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3 私とお姉さま
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伯爵家に着いた時にはもう日も暮れかかった時間で、私の涙はとうに乾いていた。
「おかえりなさい、今日はずいぶん遅かったのね。寄り道でもしてきたの?」
領地にいる両親の代わりに六歳年上の姉はいつも私の事を気にかけてくれる。
「お姉さま、私とデイヴィッド様との婚約はどのような経緯で結ばれたのかはご存知ですか?」
「そうね、食事の後に応接間へいらっしゃい。ゆっくり話しましょう」
そう言ってお姉さまは私をふわりと抱きしめてくれた。
「酷い表情をしているわ。すぐに用意をさせるから湯あみをしていらっしゃい」
お姉さまの優しい声色はデイヴィッド様とは逆の理由で私の瞳に涙を溢れさせた。
「はい、……ありがとうございます」
私たちは少し歳の離れた二人だけの姉妹だ。だから姉は学園に入る前から当主としての教育を受けていて、当主教育が落ち着く来年の春に婚約者との結婚を控えている。
なので姉よりも六年遅く生まれた私は最初から嫁入りする事が決まっていて、13歳の時にキース子爵家の跡取りであるデイヴィッド様と婚約を結んだ。
絵本に登場する王子さまのように、金髪で青い瞳のデイヴィッド様は顔立ちも整っていて、息を呑むほどの美少年だった。
だから私も最初は自分が将来結婚する相手がこんなに素敵な方だなんて幸せだと最初は思っていたのだが、その気持ちはすぐにがらがらと崩れていく。
婚約した時からデイヴィッド様は私への関心が薄かったのだ。会話も「ああ」とか「うん」とかその程度の相槌でしか答えてくれないし、彼の誕生会にだって一度も呼ばれた事が無く、私が一方的にプレゼントを贈るだけだった。
さらに私の誕生日会に招待しても、彼はいつも用事があるからと断られ、誕生日当日は小さな花束がひとつ贈られるだけだった。
これでは彼に期待は出来ないと、婚約一年目にして私は悟ったのだが、婚約二年目に彼と同じ学園へ入学した事で彼の気持ちが誰にあるのかを知らされる事になったのだった。
入学してすぐの頃、私の周りの令嬢たちは婚約者と一緒にランチを食べ、放課後は同じ馬車で一緒に買い物に出かけていくのをよく見かけていたので、もしかしたら婚約者の彼も私をランチや買い物に誘ってくれるのではないかと期待していたが、彼はいつも彼の再従兄妹であるベリンダ・ノースロット侯爵令嬢と一緒にいた。
そして彼は彼女と食堂でランチを食べたり、放課後は一緒に馬車に乗ってどこかへ出かけて行くのだった。
ベリンダ・ノースロット侯爵令嬢は学年で話題になるほどの美少女で、彼女に寄り添うようにいつも隣に立つ彼も美しい容姿をしているから二人は誰が見てもお似合いだった。
彼らがお互いに見つめ合って微笑む姿を見てため息をついていた同級生は何人もいた。
母親同士が従姉妹という事で血の繋がりのある彼らは兄妹ほどではなくてもどこか似た雰囲気があって、二人で一緒にいることは当たり前のようになっていた。
だから生まれた頃から一緒にいる彼らの間に私が入りこむ余地なんて全くないのを私は学園での彼らを見せられる事で思い知らされた。
そして彼の婚約者であっても見向きもされないくらい蔑ろにされている私は、学園の生徒たちからは腫れ物のように扱われるようになっていった。
◆ ◆ ◆
「あなたたちの婚約はデイヴィッド様のキース家からきたお話だったのよ」
「そうだったのですか。あちらからというのが、その……、意外でした」
「領地同士が近い令嬢で経済的に援助をしてくれる家を探していたようなの。更にデイヴィッド様はお顔立ちが整っていらっしゃるから、子供同士のお茶会で令嬢たちに囲まれる事が多かったらしいのよ。特に低位貴族の令嬢たちの強引な行動に嫌な思いをたくさんされたらしく、大人しい性格の貴族令嬢を希望されていらして、ジュディはキース家の求める条件にぴったりの子だったの。初めての顔合わせの時はジュディが頬を赤らめていたから、きっとデイヴィッド様のことを気に入ってくれたと思って、我が家もこの婚約を受ける事にしたのよ」
お姉さまの話を聞くだけではデイヴィッド様のキース家にとってばかり良い条件に聞こえてきてしまう。そんな条件の婚約者に対してあそこまで冷たい態度を取れる事が私には理解できなかった。
「キース家にとってこの婚約が利になる事は分かりました。それで、当家にとってはどのような利があるのでしょうか?」
「そうねえ、我が家にとっては領地が近いから結婚後もジュディが近くにいてくれる事かしら?」
「それだけ、ですか?」
「ええ、家を大きくしたかったら政略的に有利に働く家と縁づく事も考えたのだけれど、私は今のままで充分だと思っているの。出来れば息子を三人くらい産んでさっさと引退したいって思っているから、家を大きくするのは私の子供たちに任せたいって思っているわ。まだ産んでいないけれどね、ふふふ」
そう言ってお姉さまはころころと笑う。
「だからウチはジュディがデイヴィッド様との婚約を白紙にしても全然構わないの。むしろ困るのはあちらよ。ジュディはデイヴィッド様との事をどう思っているの?」
「今日のお茶会でデイヴィッド様に、結婚したら私に縛られるのだから、学生の時くらい自由に過ごしたいと言われてしまいました。私はこれまで学園でデイヴィッド様とお話しをした事は一度もありませんし、そうしたいと言った事もありませんでした。お茶会でも会話らしい会話もなく、このまま結婚をしてもデイヴィッド様は私に束縛されているのだと思いながら夫婦として一緒に過ごす事が出来るのか分からなくなってしまいました」
「そう、そんなことを言われしまったのね。かわいそうなジュディ……。婚約の事は私からお父様に相談してみるわ」
「ありがとうございます。お姉さま」
「そうそう今年の豊穣祭でもね、あなたに依頼がきているのよ。気晴らしにどうかしら?」
そう言いながらお姉さまは含みのある表情を浮かべる。多分これは断れない用件だ。
「………一日だけでしたら」
「良かったわ。色々あって断れない相手だったからジュディに断られたらどうしようかと思っていたのよ」
そう言ってお姉さまは両手を軽くぽんと叩いて、花が咲いたいように笑った。
「おかえりなさい、今日はずいぶん遅かったのね。寄り道でもしてきたの?」
領地にいる両親の代わりに六歳年上の姉はいつも私の事を気にかけてくれる。
「お姉さま、私とデイヴィッド様との婚約はどのような経緯で結ばれたのかはご存知ですか?」
「そうね、食事の後に応接間へいらっしゃい。ゆっくり話しましょう」
そう言ってお姉さまは私をふわりと抱きしめてくれた。
「酷い表情をしているわ。すぐに用意をさせるから湯あみをしていらっしゃい」
お姉さまの優しい声色はデイヴィッド様とは逆の理由で私の瞳に涙を溢れさせた。
「はい、……ありがとうございます」
私たちは少し歳の離れた二人だけの姉妹だ。だから姉は学園に入る前から当主としての教育を受けていて、当主教育が落ち着く来年の春に婚約者との結婚を控えている。
なので姉よりも六年遅く生まれた私は最初から嫁入りする事が決まっていて、13歳の時にキース子爵家の跡取りであるデイヴィッド様と婚約を結んだ。
絵本に登場する王子さまのように、金髪で青い瞳のデイヴィッド様は顔立ちも整っていて、息を呑むほどの美少年だった。
だから私も最初は自分が将来結婚する相手がこんなに素敵な方だなんて幸せだと最初は思っていたのだが、その気持ちはすぐにがらがらと崩れていく。
婚約した時からデイヴィッド様は私への関心が薄かったのだ。会話も「ああ」とか「うん」とかその程度の相槌でしか答えてくれないし、彼の誕生会にだって一度も呼ばれた事が無く、私が一方的にプレゼントを贈るだけだった。
さらに私の誕生日会に招待しても、彼はいつも用事があるからと断られ、誕生日当日は小さな花束がひとつ贈られるだけだった。
これでは彼に期待は出来ないと、婚約一年目にして私は悟ったのだが、婚約二年目に彼と同じ学園へ入学した事で彼の気持ちが誰にあるのかを知らされる事になったのだった。
入学してすぐの頃、私の周りの令嬢たちは婚約者と一緒にランチを食べ、放課後は同じ馬車で一緒に買い物に出かけていくのをよく見かけていたので、もしかしたら婚約者の彼も私をランチや買い物に誘ってくれるのではないかと期待していたが、彼はいつも彼の再従兄妹であるベリンダ・ノースロット侯爵令嬢と一緒にいた。
そして彼は彼女と食堂でランチを食べたり、放課後は一緒に馬車に乗ってどこかへ出かけて行くのだった。
ベリンダ・ノースロット侯爵令嬢は学年で話題になるほどの美少女で、彼女に寄り添うようにいつも隣に立つ彼も美しい容姿をしているから二人は誰が見てもお似合いだった。
彼らがお互いに見つめ合って微笑む姿を見てため息をついていた同級生は何人もいた。
母親同士が従姉妹という事で血の繋がりのある彼らは兄妹ほどではなくてもどこか似た雰囲気があって、二人で一緒にいることは当たり前のようになっていた。
だから生まれた頃から一緒にいる彼らの間に私が入りこむ余地なんて全くないのを私は学園での彼らを見せられる事で思い知らされた。
そして彼の婚約者であっても見向きもされないくらい蔑ろにされている私は、学園の生徒たちからは腫れ物のように扱われるようになっていった。
◆ ◆ ◆
「あなたたちの婚約はデイヴィッド様のキース家からきたお話だったのよ」
「そうだったのですか。あちらからというのが、その……、意外でした」
「領地同士が近い令嬢で経済的に援助をしてくれる家を探していたようなの。更にデイヴィッド様はお顔立ちが整っていらっしゃるから、子供同士のお茶会で令嬢たちに囲まれる事が多かったらしいのよ。特に低位貴族の令嬢たちの強引な行動に嫌な思いをたくさんされたらしく、大人しい性格の貴族令嬢を希望されていらして、ジュディはキース家の求める条件にぴったりの子だったの。初めての顔合わせの時はジュディが頬を赤らめていたから、きっとデイヴィッド様のことを気に入ってくれたと思って、我が家もこの婚約を受ける事にしたのよ」
お姉さまの話を聞くだけではデイヴィッド様のキース家にとってばかり良い条件に聞こえてきてしまう。そんな条件の婚約者に対してあそこまで冷たい態度を取れる事が私には理解できなかった。
「キース家にとってこの婚約が利になる事は分かりました。それで、当家にとってはどのような利があるのでしょうか?」
「そうねえ、我が家にとっては領地が近いから結婚後もジュディが近くにいてくれる事かしら?」
「それだけ、ですか?」
「ええ、家を大きくしたかったら政略的に有利に働く家と縁づく事も考えたのだけれど、私は今のままで充分だと思っているの。出来れば息子を三人くらい産んでさっさと引退したいって思っているから、家を大きくするのは私の子供たちに任せたいって思っているわ。まだ産んでいないけれどね、ふふふ」
そう言ってお姉さまはころころと笑う。
「だからウチはジュディがデイヴィッド様との婚約を白紙にしても全然構わないの。むしろ困るのはあちらよ。ジュディはデイヴィッド様との事をどう思っているの?」
「今日のお茶会でデイヴィッド様に、結婚したら私に縛られるのだから、学生の時くらい自由に過ごしたいと言われてしまいました。私はこれまで学園でデイヴィッド様とお話しをした事は一度もありませんし、そうしたいと言った事もありませんでした。お茶会でも会話らしい会話もなく、このまま結婚をしてもデイヴィッド様は私に束縛されているのだと思いながら夫婦として一緒に過ごす事が出来るのか分からなくなってしまいました」
「そう、そんなことを言われしまったのね。かわいそうなジュディ……。婚約の事は私からお父様に相談してみるわ」
「ありがとうございます。お姉さま」
「そうそう今年の豊穣祭でもね、あなたに依頼がきているのよ。気晴らしにどうかしら?」
そう言いながらお姉さまは含みのある表情を浮かべる。多分これは断れない用件だ。
「………一日だけでしたら」
「良かったわ。色々あって断れない相手だったからジュディに断られたらどうしようかと思っていたのよ」
そう言ってお姉さまは両手を軽くぽんと叩いて、花が咲いたいように笑った。
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