立ち続ける覚悟を決めている。
「京介。俺、島崎さんに直接会ってECHOの技術をもう一度正面から評価してもらう」
「いや、慧じゃ無理だろ」
「だとしても」
「だから……契約前の今なら、手がある」
「……何?」
俺は真っ直ぐに、慧の目を見た。
「俺は“ステラの専務”としては動けない。でも、“個人の瀬戸京介”としてなら島崎さんに、直接会える」
「お前、それ……本気で言ってる?」
「ああ。ECHOのテスト配信を見て思ったんだ。これを本番で使わないのは、業界にとって損失だって」
それは建前でもあり、本音でもある。
でも一番の理由は――。
「それに……お前が諦める姿は、見たくない」
「京介……」
「……恋人の肩を持つくらい、許せよな」
そう言った瞬間、慧が強く俺を抱きしめた。
「一緒に、業界を揺らそう」
「ああ」
俺はスマホを取り出し、島崎さんに連絡を入れた。
――まだ、勝負は終わっていない。
*
翌日、昼過ぎ。
都内のホテルラウンジ。
ガラス越しに差し込む光が、やけに眩しかった。
島崎プロデューサーは窓際の席でコーヒーを口にしていた。
「久しぶりだね、京介くん」
穏やかな声。
だが、その目は完全に“業界の人間”だった。
「お時間をいただいて、ありがとうございます」
「“個人的にECHOの件で”って言われた時点で、内容は察してるよ」
「……はい」
「君の立場で、よく来たなぁ」
それが、褒め言葉なのか警告なのか、わからない。
多分、両方だ。
深呼吸をひとつして、俺は言葉を選ぶ。
「……ECHOはライバルです。しかし、ECHOの技術は本物です。俺は、あれを埋もれさせたくないんです」
「なるほどね。正直に言うとさ、ECHOのテスト配信は想定以上だった。技術だけじゃない。何より“ライブの臨場感”を分かってる」
「……CEOは、配信を“体験”にしたいと言っていました」
「名波くんだろう?」
島崎さんは、俺を真っ直ぐ見た。
「ただ、SONIC WAVEは冒険だけじゃ回らない」
空気がぴんと張り詰める。
「ステラは安定だ。資金も運営も、トラブル対応も。失敗しない保証がある」
「……はい」
「でもな」
島崎さんは続けた。
「フェスは“今うまくいくか”だけじゃない。“次の十年”を見せられるかで価値が決まるんだ」
――次の十年。
慧が目指してる未来、そのものだ。
「ステラ単独でも、ECHO単独でもない。ステラの運営力とECHOの配信技術。両方を使うのは“あり”だと思ってる」
「それは……」
「ECHOには、“本番の第三ステージ”を担当してもらいたい。そして、ステラは全体統括とメインステージの配信を担う」
島崎さんが、そう言い切った。
俺は思わず目を見開いた。
「共同で……ってことですか?」
「もちろん、これは俺の提案だ。両社が合意して初めて成立する」
島崎さんは、俺の目を見た。
「ECHOにも同じ話をする。その上で、三者で正式に協議の場を設けるよ」
「……本当ですか?」
「ああ。ただし――ECHOにとって条件は厳しい。失敗すれば、翌年以降はステラ単独。成功すれば、来年は主配信の座を競ってもらう」
……重い。でも、現実的だ。
ECHOにとったら、甘い話じゃない。本番で失敗すれば……次はない。
「来週、ステラの役員会で正式に提案する。その前に、君の意見を聞かせてほしい」
「……俺はECHOと組むべきだと思ってます」
「そうか。なら、会議で戦ってもらうぞ」
島崎さんがにやりと笑った。俺は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、まだ早い」
島崎さんは背を向けながら言った。
「ここからが、修羅場だ」
ホテルを出た瞬間、スマホを取り出す。
震える指で慧にメッセージを打った。
『島崎さんに会った。共同でやる提案が出そうだ。本番で、ECHOが第三ステージを担当する可能性がある』
すぐに、既読がつく。
『京介。ありがとう。俺、やるよ』
その短い文字列を見て、胸が熱くなった。
――もう、後戻りはできない。
「……契約、来週まとまりそう」
その一言で、慧の表情が静かに固まった。
「そっか。でも、まだ終わってない」
「慧、現実を――」
「見てる」
被せるように言われて、言葉が止まる。
「俺は、最後まで足掻く」
……本当にこいつ、しぶとい。
「たとえ道が見えなくても、勝算が1%でも。俺は最後まで音楽を信じる。ECHOを信じる」
その言葉が、胸に刺さった。
慧は、本気だ。
負けると分かっていても、道がないと分かっていても。
情熱だけを頼りに、立ち続ける覚悟を決めている。
「京介。俺、島崎さんに直接会ってECHOの技術をもう一度正面から評価してもらう」
「いや、慧じゃ無理だろ」
「だとしても」
「だから……契約前の今なら、手がある」
「……何?」
俺は真っ直ぐに、慧の目を見た。
「俺は“ステラの専務”としては動けない。でも、“個人の瀬戸京介”としてなら島崎さんに、直接会える」
「お前、それ……本気で言ってる?」
「ああ。ECHOのテスト配信を見て思ったんだ。これを本番で使わないのは、業界にとって損失だって」
それは建前でもあり、本音でもある。
でも一番の理由は――。
「それに……お前が諦める姿は、見たくない」
「京介……」
「……恋人の肩を持つくらい、許せよな」
そう言った瞬間、慧が強く俺を抱きしめた。
「一緒に、業界を揺らそう」
「ああ」
俺はスマホを取り出し、島崎さんに連絡を入れた。
――まだ、勝負は終わっていない。
*
翌日、昼過ぎ。
都内のホテルラウンジ。
ガラス越しに差し込む光が、やけに眩しかった。
島崎プロデューサーは窓際の席でコーヒーを口にしていた。
「久しぶりだね、京介くん」
穏やかな声。
だが、その目は完全に“業界の人間”だった。
「お時間をいただいて、ありがとうございます」
「“個人的にECHOの件で”って言われた時点で、内容は察してるよ」
「……はい」
「君の立場で、よく来たなぁ」
それが、褒め言葉なのか警告なのか、わからない。
多分、両方だ。
深呼吸をひとつして、俺は言葉を選ぶ。
「……ECHOはライバルです。しかし、ECHOの技術は本物です。俺は、あれを埋もれさせたくないんです」
「なるほどね。正直に言うとさ、ECHOのテスト配信は想定以上だった。技術だけじゃない。何より“ライブの臨場感”を分かってる」
「……CEOは、配信を“体験”にしたいと言っていました」
「名波くんだろう?」
島崎さんは、俺を真っ直ぐ見た。
「ただ、SONIC WAVEは冒険だけじゃ回らない」
空気がぴんと張り詰める。
「ステラは安定だ。資金も運営も、トラブル対応も。失敗しない保証がある」
「……はい」
「でもな」
島崎さんは続けた。
「フェスは“今うまくいくか”だけじゃない。“次の十年”を見せられるかで価値が決まるんだ」
――次の十年。
慧が目指してる未来、そのものだ。
「ステラ単独でも、ECHO単独でもない。ステラの運営力とECHOの配信技術。両方を使うのは“あり”だと思ってる」
「それは……」
「ECHOには、“本番の第三ステージ”を担当してもらいたい。そして、ステラは全体統括とメインステージの配信を担う」
島崎さんが、そう言い切った。
俺は思わず目を見開いた。
「共同で……ってことですか?」
「もちろん、これは俺の提案だ。両社が合意して初めて成立する」
島崎さんは、俺の目を見た。
「ECHOにも同じ話をする。その上で、三者で正式に協議の場を設けるよ」
「……本当ですか?」
「ああ。ただし――ECHOにとって条件は厳しい。失敗すれば、翌年以降はステラ単独。成功すれば、来年は主配信の座を競ってもらう」
……重い。でも、現実的だ。
ECHOにとったら、甘い話じゃない。本番で失敗すれば……次はない。
「来週、ステラの役員会で正式に提案する。その前に、君の意見を聞かせてほしい」
「……俺はECHOと組むべきだと思ってます」
「そうか。なら、会議で戦ってもらうぞ」
島崎さんがにやりと笑った。俺は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、まだ早い」
島崎さんは背を向けながら言った。
「ここからが、修羅場だ」
ホテルを出た瞬間、スマホを取り出す。
震える指で慧にメッセージを打った。
『島崎さんに会った。共同でやる提案が出そうだ。本番で、ECHOが第三ステージを担当する可能性がある』
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――もう、後戻りはできない。
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