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1 私の婚約者様
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私が初めて彼との事を占った時に出てきたカードは『誠実』だったが、そのカードの向きは逆向きだった。逆向き、つまり逆位置のカードが指し示すのはそのカードが暗示する内容とは逆の意味を指す。つまり『誠実』ならばその反対である『不実』という言葉をカードは暗示していた。
彼と婚約をして三年、私は毎年彼との関係を占ってきた。
一年目は『不実』二年目は『背信』三年目の今年出たカードは何と『終焉』だった。
◆ ◆ ◆
夏が終わり、秋を迎えたこの時期は豊穣祭と呼ばれる豊穣の女神を称える祭りが数日間、王都で開かれる。
誰と一緒に祭りに行くのか学園全体がそわそわと浮足立っているこの時期に、私は学園の廊下を一人で歩いていた。
私は学園で一人で過ごす事に慣れていた。挨拶や軽い世間話をするくらいの学友なら何人もいるが、伯爵令嬢である私には、たとえ学生であっても学友たちに弱いところは見せられない。何気なく話した事が家門や自身の将来で足元を掬うことに繋がるかもしれないからだ。
私は前の日に借りた本を返すために図書室へと向かう。この学園の図書室は蔵書も豊富な上に放課後は利用する生徒が少ないので、私のように一人でゆっくり本を探したい生徒にとって放課後の図書室は気楽に過ごせる場所だった。
図書室のある北校舎は本校舎と渡り廊下で繋がっている。そして渡り廊下からは裏庭がよく見える。その中庭に置かれているベンチは恋人たちの指定席で、図書館へ行くには嫌でも目に入ってくる光景だった。
私の瞳に二人の姿が映る。見たくないと思っても見えてしまう二人。
少しクセのある濃い金色の髪と深い青色の瞳を持つ彼。薄い唇が少し冷たい印象だが彼の顔立ちは整っている。
隣に座る彼女は彼よりも薄い金髪で、瞳は彼と同じ深い青色の瞳。雪のように白い肌だが頬はほんのりと色づいていて、彼とは形の違う唇は小さくもぽってりとしていて彼女の印象を優しくも儚げに見せる。
彼女は私と同じ二年生で、彼は二学年上の四年生。学年が違うのに彼らが一緒にいる姿はよく見かける。
美男美女の彼らが座るだけで裏庭に置かれただけのベンチもロマンチックな場所に見えてしまう。
裏庭は他の生徒の目が少ないせいか、彼らの距離は校舎内で見かけるよりもずっと近く、ため息が出てしまうほど彼らは完璧な恋人たちだった。
「あっ……」
彼が彼女の掌を両手で優しく包んだと思ったら、急に彼が自分の顔を彼女の顔を近づけたので、私は思わず小さく声を漏らしてしまった。
小さく声を上げただけでは、お互いしか見えていない彼らに私は気付かれる事は無かった。
彼らは額を寄せ合って止まる。濃い金色と薄い金色の髪が重なる。何事かを話しているのだろうが、私のいる場所までは声が聞こえない。しかし彼の瞳が柔らかに彼女を見つめているのだけは分かった。
甘い雰囲気の彼らからは目を背け、私は図書室へかう。刺繍の本を読もう。図案が豊富なあの本は、昨日はまだ貸し出されていなかったはずだ。今日は恋愛小説だけは絶対に読みたくない。
彼と婚約をして三年、私は毎年彼との関係を占ってきた。
一年目は『不実』二年目は『背信』三年目の今年出たカードは何と『終焉』だった。
◆ ◆ ◆
夏が終わり、秋を迎えたこの時期は豊穣祭と呼ばれる豊穣の女神を称える祭りが数日間、王都で開かれる。
誰と一緒に祭りに行くのか学園全体がそわそわと浮足立っているこの時期に、私は学園の廊下を一人で歩いていた。
私は学園で一人で過ごす事に慣れていた。挨拶や軽い世間話をするくらいの学友なら何人もいるが、伯爵令嬢である私には、たとえ学生であっても学友たちに弱いところは見せられない。何気なく話した事が家門や自身の将来で足元を掬うことに繋がるかもしれないからだ。
私は前の日に借りた本を返すために図書室へと向かう。この学園の図書室は蔵書も豊富な上に放課後は利用する生徒が少ないので、私のように一人でゆっくり本を探したい生徒にとって放課後の図書室は気楽に過ごせる場所だった。
図書室のある北校舎は本校舎と渡り廊下で繋がっている。そして渡り廊下からは裏庭がよく見える。その中庭に置かれているベンチは恋人たちの指定席で、図書館へ行くには嫌でも目に入ってくる光景だった。
私の瞳に二人の姿が映る。見たくないと思っても見えてしまう二人。
少しクセのある濃い金色の髪と深い青色の瞳を持つ彼。薄い唇が少し冷たい印象だが彼の顔立ちは整っている。
隣に座る彼女は彼よりも薄い金髪で、瞳は彼と同じ深い青色の瞳。雪のように白い肌だが頬はほんのりと色づいていて、彼とは形の違う唇は小さくもぽってりとしていて彼女の印象を優しくも儚げに見せる。
彼女は私と同じ二年生で、彼は二学年上の四年生。学年が違うのに彼らが一緒にいる姿はよく見かける。
美男美女の彼らが座るだけで裏庭に置かれただけのベンチもロマンチックな場所に見えてしまう。
裏庭は他の生徒の目が少ないせいか、彼らの距離は校舎内で見かけるよりもずっと近く、ため息が出てしまうほど彼らは完璧な恋人たちだった。
「あっ……」
彼が彼女の掌を両手で優しく包んだと思ったら、急に彼が自分の顔を彼女の顔を近づけたので、私は思わず小さく声を漏らしてしまった。
小さく声を上げただけでは、お互いしか見えていない彼らに私は気付かれる事は無かった。
彼らは額を寄せ合って止まる。濃い金色と薄い金色の髪が重なる。何事かを話しているのだろうが、私のいる場所までは声が聞こえない。しかし彼の瞳が柔らかに彼女を見つめているのだけは分かった。
甘い雰囲気の彼らからは目を背け、私は図書室へかう。刺繍の本を読もう。図案が豊富なあの本は、昨日はまだ貸し出されていなかったはずだ。今日は恋愛小説だけは絶対に読みたくない。
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