【完結】運命の人が敵対企業の専務だったので、ビジネスも恋も全部奪いました

砂原紗藍

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【第二章】ビジネスは敵、恋は本気

1.敵は、愛した人

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朝6時。アラームより早く目が覚めた。

今日はSONIC WAVEのプレゼン大会。
ECHOの未来が決まる日だ。

ベッドから起き上がり、窓の外を見る。
まだちょっと薄暗い。

シャワーを浴びて、スーツに着替える。
鏡の前で何度もネクタイを締め直した。

会場に着いたら、ECHOのスタッフが既にスタンバイしてる。

「名波さん、おはようございます」

技術担当の田島が声をかけてきた。

「おはよう。準備は?」
「完璧です。デモ動画も問題なし」
「よし」

プロジェクターの接続を確認する。 
スライドを何度も見直す。

投資家たちが会場に入ってくる。
その顔ぶれを見て、胸が高鳴った。

……Kファンドの代表もいる。

あそこから資金を引き出せれば、ECHOは次のステージに進める。
俺たちECHOにとっては、これが最後のチャンスかもしれない。

「各社、準備はよろしいですか」

司会者の声が響く。
俺は深呼吸した。

落ち着けよ、名波慧。
技術は本物だ。情熱もビジョンも、全部ある。
あとは――伝えるだけだ。

会議室の前方、巨大なスクリーンの前に立つ。

「株式会社ECHO、代表の名波です」

投資家たちの視線が一斉に集まる。
値踏みするような目。
期待と懐疑が入り混じった表情。 

まあ、慣れてる。
こういうの、もう何度目だ?

「皆さん、音楽業界が死にかけてるって、ご存知ですよね?」

挑発から入るのはいつものこと。
会場がざわつく。

よし、掴んだ。

投資家たちの表情を一人一人確認しながら話す。
興味を示してる人。懐疑的な人。無表情な人。
全員を、こっちに引き込まなきゃいけない。

「ECHOは違います。最初から、ライブ配信専用に設計されたプラットフォームです――」

スライドを切り替えながら、数字を示していく。
投資家たちが前のめりになってくる。

いいぞ。このまま――。

ゆっくりと会場を見回す。

その時――
視線が、ある一人に止まった。

……え?

京介?

……なんで、ここに?

一瞬、動きが止まりそうになる。
でもここで動揺は見せられない。

俺はふっと笑って、何事もなかったかのように続けた。

「――以上です。ご清聴、ありがとうございました」

拍手が起こる。
かなり良かったはずだ。

ただ――

京介がいた。

なんでこの場に?
いや、待て。京介は音楽関係の仕事だって言ってた。

……でも、まさか。

しばらく別のプレゼンを聞いたあと、京介は次のプレゼンターとして、壇上に向かってる。

「次は、ステラレコードの瀬戸専務です」

……あいつ、ステラの人間だったのか。

頭の中が真っ白になる。
あの夜、俺の部屋で抱きしめた人が。
キスをした人が。

――最大のライバル。

壇上に立つ京介は、俺が知ってる京介とは違った。
投資家たちを見渡すその眼差しは、専務としての顔。

「ステラレコードは国内シェア35%、所属アーティスト300組。年間売上500億円――」

淡々と数字を並べていく。
全てが桁違い。実績、資金力、ブランド。
全部、ECHOにないものばかりだ。

「――リスクは、ほぼゼロです」

リスクゼロ。その言葉が、重く響いた。
投資家たちの表情が変わる。

「以上です」

そして――割れんばかりの拍手。
さっき俺のプレゼンの時よりも、明らかに大きい。

……これが、ブランド力か。

京介が壇上を降りる。
俺たちの視線が、一瞬だけ交差した。
京介はすぐに目を逸らした。

プレゼンが終わり、懇親会が始まった。
投資家や各社の代表が自由に言葉を交わしている。

「ECHOの名波です。先ほどはありがとうございました」

俺は投資家に一人ずつ声をかけた。
でも、反応は芳しくない。

「技術は素晴らしいですが……実績がないのは不安ですね」
「大規模配信は、やはりステラの方が安心です」

何度も断られる。
それでも、諦めずに次の相手に向かう。
笑顔を作って、資料を見せて、技術の優位性を説明する。

ふと視線を上げると、京介が壁際でグラスを傾けているのが見えた。

一瞬だけ、京介と目が合った。
あいつも俺を見てる。

……行くしかない。

俺は京介に向かって歩いた。

「はじめまして。瀬戸専務、お疲れ様です」

丁寧に挨拶する。
ここは公の場。周りには投資家も関係者もいる。
今の俺たちは、ECHOの代表とステラの専務。

「……お疲れ様です」

京介も同じトーンで返してくる。

「……ECHOの技術、すごいですね。遅延0.3秒というのは本当ですか?」

京介がビジネスの話を振ってくる。
俺も、CEOとして返す。

「はい、実測値です。デモもすぐお見せできますよ」

ECHOの技術には、絶対的な自信がある。

「技術だけじゃ、業界は動かない」

京介がそう言った瞬間、胸の奥がきしんだ。

「……どういう意味ですか?」

声が少し強くなる。
抑えようとしても、抑えきれない。

「アーティストは安定を求める。投資家はリスクを嫌う。ECHOみたいな新興企業に賭けるより、ステラに任せたほうが安全だと思う人は多い」

冷静な声で現実を突きつけられる。

……わかってる。ECHOの弱点だ。

「それは……瀬戸専務のお考え、ですよね」

少し、棘のある言い方になった。
京介が表情を変える。

ECHOは俺の全てだ。
失うものがないから、全部賭けられる。
それが俺たちの強み。

「情熱だけじゃビジネスは成り立ちませんよ。SONIC WAVEの配信権、本気で取れると思ってます?」
「思ってます」
「じゃあ、楽しみにしてますよ。“名波社長”」

京介が冷たく言って、その場を離れた。

俺はその背中を見送る。
人混みに消えていく姿。

――京介は、ライバル。

完全に、敵だ。

でも、好きだ。
どうしようもなく、好きなんだ。

この矛盾した感情を、どうすればいいんだ。


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