15 / 20
第一章
その15
しおりを挟む「あの、立て替えてもらっちゃって本当にすみません……。」
「……別に。」
「教会まで案内もしてもらって…。」
「……別に。」
うぅ、気まずい。
すっかり気難し系女優と化してしまったオスカーさんの後を小走りでついて行きながら軽くため息を吐いた。
「……どうした、腹でも減ったのか。」
「なっ、流石にお腹いっぱいですよっ!」
ふふっ、と薄く微笑んだオスカーさんに少しだけ安堵すると、オスカーさんは「ほら、ついたぞ。」と教会を指さした。石造の教会は歴史を感じる作りだけれど、綺麗に整備されていて……きっと参拝する人が多いのだろう。昨日見た教会内部の椅子や絨毯は新しそうだった。
重厚な造りの扉は開かれたままになっていて……。中に入ると、涼しい外の空気よりさらに一段とひんやりした空気が身体を包む。
昨日はパニックで教会の中をじっくりと見ることはできなかったけれど……、改めて教会の祭壇の方向に顔を上げると、巨大なステンドグラスが目に入った。
トナカイ……?いや、狐……?
よく分からない真っ白な毛並みの生き物と女の子が寄り添って眠っている。
キラキラと輝く光の中で幸せそうに……。
「バウシュタインの守護竜……『工芸』と『清廉』を司る霜花竜・フロスティオンだ。」
私が問いかける前にオスカーさんが口を開いた。フロスティオン……。
「えっと……狐なんですか?トナカイみたいな角……生えてますけど。」
「いや、犬だ。雪竜を眷属に持つ、地上にて最速の獣。………職人の多いバウシュタインにはフロスティオンの信仰者が多いらしい。……それより西瓜は探さなくていいのか?……俺に食事の代金としてくれるつもりなら謹んで断るがな。」
なっ、スイカ違いだから‼︎
小馬鹿にしたような態度のオスカーさんを尻目に、祭壇の裏側に回ってしゃがむとパスケースを探し始めた。
あーもう、暗くてわかんないな……。蛍光灯ってありがたい発明品だったんだ。日本にいたままじゃ一生気づかないままだったろうけれど。えーと、確かこの辺でプチって音がして………。
ん?
……なんか…この祭壇の奥行き……おかしくない?
厚みが違うというか……。外側から見た厚みより随分と奥行きが狭い気がする。真っ暗な中、手探りで触っていると薄く筋の入った扉のような形のものに触れた。……なんだこれ……。
「おい、まだ見つからないのか……‼︎」
「す、すみません!今すぐ見つけまーす‼︎」
あれ、なんか私ヤバいもの……見つけちゃった……?この扉の中には拳銃とか麻薬が……。
な、なーんちゃって、そんなことあるわけないよね、異世界に拳銃はないだろうし、でも………。
昨日、オスカーさん……何で教会にいたんだろう………。
さーっと血の気が引いて泣きたくなってきた。うぅ、やっぱりオスカーさんは闇属性のヤクザなんだ……。ポシェットくれたのも気まぐれなのかな……。
なるべーく扉に触れないように祭壇の下ら辺をまさぐっていると、指先にコツンと硬い何かが触れた。
どうかヤバいブツではありませんように……!
願いを込めて引っ張り出してみるとそれは赤い革のパスケースで……。
「あったぁ……‼︎」
「………何だそれは。」
「んぎゅっふぅ‼︎」
急に頭上から降ってきた声に自分でもよく分からない場所から声が出た。見てない見てない見てないですよー!私はあの怪しげな扉のことなんて何も知らないです……!
「こっ、これがSuicaですよ!西瓜じゃなくてSuica!これが私の故郷じゃお金と同じように使えるんです。」
「………なるほど。どういう仕組みかは解らんが、こちらの貨幣に換金できるのか?」
私の手からひょいとパスケースを取り上げたオスカーさんはびよんびよんと千切れてしまった紐を伸ばしたり、パスケースを弄って観察している。
「換金は……できないと思います。」
「じゃあ、無価値と同じ事だな。」
興味を失ったオスカーさんはパスケースをぽいっと投げてよこした。わたわたと受け取ると………。
「………もう落とさないようにしろよ。」
オスカーさんは本当によく分からない。悪い人なのか優しい人なのか………。それでも、今、異世界で信頼できるのはオスカーさんたった一人だけのような気がしていた。
コンコンコン、と何かがガラスを叩くような音がする。音がした方を向くと綺麗に磨かれたガラス窓の外に、昨日空を飛んでいたのと同じ種類の小さな竜が羽ばたいていて………。
「……お前はここで待っていろ。」
小型の竜をみるやいなやオスカーさんはそう言って教会の外へ出ていってしまった。……な、なんだろう。もしかしてブツの取引……!
Vシネマのような取引シーンが頭の中に浮かんで……祭壇からちょっと離れたところで立ち尽くして待っていると……。
鞄の中の携帯が、突如として鳴り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
………くそっ、人の休暇を何だと思ってるんだ、ランバートの馬鹿は……!
わざわざ軍の伝令竜を使って送ってきた手紙の内容は『貴様にも事情聴取が必要だ、砦に来い。』
俺の休暇を潰すことの方が嫌がらせになると踏んだのだろう。……全くもって御免被る。どうせ明日には出勤するんだ、事情は明日話せばいい。どうしても今日中に俺から話が聞きたければお前が来い、という話だ。
『嫌だ』と一言だけ記して、伝令竜を砦の方向に向かって飛ばした。
あぁ、腹立たしい。……だが、正直バウシュタインに出向したのが俺でよかった。アイツはヴォルグのことも嫌っているからな……。赴任した当初も……。
◇ ◇ ◇ ◇
『ブランシュネージュ、久しいな。やっと隊長職についたのにもう左遷とは……首席だからといって出世が遅くて情けない。同期で最も早く隊長になった俺としては腑抜けた同期がいることが恥ずかしく堪らんな。』
『………そうか。』
………左遷じゃなくて応援で来てるんだがな。俺に嫌味を言いたくて堪らないのだろう。ランバートは赴任したばかりの俺に寄生虫のように張り付いて鼻息荒く話しかけてきた。
俺は隊長職になんて付きたくなかったし、ヴォルグの副官で十分だった。責任ある立場など面倒なだけだし………養う家族も、出世を喜ぶ両親もいやしないのだから。
表情の変わらない俺が腹立たしいのか、やめておけばいいのにランバートは話し続けて……。
『そういえばアッシェンヴュッテルが結婚したそうだな。相手は忌鬼だとか……端くれとはいえ帝国貴族が穢れた血を迎え入れるとは嘆かわしい……。しかし罪人の子ではな、マトモな嫁の来てがなかったのだろう。あぁ、哀れ………っぐ⁉︎』
ランバートの暴言は聞くに絶えない。親友のヴォルグの両親と義兄は……牢屋に収監されている。しかし、そのことと本人の資質は全く関係ない。
『………俺の身体は母と義兄に傷つけられて汚くて……醜い傷だらけだろう。でも妻は……俺が頑張って生きてきた証だとそう言ってくれたんだ。家族とはこんなにいいものか、と思ったよ。』
アイツはいい相手を見つけた。……それだけのことで、この馬鹿に陰口を叩かれる謂れもない。
『俺からの手土産だ。俺手製のアップルキャンディーは美味いか?………俺の契約竜が何かは……万年次席の優秀なお前なら覚えているだろう?』
小煩いランバートの大口に『飴』を弾いて投げ込んだ。ランバートは目を白黒させると慌てふためいて……。
『なっ、貴様、俺に毒を……⁉︎』
『俺は覚えているか、と尋ねただけだ。穢れた血、というがフリードリヒ殿下やドーメイ公爵閣下も穢れていると?………不敬罪で処罰されなかっただけマシだと思え。』
ぐぬっ、とランバートは悔しそうに押し黙ると……。
『本来貴族とは純然たる帝国の血脈を受け継ぐものだけで構成されるべきなのだ……!シュネーヒルデ公爵閣下にご嫡男がいらっしゃれば……!』
『………それ以上は聞かなかったことにしてやる。……だから今すぐその不敬な口を閉じろ。』
『………っぐ、きさ……どく……⁉︎』
『後遺症のない麻痺毒だ。しばらく舌が痺れる程度の、な。お前は五月蝿くてかなわない。』
◇ ◇ ◇ ◇
とにかくセレンディーネ様のお輿入れまであと3ヶ月ほど……、何もなければ10月の『竜踊祭』にはガルテンハイムに戻れるだろう。それまで少々うるさい小蝿と付き合わねばならんのが難儀だが……。
バウシュタイン在留中にエマの件は解決しておいてやりたかった。
教会の中に戻ると、何やらエマの話声が聞こえる。………誰かいるのか……?
扉の影に隠れて様子を伺いながら耳をそば立てた。……くそ、遠いな。朧げにしか聞き取れないが、背中を向けたエマは何かに向かって話し続けているようだった。
「…………わか……した。おね……が……てくれ………すね。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる