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反撃編
カウントダウン 濁り
しおりを挟む「これが僕とルチアの話…まるで夢物語のような妄想の話に聞こえるだろう?でも、これは全部本当の話なんだ
あの日、僕のルチアはルチアでは無くなってしまった…魔力判定の儀で何が彼女の身に起きたのかわからない
けど、僕へ助けてって、忘れないでって言ったルチアは確かにあの瞬間までルチアだった…
だからこそ、僕は今のルチアが僕の知ってるルチアはしない事をしても、どんなに礼儀知らずな行動を起こそうが側にいると決めたんだ、今度は僕がルチアを救う番だって…そう思うから
……………ルディヴィス公爵子息…あのルチアはキミを兄だと言った、血の繋がりは確実に無いはずなのに、それは何故?あのルチアについてキミは何を知っているんだ?」
話しを終え、おれに疑問を投げかけ、じっと見つめるジェイス第二王子の目には涙が浮かんでいるのが見えた
どう返答すべきか…おれはずっと混乱している
ルチアもおれと一緒で異世界転生して前世の記憶が戻ったんだと思ってた…けど、どう考えてもジェイス第二王子が信頼していたルチアは桃香じゃない、本当に心の優しい一人の少女に思える
この違和感はなんだ?
異世界転生している自覚があるからわかる、おれは前世の千景という人物の記憶を覚えてるルディヴィスなんだ…前世の人格がおれを支配している訳じゃない…前世を思い出したタイミングでルディヴィスとしてシャルティの良き兄になろうと、救おうとしたのがおれだ
けど、ジェイス第二王子の話だと聖女ルチアは前世の桃香に精神を乗っ取られてるみたいな…そんな状況に思えてしまう
『あたしの中に何かがいる』
前世が桃香じゃ無いのか…?前世を思い出しただけなのに、まるで自分じゃない誰かが身体の中にいる、乗っ取られるみたいな言い方しないだろ?
桃香の魂がルチアに入り込んで精神を乗っ取った…?そんな事があり得るのか…?
そこでふと、ここは乙女ゲームではなく、誰かがシャルティを救う為に夢見た現実かもしれないってあの仮説が頭を過った
聖女ルチアは女神の声が聞こえていた、その女神の願いはシャルティによく似た見た目の女の子を救う事…その仮説が本当だとしたら
この世界の異物は桃香だ…聖女ルチアもジェイス第二王子も敵じゃない
「ジェイス第二王子、質問に答えたいと思います…けど、おれも先に言わせて下さい…これから話すことは夢物語ではありません、そしておれはあなたの敵じゃ無いって事を理解した上で聞いてください」
おれはこの世界が乙女ゲームに近い世界である事、誰かの願いが込められた世界の可能性がある事、前世の記憶を思い出した時の事から全てをジェイス第二王子に話した
隠し事は彼がおれに疑念を産む可能性があると感じだから…ジェイス第二王子は話には出なかったけど、心から聖女ルチアを愛している…
そんな大切な者の精神を乗っ取ったかもしれないのがおれの前世の妹だという事実を伝える為には、全てを話さなければ後悔するってそう思ったから
桃香がどんな人間かまで余す所なく全てを伝えた…
怒りや悲しみを露わにする事なく、ジェイス第二王子は静かにおれの話しを聞いてくれた
レオもシャルティもヘルリも…従者の男性も言葉を挟む事なくおれに最後まで話させてくれる…
聖女ルチアに入り込んだのは、おれの前世の妹である事も隠さずに全て伝え、これまでの情報からある考えが浮かんでいたからそれも話した
「これはおれの妄想でしかありません、これまでの情報から導きだした一つの可能性です
…………この世界は乙女ゲームで何度も断罪され命を奪われたシャルティを救う為に、女神様が用意した世界なんじゃないのかって思うんです…その世界におれの前世の妹…桃香がヒロインとして侵入したんじゃないかって…」
乙女ゲームの開始、それはヒロインが聖女としての力に目覚める所から始まっていた
この世界では元から聖光魔法を使えていた筈のルチアというヒロインが魔力判定を受けた時、どうやったかはわからないけど…乙女ゲームの開始としてプレイヤーである桃香がこの世界に入り込み、精神を乗っ取ったって事もあるんじゃないのか?
「ジェイス第二王子…おれは、おれ達は…
聖女様を…いえ、聖女の中に居る前世の妹、桃香を止めたい…皆が不幸にならない未来を掴みたい…
その為に桃香に取り返しのつかない失態を犯させ…表舞台から消す計画を立てています
もしも、桃香が聖女ルチアの精神を乗っ取っているなら、このまま放置は出来ないから…
全部、おれが知ってる事は話しました…だから…お願いします、どうか計画の邪魔だけはしないで下さい…
おれ達の行動が聖女ルチアの本当の未来を潰す事になるかもしれない…でも、今の聖女は…あの桃香って人間は…自分が愛される為ならなんだってする女だから…おれが止めないといけないんです…」
「お願いします、ジェイス第二王子…!お義兄様の気持ち分かってあげてください…!」
「ジェイス、お願いだ…!なるべく聖女ルチアを保護できるよう俺も尽力を尽くす…だからルディヴィスのする事を見守っていて欲しい…!!」
おれの言葉にみんな助けを出してくれる…
心苦しい…優しい聖女ルチアは確かに存在したと…ジェイス第二王子の気持ちが痛いほど分かるから苦しいんだ
ジェイス第二王子の話がそのまま現実に進んでくれていたらよかった…聖女ルチアがシャルティと友達になってくれる…乙女ゲームじゃない未来だったらどれだけよかっただろう…
でも、現実は桃香が聖女だ
あの濁った空色の瞳は桃香の気持が滲み出しているようにしか思えない…このままにはしておけない
分かってほしい…桃香から聖女ルチアを救う方法があるのかも分からない…だけど!!!
暫しの沈黙の後、ジェイス第二王子は頷き、優しい表情でおれ達に告げた
「………………うん、わかった…いいよ…邪魔はしない…
けれど、その作戦の後、ルチアは僕に預からせて欲しい…僕は、僕だけは最後までルチアの味方でありたいから…」
…………と、優しいのに悲しい声で一応邪魔しないと誓ってくれた
ジェイス第二王子は「今日はありがとう」と言って部屋を後にする…その姿はあまりにも悲しげだ
出来ることならば本当の聖女ルチアを救いたい…でも、どうすれば救えるんだ?
桃香が動き出すまでもう時間がない
そのタイミングで知るには遅すぎた事実…時間が足りない…それはわかってる…
でも…何か、おれ達に出来る事はあるのだろうか?
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