【完結】恋愛強制執行!?―俺様ホストの甘い罠―

砂原紗藍

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甘い罠の始まり

1.ホストの日常は波乱万丈

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俺は歌舞伎町でもそれなりに名前の通ってる人気ホスト──まあ、聞こえはいいけど、実際はかなり神経使う商売だ。

今日は店休日。いつものように姫の一人とデートしていたんだけど、これがまた難しい相手で。

レストランのテーブル越しに、その姫は期待に満ちた瞳でこちらを見つめる。
メイクも髪型もバッチリ決め、ブランドバッグを自慢げにテーブルに置いている。

いつも店でかなり金額を落としてくれる上客だから、たまの店外デートくらいは付き合ってやりたいと思う。
ただ、会話の内容がだんだん危ない方向に。完全に本気モードで恋愛関係を求めてくる。

ホストってのは、姫に夢を見させるのが仕事だけど、リアルな恋愛関係は別問題だ。

「カイトくん、今度の休みも二人っきりで会えるよね?」

上目遣いでそんなことを言われると、断るのも一苦労だ。
この姫、もう三回も店外デートをねだってきている。

「そうだなあ……今度は店でゆっくり話そうか。新しいシャンパン入ったんだ」

営業スマイルで答える。適切な距離感を保つようにしないとな。

デートを終えて姫と別れた後、俺は繁華街の裏通りを一人で歩いていた。
ネオンが眩しく、夜が深くなってきた。やっと解放された、と思って深く息を吸い込んだ矢先──

「カイト!」

いきなり後ろから声をかけられ、振り返ると別の姫が息を切らして追いかけてきた。

やばい、見られてたか。

「私以外の女とデートするなんて、どういうこと!?」

案の定、さっきのデート現場を目撃されていたらしい。
彼女の顔は真っ赤で、怒りと嫉妬で震えている。

俺は心の中でため息をついた。
またこのパターンか。勘違い女の定番コースだ。

「私がカイトの彼女でしょ!? なんで他の女といちゃいちゃしてるのよ!?」

彼女って……そりゃ勘違いも甚だしい。
俺にとってはどの姫も大切なお客様だけど、恋人関係じゃない。
店外デートだって、あくまでサービスの一環。接客業の延長でしかないんだ。

「落ち着けよ。俺、誰とも付き合ってないから」

できるだけ優しく言った。嘘じゃない。本当に俺には恋人なんていない。
ホストやってる間は、プライベートな恋愛なんて考えられない。

「嘘よ! 私にあんなに優しくしてくれてたじゃん! 特別だって言ってくれたよね!?」

……そりゃ言うよ。商売だもん。

“君だけが特別”なんて、ホストの基本中の基本トークだろ。

でもそれをストレートに言うわけにもいかないし、この姫の気持ちも分からなくはない。
俺たちが演じてる“理想の男性”像に、本気で恋してしまうんだ。

「付き合って! 私はカイトのこと本気なの! 今までいくら注ぎ込んだと思ってんの!?」

これが一番厄介なパターン。金を使ったんだから愛をよこせっていう理論だ。

「気持ちは嬉しいよ。でも俺、仕事とプライベートははっきり分けてるんだ。君を傷つけるつもりはないけど、そういう関係にはなれない」

こういう時ははっきり言わないとエスカレートする。曖昧にしてると、どんどん勘違いが膨らむ。

「なによ、カイトの嘘つき! 大っ嫌い! 詐欺師!」

そう叫ぶと、その姫は俺の頬を思い切りひっぱたいた。

「痛って!」

頬にじんじんと痛みが走る。想像以上に強い一発だった。
明日から営業なのに、顔に傷があったら売上に響くじゃないか。

「私の気持ちを弄んで! 二度と会いたくないっ!」

トドメとばかりにバッグで一発殴りつけ、その姫は泣きながら走り去る。
カツカツとヒールの音が夜の街に響き、だんだん遠くなっていく。

「最悪だ……」

頬を押さえながらため息をつく。

「はぁ……」

勘違い女には本当に参る。
ホストが客と本気で恋愛なんてするわけないだろうに。
まあ、中にはそういう奴もいるけど、俺は違う。仕事は仕事、プライベートはプライベートだ。

頭の中でぶつぶつ文句を言いながら歩いていると──

「……あの、大丈夫か?」

聞き慣れない男性の声がした。低くて落ち着いた声だ。


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