アルス『達』の日常

すたるなぁさん

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11話〜

陸上女子、杏姉

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朝の運動場。
空気が澄んでいるのか、遠くの山がはっきりと見える。
その山の上から顔を出す朝日が、町を照らす。
遠くから、鳥のさえずりが聞こえてくるような、清々しい朝だ。

歌栄「じゃあ、今日の朝練はこれで最後にしよう。手空いてる人は片付け始めてね。」

陸上部の顧問である歌栄先生。
50mのコースの端で、部員達に向けて声を響かせた。
そのコースの前に、1人の少女が立つ。
白い髪にショートボブ風の髪型。乱れないよう、細いヘアバンドで留めてある。
軽く数回ジャンプをし、足を慣らす。
視線の先は、ゴールライン。
真剣な眼差しで、コース全体を目に通し、左膝と両手の先を地面に落とす。

歌栄「じゃ、いくよ~。」

首にかけていたホイッスルを口まで運び、咥えた。

歌栄「よ~い...」

彼女が、下ろしていた腰を上げる。
辺りに静寂が訪れる。

ピッ!

と、ホイッスルの音が鳴り響いた。
その合図とともに、勢いよく走り出す。
大地を蹴り、ものすごい速さでコースを駆け抜ける。
そして、ゴールラインを通り越した。

小杉「6.4秒!」

副顧問の小杉先生が、そのタイムを発表した。
Uターンをしながら、徐々にスピードを落としていく。
乱した髪を手ぐしで整え、頭を一度振る。

小杉「すご~い!新記録じゃない!?」

目を輝かせながら少女の方を向いて拍手する小杉先生。
白髪の少女は杏姉。陸上部に所属する、女子生徒だ。

小杉「やっぱりすごいね!」

小杉先生が杏姉を褒める。

杏姉「は、はい...ありがとうございます...」

だが、何故かあまり嬉しそうじゃない様子の杏姉。

小杉「ん?どうかしたの?」

ゴールラインの端に設置された赤いコーンを回収しながら、問いかけてきた。

杏姉「い、いえ!なんでもないです...」
小杉「そっか...まあいいか。じゃ、みんなのところに戻ろっか!」

そう言って、小杉先生は小走りで倉庫に向かっていった。

杏姉「...」

杏姉はそのまま、顧問の元へ向かう。

歌栄「いや~杏姉、なかなか記録出ないな~...」

歌栄先生が、苦い表情を浮かべている。

歌栄「6.4秒からなかなか抜け出せないね。これで何回目だっけ?」
杏姉「...13回目です。」

少し恥ずかしながらも、3本の指で、13を表す。

歌栄「え!?もうそんな出してたっけ!?6回とかじゃなかった!?」
杏姉「前の自主練で5回も...」

想像以上の回数に、歌栄先生は目を大きく見開いた。

歌栄「まあ...0.1秒の壁って思うより高いしな...無理は禁物だからね?」

それに杏姉が「はい」と答え、ベンチに腰を下ろした。
自分の水筒を手に取り、入っているスポーツドリンクを飲む。

杏姉「...」

飲み口から離し、足元に視線を落とす。
記録がここ最近止まっている。
部員や顧問のみんなの期待に応えられず、申し訳なく感じる。

杏姉「...また放課後頑張ろう」

誰にも聞こえないくらい小さな声で、そう呟いた。
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