絶対愛犬生活!〜異世界にて公務員に拾われたらペットとして飼われる日々がやってきました〜

むりん

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第一章

その7

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「…………断る。」


短く突き放すように言葉を放つとエマは再びがーん!と効果音が見えそうなほど項垂れた。


……コイツは本当に……アレだ、その………………疲れる。


助け舟を出してやったことに早くも後悔し始めているが………、何故手を差し伸べてしまったのだろうな。誰とも……深く関わりたいなどと思っていないのに。


「で、でもでも、運命の相手はオスカーさんだと私は思ってますっ!」
「はいはい。」
「あ、ひどい!全然真面目に聞いてないですよね⁉︎」
「………五月蝿い。」


宿舎までの道を戻ろうと歩き出すと、エマも立ち上がってパタパタと後ろを駆けてくる。その姿がジークを思い出させて………不思議と悪くない、と思えてしまった。


◇  ◇  ◇  ◇


「あれ?どういう風の吹き回しスか?宿舎に女連れ込むなんて……初めてですよね?」


…………今日は本当に厄日かもしれない。


世界で一番出会いたくない部下の顔を前に、俺は何とか白目を剥きたい気持ちを抑えていた。

大型の肉食獣のようにしなやかで鎧を思わせるがっちりとした浅黒い体躯。所々に茶色い髪が混じった明るい金髪の片側はコーンロウに結われ、ひとつ結びにした後ろ髪は尻尾のように垂れている。斑のある耳と、尻尾は面白い玩具を見つけたかの如く忙しなく動いて、夕焼け色の瞳は爛々と輝いていた。二メートル近い巨体を屈めてエマの顔を覗くその男は、『剣歯虎サーベルタイガー』の獣人で……。


「………野良犬を一匹保護しただけだ。お前こそ娼婦を連れ込むような真似は止めておけよ……ティィ。」


宿舎としてあてがわれているホテルのバーカウンターに腰掛けている色男は俺に負けず劣らず……いや、俺の方が顔は上、だろうが、若いながら浮名を流す美丈夫だ。しかし……。


「冗談止めて下さいよ。………この街には俺の番がいる。うっすらと匂いはしてるんです。この匂いがしてる限り……他の女に勃ちゃしねぇスよ。」


………コイツには自分の親に引き裂かれた番がいる。獣人は神竜と動物の番の間に産まれた子の末裔であり、人間よりも竜に生態が近い。
生涯で自分の伴侶である番にしか本当の名を明かさず、名を教えた場合、魂が拘束されて番以外と子供を成すことはできなくなる。ただ、コイツの場合は獣人としての本能というよりも……。


「……まだ、ロロも俺に気持ちが残ってるみたいでしたからね。俺は絶対諦めませんよ。俺だってもう10年近くずっと想ってきたんスから……。」


………一人の女に執着するだなんて俺には到底理解できない。理解できないが………不幸になればいい、とも思わない。………ただ、それだけだ。


「……にしても、野良犬ってなんスか。」


ティィがガタリとバーの椅子から降りると、黙って話を聞いていたエマはひょいと俺の後ろに隠れてしまった。………何なんだ。


「あー、『忌鬼おにならず』なら、もしかして獣人は初めて見たんスかね?大丈夫、怖くないっスよー。」


まるで小動物をあやすかのように猫撫で声で近づくティィに、おびえを増したエマは俺にしがみついたまま、さらに身を隠してしまった。俺を盾にするその姿に……少しだけ、アホ犬が懐いたような喜びを覚えてしまったが………くそ、なんだか俺が絆されているような気がする。


「………刺青、入ってる。」


小さな声でエマはぼそりとそう呟いた。


刺青……あぁ、そうか。獣人であるティィの腕まくりした黒いシャツから覗く二の腕には、びっしりと『刻印』という動物の爪痕と植物の蔦を模した黒い刺青が所狭しと入っている。これは本来獣の姿で生まれてくる獣人が人の姿を取るために魔力で入れている模様、なのだが………。確か東方大陸には獣人はおらず、刺青は刑罰として罪人が彫られるもの………と聞いたな。


「……安心しろ。コイツは俺の部下だ。」
「ぶか。」
「歳だって………ティィ、お前幾つだ?」
「酷ェ!何で覚えてねぇんスか。もうすぐ22歳ですよ!」
「………だそうだ。お前とたいして変わらんだろう。」
「にじゅうにさい。」


俺の言葉を繰り返しながらもエマはティィに対して警戒を解こうとしない。……人懐っこい奴だと思っていたのに……意外だな。………コイツが俺にしか懐いていない、というのは…………案外と気分が悪いものでもない。


「オスカーさんは何歳ですか?」
「……28だ。」
「10歳上かぁ……結婚相手なら全然アリな歳の差ですよね!」


無い。お前は…………無い。

18の小便臭い餓鬼と結婚なんてたまったもんじゃないし……それ以前に、俺に結婚願望なんてものは全く無い。
やはりこの娘に仏心を出したことは失敗だったと思うが……。


「えっ、オスカーさん……結婚するんスか⁉︎」


くそっ、本当に失敗だった。歩く拡声器、要塞内で顔の広いティィに知られれば明日中にはガルテンハイムまで噂が回ってしまうだろう。言い過ぎかもしれないが、それくらいこの男は口が軽いのだ。


「………ちょっと来い、エマ、お前はそこで待っていろ。」


◇  ◇  ◇  ◇


オスカーさんより頭一つ大きな獣人……虎……かなぁ?な男性を引きずりながらオスカーさんは定宿にしているらしいホテルのロビーの奥の方に歩いて行った。
私には聞こえない距離で何やら密談が行われているのをしばらく呆然と見つめていたけれど………。




えっ…………異世界確定じゃん。


いや、獣人は流石に地球上にいないでしょ………‼︎


ここまでグレーゾーンだった『モーントブルグ異世界説』がこれで説立証になってしまった。さっき見た竜……は見間違いで済むかもしれないが、さっきの獣人さん……あれはダメだ。動いている耳も尻尾も……コスプレの類じゃなさそうだし。


『遠くに嫁がせることになって………すまない。君も一緒に…と思ったのだが……。俺は君からクレアを奪った。本当に……。』


お義兄さんが電話をかける度に毎回『すまない、君に申し訳ないことをした。』と私に謝る理由が分かった気がする。海外に嫁いだからって大袈裟な、と思っていたけれど………お姉ちゃんは異世界に嫁いだのだ。

そしてお義兄さんはお姉ちゃんが異世界人だと知っている。だからきっと……。


「そっかぁ……、そういうことかぁ………。」


◇  ◇  ◇  ◇


『あのさ……、お姉ちゃんと一緒に来る……?』


ビデオ通話じゃなくてお姉ちゃんと最後に直接会った日、躊躇うような表情でかけられた言葉を思い出した。
『行く?』じゃなくて『来る?』。お姉ちゃんの中で、覚悟はもう……決まっていたんだと思う。お姉ちゃんの帰る場所は『異世界こっち』なのだ。

そりゃ確かに……会えなくなるよね……。


それでも、お姉ちゃんはお義兄さんを選んだ。お義兄さんもそれを分かっているからあんなに私に謝って……。


なんだ、やっぱりお姉ちゃん、いい人と結婚したんだ………。


未だ頭の中はパニック状態はてなマークでいっぱいだったけれど、お姉ちゃんの結婚に関しての不安はちょっと薄れた気がする。ん……?でもここが異世界なら何で電話……通じてたんだろう?
異世界にもwi-fi飛んでるの?んな訳ないか……。でもうしおさんは……。


『モーントブルグは電波が不安定なので教会でしか通話ができないのですよ。日付を決めて、クレアさんが教会にいる時に僕が電話をかけたら繋がりますから。』


……あれ?ちょっと待って、汐さんはお姉ちゃんと入れ替わるようにモーントブルグから日本にやってきたって言ってたけど……じゃあ汐さんって……異世界人だったの⁉︎あーもう、よく分かんなくなってきた‼︎

とにかく、お姉ちゃんに会って事情を聞かないと……。

日本に戻れるかどうかは分からない。………多分、日本には心配してくれている人もいる。バイトだって学校だってあるけれど……、日本に戻ればお姉ちゃんに二度と会えなくなるかもしれないと思うと……それだけが心残りだった。それに………。


ちらりとロビーの奥の方にたつ、煙草に火をつけて煙を燻らせているオスカーさんの横顔を見つめた。


顔が、良すぎる……‼︎


クールな顔立ちに、艶やかなウルフカットの黒髪、二重の切長の瞳の上には長いばっさばさのまつ毛が生えていて、通った鼻筋、形のいい紅い唇………。透き通った白い肌は化粧水のメーカーを尋ねたくなるほど透明感があり、シミ一つ見当たらない。女性的な美貌なのに煙草を吸う仕草は男っぽくて………。


めちゃくちゃかっこいい……!
もーほんとタイプ!大人だし、口調はキツいけど優しいし、私の言った通りの『運命の相手』………。


年上で、黒髪で、クールな顔立ちで……なんてまるで九頭竜さんじゃん、とか思っていたけれど……九頭竜さんが若くてもオスカーさんには敵わない気がする。こんなこと言ったら九頭竜さんに申し訳ないけれど。


「…………待たせた。」


煙草を消したオスカーさんからは煙草の煙の匂いなのか、コーヒーのような苦味のある癖の強い香りが漂っている。不思議と嫌な匂いじゃなくて……。

私は一つだけ気になっていたことを恐る恐るオスカーさんに尋ねてみた。


「あの………オスカーさんって何の仕事……してるんですか?」

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