【完結】ブラック企業で限界の俺、十年前の親友に“買われて”溺愛されてます

砂原紗藍

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9.スイートルームの約束

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翌日、なんとか早めに仕事を切り上げ、約束の場所へ向かう。
タクシーを降りると、目の前には駅前の外資系高級ホテルがそびえていた。

テレビでしか見たことのない煌びやかさ。威圧感のある建物を前に、思わず足が止まる。
入り口には制服姿のドアマンが立ち、俺みたいな庶民がここに入っていいのか、一瞬ためらった。

――でも、ここで一歩踏み出さなければ、今日の仕事は終わらない。

「いらっしゃいませ」

丁寧な声に、心臓が早鐘のように打つ。手のひらにじんわりと汗がにじむ。
こんな接客を受けるのは初めてだった。

そして、事前に男から聞いていた。

『高級ホテルのスイートルームね。相手の方が部屋を取ってくれてるから』

スイートルーム――食事ではなく、部屋。
その時点で、嫌な予感が脳裏をよぎった。
でも、報酬の話を聞くと断れなかった。
相手次第では、かなり稼げるかもしれないと言われた。

手を軽く震わせながら、俺はドアマンに導かれ、ロビーへ一歩を踏み出した。

運営者の言葉が頭をよぎる。

『時間には遅れないように。相手はお客様ですから。報酬は圭さん次第ですよ』

“圭さん次第”。
つまり、相手を満足させろ、ということだ。

ロビーに入ると、高級感に圧倒される。
大理石の床。天井に吊るされた豪華なシャンデリア。

どこを見ても、金の匂いがする。
それなのに自分はただの庶民。場違いだという意識が頭の中で渦巻く。

フロントで部屋番号を告げると、係員がエレベーターキーを差し出してきた。

「恐れ入りますが、こちらのエレベーターをご利用ください。最上階でございます」

最上階――。
たった数時間、俺と会うためだけに、こんな部屋を用意するなんて。
胸の奥がざわざわして、胃のあたりが重くなる。

エレベーターに乗る。扉が閉まり、静かに上昇していく。
鏡に映る自分の姿。普段の仕事着のスーツ、やつれた顔。
準備も心構えも、何もできていない自分が、そこにいた。

最上階に到着すると、長い廊下が延びていた。
静寂に支配された空間に、自分の足音だけが響く。
一歩一歩、呼吸を整えようとするが、胸のドキドキは収まらない。

部屋番号を確認する。

2501――ここだ。

ドアの前で立ち止まり、深く息を吐く。

「……よし」

報酬があれば、今月は乗り切れる。
そう自分に言い聞かせ、震える手でチャイムを押す。

数秒の沈黙。
そして――扉の向こうから足音が近づいてくる。

ドアがゆっくりと開いた。

「……来てくれたんだ」

その声を聞いた瞬間、俺の全身が硬直した。

「え……」

目の前に立っていたのは――。



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