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第一章
その16
しおりを挟む「えっ、嘘……電話……⁉︎」
聞き覚えのある着信音に慌ててスマホを取り出して画面をみると……。
「汐さん……⁉︎」
驚きながらも画面をタッチして……、スマホを耳に押し当てた。
『笑麻さ……』
昨日……会ったばかりだというのに、懐かしさを感じる優しい声を聞くと涙がじゅわりと浮かんできた。汐さんの言葉を待たずに私は……。
「私、モーントブルグにいるんです!ここって異世界なんですか?獣人さんとか竜が空を飛んでいて………ご飯は美味しいですけど、あ、あと異世界にもヤクザっているんですね!後は……お姉ちゃん!お姉ちゃんは本当にモーントブルグにいるんですか?元気で……幸せに暮らしてるんですか……⁉︎」
溢れる言葉をそのままぶつけたら支離滅裂になってしまったけれど、一番大事なことはそれ、だ。
お姉ちゃんは元気で幸せなのか。それなら場所なんて関係ない。もしもう二度と会えなくても………ううん、会えないのはちょっと、辛いけど。
それでもお姉ちゃんは十分私のために頑張ってきてくれた。お姉ちゃんが選んだ道なら反対したりしない。ただ、オスカーさんがいうようにお姉ちゃんが騙されている、なら話は別だ。お義兄さん、いい人そうだし、大丈夫だと……思うけど。
『ちょ、ちょっと待ってください。モーントブルグ、と仰いましたか……⁉︎本当に……?』
「は、はい、ここはモーントブルグのバウシュタインだ、って……。」
『バウシュタイン⁉︎』
汐さんの声は驚きと戸惑いに満ち溢れている。信じられない出来事が起きた……!とばかりに狼狽しているのが声から伝わって……。
『バウシュタインという地名を笑麻さんに話したことは……僕の記憶の中ではありません……。どうやら、笑麻さんは本当に転移……されているようですね……。』
私の、というよりは自分の気持ちを落ち着けるようにゆっくりと汐さんは言葉を紡いでいった。大きな深呼吸をすると……。
『笑麻さんが我が家に忘れ物をなさっていたのでお電話したのですが……大変な事態になっていたようですね……。詳しい経緯をお聞かせ願えますか……?』
◇ ◇ ◇ ◇
『………なるほど、やはり転移の場所は【 穂垂神社】……!』
「そうです、『お姉様の縁結びにミスがあったので、お詫びとして笑麻様の縁結びも致します』って常田さんに言われて……『お姉様と同じ国にお住まいのご条件通りの方がいらっしゃいますので』と……。」
『………大体の事情は把握しました。本来、異世界への転移は神社でお願いをした時……それも一人につき一度のみ、しか叶えてもらえないようですが……、笑麻さんは特例、のようですね。』
汐さんの言葉でハッとなった。以前、お姉ちゃんがいなくなって……家に戻ってきたとき、あの時はもしかして……!
『お姉ちゃんに会いたいです!お姉ちゃんが無事に帰ってきますように……‼︎』
私が、神社でお願い事をしたから……?
『あの時、呉亜さんはご主人と籍を入れる前でしたから、願い事が完了していないと見なされて再転移が可能でした。しかし、笑麻さんの場合は一度日本に戻れば……再転移はほぼ不可能でしょう。』
汐さんの声がずん、と重く沈んだものに代わった。汐さんは、13年前に日本に留学して、その3年後にモーントブルグに戻って……それから10年帰ってこれなかった、と言っていた。あれは……。
『私は妻の願いで、日本に転移し、自分の願いで……再び祖国に戻り……娘の願いで、こちらの家族の元へと……戻ってくることが出来ました。私はもう、何があろうとそちらへ戻るつもりはありません。私の家族も、夢も、幸せも……こちらにありますから。』
汐さんは、自分が不在にしていた間に閉めてしまった奥さんの実家の経編工場を復活させようと必死に頑張っている。きっと、汐さんにとってはもう日本が故郷、なのだと思う。
『笑麻さんが戻られたいと仰るならば……方法はあります、とだけしか言えません。我々家族は全員願いを叶えてしまっているので………どなたかに協力して頂いて神社で願い事をすればあるいは……。しかし、再転移に全くリスクがないとは言い切れません。やはり、冷静な判断をするならば………そちらから日本への再転移は不可能、と。』
努めて冷静に汐さんはそう言ってくれたけれど、かなり歯切れは悪かった。やはり不可能という言葉を言うのは……ためらわれたのだと思う。
「不可能、かぁ………。」
不可能、と言う言葉を聞いて初めて……お父さん、お母さん、友達……、バイト先の店長さんとその家族、九頭竜さん………。自分に関わる人たちが頭に浮かび上がってきた。
もう……会えないんだ。
唇を噛み締めて……拳をぎゅっと握りしめた。ガクガクと足も震えて……。今、自分が立っている場所は日本のどこにもつながっていない。吸っている空気も、何もかもが違うもので………。
「そ、れじゃ、ば、バイト……もう行けないって、伝えて貰えますか……?あ、そうだ、学校も……せっかく九頭竜さんに入学一時金肩代わりしてもらったのに申し訳ないことしちゃったな……、お、お父さんと……おかあ、さんにも……」
頑張って明るく話していたつもりだったけれど涙が滲んで………。
『………笑麻さん。今は無理にそんなことを考えなくても構わないのですよ。』
「…………は……ぃ……」
最後の方は嗚咽のようになってしまったけれど、歯を食いしばりながら涙を流した。汐さんはしばらく私の好きなように泣かせてくれて……。
『………微力ながら私も笑麻さんのために助力するつもりでいます。こちらに関してのことでしたら、混乱が起きないよう……ご両親、職場については私の方から心配のないよう、上手く説明しておきます。アルバイト先はどちらから存じていますから。学校についても………折を見て僕の方からご両親にお話しますので………。』
「……みません…っ、ありがと……ございます……っ……!」
しゃくり上げながら汐さんに感謝の言葉を述べる。本当に汐さんが日本にいてくれて助かった。何から何までお世話になって……。
『いえ、私はお姉さん……呉亜さんに一生かかっても返せないほどの恩がありますから。』
……やっぱりお姉ちゃんが助けてくれた。お姉ちゃんが繋いだ人の縁がいつだって私を助けてくれて……。
『ちなみに…もう呉亜さんとはご連絡はとられていらっしゃいますか?』
「あ、いえ……電話をかけてみたんですけど繋がらなくて……。」
今日の朝方、ホテルの部屋から試しにお姉ちゃんに電話をかけてみたけれど繋がらなかった。画面の表示も圏外のままで………。
『そうですか……。笑麻さんが今いらっしゃる場所はどこですか?』
「えっと、バウシュタインの教会です!トナカイみたいな角が生えたワンちゃんのステンドグラスの前で……。」
『ワンちゃん……。フロスティオンは畏れ多くも神竜ですよ……。とにかく……やはり電話が通じるのは教会のようですね。……スマホのバッテリーはあとどのくらいありますか?』
汐さんの指摘を受けてスマホを耳から離してバッテリーを確認した。画面の右上には黄色い残量メーターってと30%の表示が映っている。
「さ、30%です。電池式のバッテリーはありますけど、多分昨日の充電で使い切っちゃったみたいで………。」
「30%ですか……。それでは要点だけ話して通話を早めに終了しますね。」
一瞬苦々しい声色になった汐さんはそう言うと……。
「まず、呉亜さんへの連絡は私が行います。教会でしか通話ができない以上、呉亜さんが次回、教会にくる日……通話の約束をしている日時にしか電話は通じません。笑麻さんは可能な限りバッテリーを節約してください。」
『は、はい。』
「そして、早急に雷の刻印師の元を訪れ、これに【二丸(ニマル)の螺旋刻印】を入れてくれ、と言ってスマホを渡してください。……これで充電と同じ状態になると思います。」
おぉ、そんな便利なことが……⁉︎確かにお姉ちゃんが通話に出れているってことは、異世界でも充電できているってことだよね……。
『原理については詳しく説明したいところですが、時間がないので……。とにかく、呉亜さんには笑麻さんの現状をお伝えして、バウシュタインまで迎えにいってもらう……と言うのが一番安全でしょうね。それまでの間をどう過ごすかですが……』
「あっ、それなら大丈夫です!いまお世話になっている人がいて……。」
『お世話になっている方、ですか?』
「はい!ご飯をご馳走になって、危ないところを助けてもらって……仕事も紹介してくれるって……」
そこまで言って、はたと気が付いた。あ、ヤバ……バカ正直に言っちゃ駄目だったんじゃないの……これ。
『そ、その方は本当に信頼できる方……なのですか?』
「は、はい!大丈夫ですよ……たぶん。仕事は貿易商って言ってたし……」
『海のないバウシュタインで……貿易商……ですか……?バウシュタインは四方を針葉樹林帯が囲んでいて……飛竜船の発着場もありませんし……。』
「えっ⁉︎」
あばばばば……やっぱオスカーさん……貿易商だなんて嘘なんじゃ……。
『あ、いえ、ですが私がそちらにいた二ヶ月前までの話ですから……。領主様の御息女が結婚されると言う話も出ていましたし、活気づいているのかも知れません。』
汐さんの慰めの言葉はくわんくわんと揺れている私の頭には響かなかった。どうしよう、このままオスカーさんにお世話になってて大丈夫なのかな……?
『呉亜さんに電話をかける約束をしているのは二週間後……説明した通り、バウシュタインには飛竜船の直行便がありませんから、ガルテンハイムからどんなに急いでも到着までは一週間はかかるはずです。……つまり、笑麻さんには三週間の間、一人で乗り切ってもらわないと………バウシュタインに誰か信頼できる人物が………そうだ!バウシュタインには彼がいましたね……。』
「誰か知ってる人がいるんですか…?」
汐さんが紹介してくれる人なら安心だろう。色々と良くしてくれたオスカーさんには申し訳ないけれど……やっぱり愛人家業はちょっと……。
『えぇ、オスカー・フォン・ブランシュネージュ……。彼を頼って下さい。』
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