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第一章
その13
しおりを挟む「客に酒が出せねぇたぁ、どういう了見だぁ…⁉︎」
「アナタ飲み過ぎ。美味しく飲める度合いはとっくに越してるわ。味わって飲めない相手に出す酒はこの店にはないの。」
ガシャガシャガシャン‼︎と耳障りな音が響いた方向を向くと、まるで山のようながっしりとした体躯の大男……顔立ちと格好から察するに恐らく『忌鬼』の鉱夫だろう、顔は真っ赤で随分酔っ払っているようにみえる……と、スカートの短い女中服に身を包んだ女が言い争っていた。
色素の薄い、白っぽい金髪に菫色の瞳のウェイトレスは儚げな顔立ちに相反して肉感的な肢体を有している。
大男が激昂しながらも、自分の身体を舐め回すように見つめていることに気づいた彼女は不快そうに眉を寄せた。
「デボラ!すみません、妹が何か…⁉︎」
ジャンと名乗ったコック服の男が慌てて二人に近づいた。……妹と店を始めた、と言っていたが、あれが妹なのか……。
「テメェが店主か…⁉︎この女が『酔ってる客に追加の酒は提供できない』なんてほざきやがった。金は払うって言ってんのによぉ……!」
「……酔いすぎ。呂律も回ってないし、お酒の味なんて分からないでしょ?酔いたいだけなら、一刻も早く病院にいって頭の具合を見てもらいながら消毒用のアルコールでも飲ませてもらうといいわ。」
舌鋒鋭いウェイトレスに更に激昂した男は側にあるテーブルの上の皿を床に叩きつけた。
「っんだ、その口のきき方は……‼︎おい、店主さんよぉ……俺が『忌鬼』だからって差別してんのかぁ……⁉︎」
「い、いえ、そんなことは……。」
「はっ、太陽教のヤツらってのは底意地の悪ィ奴らばっかりだな……余所者なのはテメェらも同じだろうが……!」
男はジャンの胸ぐらを掴んで自分の近くへ引き寄せた。………非番の日に無給で労働は避けたいところだが……仕方ない。身分を明かして仲裁に入るか……。
そこではた、とオロオロと成り行きを見守っているエマの存在に意識を向けた。『見合い相手』が接触してくるまではコイツに俺が軍人であることは隠しておきたかったんだが………。
………背に腹は変えられない。店主が殴られる前に止めに入ろうとした瞬間………。
私に任せて下さい!とばかりにエマが俺の前に躍り出た。
◇ ◇ ◇ ◇
「おじさん!酔っ払ってお店で暴れるだなんて迷惑ですよ!ジャンさんから手を離して下さいっ!」
「なんだぁ、このガキ……⁉︎」
「え、エマさん、いけませんっ。危ないですよ!」
静止するジャンさんを軽く無視して男性の近くまで進んだ。
……怖くない、訳じゃない。足だって震えているけれど、お姉ちゃんだったら多分こうする。無鉄砲なお人好しだから、きっと……。
私もお姉ちゃんみたいに、強くなりたい。
それに……。
私の行いに目を白黒させているオスカーさんに目を向ける。
オスカーさんはおじさんを止めようとしていたけれど、何かを躊躇っているようにも見えた。
◇ ◇ ◇ ◇
『もークレアちゃん、エマちゃん聞いてよー。この前ムカつくことあってさー。』
ボロアパートに似つかわしくない高級そうなスーツ姿の九頭竜さんは、アパートの玄関に入るなり開口一番そう話し始めた。
日頃、九頭竜さん自身が借金の回収に来ることはないのだけれど、その日はよほど私たちに愚痴りたかったのだろう。
『糞馬鹿なチンピラがさー、よりにもよってオジサンの奥さんしつこくナンパしやがってさー。』
九頭竜さん、の奥さんというのは籍の入っていない内縁の奥さんで……日本一の繁華街である紫苑町で『女王』と呼ばれた元No.1ホステスさんだ。会ったことはないけれど、九頭竜さんがメロメロになるぐらいだからきっととてつもない美人さんなのだと思う。
自分がヤクザだから一緒には暮らせないのだけれど、月に数度会いに行く日が何よりの癒しなのだと九頭竜さんは言っていた。
『その時点でオジサンとしては極刑……正直駿河問いにしてやりたい気持ちでいっぱいだったけど……悲しいかな、オジサンてば一般人に手ェ出したらすーぐパクられちゃうからさー。』
こんなに善良に生きてんのにね、とうそぶく九頭竜さんをお姉ちゃんは
チベスナ顔で見つめていた。
『それで……どうしたんですか?』
『んー、オジサンが助けに行く前に奥さんが上手くスルーしてたんだけどね。そこら辺はほら、あしらい方とかプロだから。でもねー、そのチンピラ、オジサンの奥さんに向かって「んだよ、お高く止まりやがってババァが!」つったんだよねー。』
あ、その人死んだな、と思うほどの怒りのオーラを九頭竜さんは纏っている。一瞬で笑顔が消えて……。まさかヤクザの組長さんの奥さんとは思わずにナンパしたんだろうけれど………南無三。
『流石にそれはさ、温厚なオジサンもね?ちょっとばかし事務所にご同行願えないかな、とか思っちゃったんだけど……奥さんがさー、にこにこしながらオジサンに向かって「ババァだって。じゃあ、熟女好きだね」って言ったんだよねー。もー可愛くてさー、どーでもよくなっちゃった♡』
………ノロケじゃん。デレデレしながらそう話す九頭竜さんの姿に、隣に座っているお姉ちゃんも同じ感想を抱いたのか、興味なさげにつけっぱなしにしていたテレビのワイドショーを見ていた。
『ほんと大好き♡おばあちゃんになっても絶対可愛いし、俺は生涯奥さんがタイプだからどの年齢でも推せるー♡あ、でもチンピラにはさ、「誰の女に向かって何つー口きいてんだ」とは注意しといたけどね♡』
恐ろしくドスの効いた声。おそらく相手はチビっちゃったんじゃないかなと思うほど……。
『奥さんが暮らしやすいように紫苑町のチンピラはオジサンが取り締まらないとねー。オジサンの方がよっぽど警察より働いてると思わない?』
◇ ◇ ◇ ◇
多分、オスカーさんも一般人には手を出せない……!でも、縄張りで起きた揉め事は仲裁にしないといけない、みたいな感じなんだと思う。
それなら、食事をご馳走になった分くらいは私がなんとか……!
「そもそも、暴力で解決しようってのがら酔っ払いの発想ですよ!おじさんが酔ってないっていうなら………私とフードファイトで勝負しましょう!」
「ふ、フードファイト……⁉︎」
おじさんを含めた店中の空気が戸惑いを見せた。どよめく店内を他所に私は胸を張って……。
「料理のセレクトはおじさんにお任せします!私、基本好き嫌いないので‼︎」
「……おい……!何を言ってるんだ、馬鹿犬が……‼︎」
いぬっ⁉︎オスカーさんに腕を引かれてよろめいたけれど……『まあ、私に任せて下さいよ』という意味を込めて下手くそなウィンクを飛ばしておいた。
「もしかして私に負けるのが怖いんですか?」
「んだとぉ……⁉︎」
「私が勝ったらオジサンが壊した店のもの、全部弁償して、謝ってもらいますから!」
「……お前が負けたらどうすんだ?」
ジャンさんの胸ぐらを掴んでいた手を解くと、ニヤニヤといやらしい微笑みを浮かべて無精髭を撫でながらおじさんは私の顔と身体を見て……。
「できれば、そっちのネエちゃんの方に
にお相手願いてぇんだけどなぁ……。」
サイテー‼︎‼︎
でも、くそぅ、おっぱい……おっぱいか……!デボラさんのぽいんとしたおっぱいと自分の胸を見比べて……次いでオスカーさんに目を向けると視線を逸らされた。むきー、オスカーさんのバカ‼︎おっぱい星人‼︎
「あ、あのっ、僕はエマさんのこと……す、素敵だと思いますっ‼︎」
ジャンさんのフォローが私を余計に惨めにさせた……。絶対に勝ってやる……!
「いいですよ!おじさんが勝ったらなんでもいうこと聞きます!………おじさんが勝てたら、の話ですけどね。」
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