絶対愛犬生活!〜異世界にて公務員に拾われたらペットとして飼われる日々がやってきました〜

むりん

文字の大きさ
18 / 20
第一章

その18

しおりを挟む


「やっ、だ、何言ってんですか~‼︎オスカーさんってば小説の読みすぎなんじゃないですかぁ?もしかして小説家志望?」


………ありえないくらいに目を泳がせながらエマは大袈裟に肩をすくめる仕草をしてみせた。麻痺毒のキャンディが効いているのか、動きはへにょへにょしていて呂律も怪しくなっている。

 ………俺とて未だ半信半疑だが、あのエマの持つ道具の説明がつかない。
東方大陸にある未知の道具……というには余りに奇怪すぎる。使用方法はおろか、材質も今までに見たことのない………。


「………消えた?」


今の今まで鏡の如く己の顔が映っていた黒い板は、まるで墨を流したように一瞬で真っ黒に染まってしまった。所有者以外に使用させないようまじないたぐいがかかっているのかもしれない。


「あー‼︎もーバッテリー切れちゃったじゃないですかー‼︎」


恨めしげな声をあげると絵麻は……。


「こ、これは写真撮ったり……色々できるとっても貴重な道具なんです!それに他人の『コレ』の中身を見ることは、他人のパンツの中を覗くことと同じですから‼︎スカートじゃないですよ、パンツの中‼︎誰にだって見られたくない変な顔で写ってる写真の一枚や二枚あるはずです!」


恋人にも見せないし、夫婦間だってお互い見たりしません!と鼻息荒く捲し立ててエマは、ふにゃふにゃになった身体を何とか動かし、俺から黒い板を奪い返すとポシェットの中に急いで仕舞った。
パンツの中……は、恋人や夫婦なら見るだろ…。


「と、とにかく私は異世界人なんかじゃないですから!勘違いしないでください!私のお姉ちゃんも異世界人じゃないです!」


怪しい。限りなく………怪しい。
………異世界から来た、という話も最初は荒唐無稽だと思ったが、言われてみれば納得できる部分も少なくない。

見慣れないエマの服装、使用方法の分からない持ち物……。エマの持ち物については、保護した時に全て検分したつもりでいた。あの黒い板は何に使うものか分からず、触って確認したが先ほどのように光ったり音が出たりはしなかった筈だ……。

真珠の宝飾品についてもそう、だ。真珠の一粒、二粒を荷抜けさせるのとは訳が違う。高級そうな箱に入った粒の揃った真珠の首飾りと耳飾り……ブローチだけでも、庭付きの家が簡単に買えてしまうだろう。あれほどのものをいかにも迂闊そうなエマに任せるだろうか……?もしかしてアレは本当にエマが異世界から持ち込んで姉に渡そうとしているものなのでは……。


極め付けが先ほど立ち寄った店、だ。あのもじもじとした店主の店のメニュー表は大陸の共通言語と帝国語、ご丁寧に東方大陸の言語まで含めた3種類で表記されていた。にも関わらず………。


『えっと、コレ……なんて書いてあるんでしょうか……?』


エマは全くメニュー表が読めていなかった。識字率が低い地域から来たのかと思っていたが…………。もしかして本当に……そう、なのか……?

異世界人が我々より高い文明を持ち、世界を行き来できるならば、コイツは本当に異世界に嫁いだ姉にプレゼントを異世界から届けに来て迷子になった……?

いや、まさかそんな馬鹿げた話があるわけが………。しかし……。


エマを見るとぐんにゃりと力の抜けた身体を俺に預け、怯えの色を瞳に滲ませながらも無理に笑顔を浮かべている。その様子は悪戯がバレたときのジークのようで……。

………本当に厄介な犬を拾ってしまった。


密輸の組織を炙り出す、なんて面倒は元々御免だったんだ。ただの迷い犬を預かる程度のことで済むならそれに越したことはない。


「………お前がどこの何者か、などということには対して興味がない。お前が密輸に関係していないなら尚更、な。……無論、誰かに話そうという気もない。お前はただ姉に結婚祝いを届けに来ただけ、だろう?」
「は、はい!」


コイツの話を全て信じた訳じゃない。しかし……しばらくはコイツの書いた物語を暇つぶしにするのも悪くないと、そう思っただけだ。


しかし……これでヴォルグの細君・クレアとエマが無関係だ、とはっきりしたな。ヴォルグの妻は帝国語も東方大陸の言葉も読み書きできていた。それに彼女は同じ『忌鬼(おにならず)』のドーメイ伯爵夫人と同郷だったはずだ。バウシュタインに赴任する少し前に『クレアは伯爵夫人の茶会に呼ばれることになって随分と緊張しているようだ』とヴォルグが話していた。

万が一の可能性を考えて彼女にエマのことを聞いてみようかとも思ったが……、ただ無意味に亡くなった妹を思い出させるだけならば止めておいた方がいいだろう。

エマはあの黒い板を耳に押し当て、何かを聞いていた様に思えた。男の声が微かに漏れ聞こえて……。
会話している様にも思えたが……、いや、まさかな……。


未だ麻痺が抜けていないのか、へちょんと座り込んだエマを見つめ笑顔を作ると、エマは条件反射の如くふにゃ、と赤子が親を見つけた時のように無邪気に微笑んだ。
……駄目だ、こんな産まれたての雛のように警戒心の無い奴が犯罪に役立つ訳がない……。


わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でると、不安げな瞳で俺を見上げて………。


「オスカーさん………。あの……私……、オスカーさんの職業、なんとなく……気づいてます。でも、黙ってますから………。その……………。」


気付いている……?あぁ、ランバートとの会話から……何か察したのかもしれないな。まぁ、元々バレて困るようなものでもないが……、コイツにとってみれば迷子になって頼れるのは………たった一人、俺だけ………。


潤んだエマのチョコレート色の瞳から目を逸らせずにいる。
あぁ、本当に駄目だ。コイツに肩入れしすぎるのは良くない。良くないと分かっているが………あの日、救えなかったジークの代わりに,今度はコイツを助けてやりたいと、そう思ってしまった。


「……お前が俺を裏切らない限り、俺はお前の味方でいてやる」



そうして死ぬまでの長い暇つぶしの中で、俺は再び………犬を飼うことを決めたのだった。


◇  ◇   ◇  ◇


うーん、これって……限りなくアウトに近いセーフ………?


何だか、まだふわふわする身体を引きずりながらオスカーさんの後ろを着いて歩く。
多分異世界人だと完全にバレてしまっているだろうけれど、オスカーさんは特段何を聞いてくるわけでもなく黙って歩き続けている。いや、その方がありがたいんだけど……もしかして私にあんまり興味ない………?


「あの……これ、私……何のクスリ飲まされたんですか……?中毒性とか……」
「…………知らなくていい。害はない」


うっわ、もう……アレじゃん!ヤバいやつじゃん!
ばさっと疑問を切り捨てられ、それ以上オスカーさんには何も聞けなくなってしまった。うぅ、汐さんはオスカーさんを頼れって言っていたけど、本当に大丈夫なのかな……。

あっ、しまった!汐さんにオスカーさんが本当は何の仕事してる人なのか確認すればよかった!
汐さんの口ぶりから多分、貿易商ってのは嘘、なんだろうし………。


そういえば、忘れ物も……何だったんだろう……?パニックで色々聞き逃しちゃったな。今度電話するときまでに話したいこと紙に書いておかないと……。

とりあえず今後しないといけないことは、お姉ちゃんが迎えに来てくれるまでにスマホを『こくいんし?』で充電しておいて……、そうしたら念のために毎日教会に立ち寄ってみよう。もしかしたら何かの拍子でお姉ちゃんか汐さんに電話が繋がるかもしれないし……。


こっそりお姉ちゃんに会ったらオスカーさんに異世界人だってバレちゃったことを伝えて、それからは……。


どう………しよっかな………。


未だ、日本に戻れなくなったのだ、という実感はなくて………。この先の未来、を考える余裕もない。けれど……。


「……どうした。疲れたか?」


細そうな身体に見合わず、オスカーさんは怪力だ。ひょいと簡単に私をお姫さま抱っこで持ち上げて……。


「………あれだけ食う割にお前は随分軽いな。」


ふふっ、と笑う顔が尊い。めっちゃいい匂いする。かっこいい、優しい、ちょー好き……。結婚して……。


「………元気そうだな。自分の足で歩くか?」


全部口に出してしまっていたらしい。オスカーさんは呆れながらも抱っこし続けてくれて……。オスカーさんの胸に顔を預けると、ふわりと香る煙草の匂いに何故だか泣きたくなった。


「安心しろ。運搬代も給料から天引きしておいてやる。」


………んん⁉︎
そういえば……仕事……?

オスカーさんに抱き抱えられたまま、昨日は暗くて良くわからなかったホテルの外観を見上げた。
まるで積み木を積み上げて作ったお城の様なパステルカラーのメルヘンな建物。昔、お母さんに『あのお城に行きたい』とねだって『大人になったら彼氏に連れていって貰いなさい、あそこは大人の遊園地だからね♡』と言われた建物にそっくりだった。


いや、どう見てもラブホテル……。
ここは貿易商が定宿にするホテルじゃない……。


「今日から早速働いてもらうからな。」


………オスカーさんの無慈悲な死刑宣告がいつまでも私の頭の中で反響し続けていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...