短編小説 過去作品

るい

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私を惨めにする女がいる。

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私より、幸せなあの子が許せない。
 
大して可愛いわけでも、美人なわけでもない。
いかにも「普通」な、あの女が、
どうして、私より幸せそうなの。
 
 
飲み会にも参加しない。
みんな、嫌だと思いながらも参加しているのに。
 
残業もしない。
みんな、残業代を稼ごうと必死なのに。
 
ランチも1人でお弁当を食べている。
大切なコミュニケーションなのに。
 
 
友達もいない、愛想もない、
ただ、淡々と仕事こなす、地味な女。
 
その女が、結婚して会社を辞めることになった。
 
 
営業の男性社員に聞いたところ、
大手企業のエリートが相手らしい。
 
どこで、そんな男を捕まえたのか、と疑問だったが、
幼馴染なんだそうある。
 
どうせ地味な男なのだろうと思ったが、
写真を見たら、かなりイケメンだった。
 
 
2年ほど前から同棲もしているらしい。
 
 
こっちは、エステやネイルサロンに通って、
綺麗でいるために、ひたすら努力して、
努力しているのに、
 
なんで、なんの努力もしていない地味な女が、
そんな男に選ばれるのよ。
 
 
「あの子が結婚って、なんかわかるよなぁ」
「わかる!目立たないけど気がきくし」
「コピー用紙とか消耗品もさりげなく補充してくれてるし」
「食べてるお弁当も美味しそうだしなぁ」
「愛想はないけどなぁ」
「話しかけて、くだらないこと言うと「めんどくせぇ」って顔して見下した目をするのが、なんかこう、いいんだよなぁ」
「ああ、うん、なんかわかる」
「旦那、絶対尻に敷かれてるよな」
 
 
男性社員たちの、そんな会話を聞いて腹だたった。
 
 
綺麗になろうと頑張っている私より、
あの子が、賞賛されるなんて。
 
あんな地味な子が。
 
 
「休憩中に、すみません」
 
あの子が話しかけてきた。
 
「なに?」
「退職することになったので、引き継ぎをしたくて」
「ああ、結婚するんだっけ?おめでとう」
「ありがとうございます」
「引き継ぎだっけ?」
「急なんですけど、明後日から有給消化して今月末で退職になるので」
「そうなの」
「引き継ぎ資料を作ってあるので、あとで部長のところでもらって下さい」
「部長に?」
「はい。細かく作ってあるので、部長に采配をお願いしました」
 
 
この子の、こういうところが腹立つのよ。
 
直接、渡してくれれば、
いちゃもん付けたり、もらってないとか、引き継ぎされてないとか
この女を悪者にすることができるのに、
 
こうやって、私たちが逆らえないような相手を間に入れたり、
「私はきちんと伝えました」という記録が残るようなやり方しかしないから、
 
こいつの評価を下げることができない。
 
 
どんなに周囲に嫌われても、気にも留めない。
仕事さえできればいい、と考えている。
 
 
自分が嫌われているってことが、わからないのかしら。
 
 
 
あの子が残した引き継ぎ資料は完璧だった。
 
おかげで、私の仕事は激増したのだ。
 
 
男性社員からは「ちゃんとやれ」とクレームが来るし、
残業は前よりも増えるし、
休日出勤もしなくちゃならないし、
 
エステにもネイルサロンにも行く暇がなくなって、
肌も髪もボロボロである。
 
 
あの子は、これだけの仕事を素知らぬ顔でこなして、
定時退社していたのだ。
 
おかしいだろ!!
 
 
「元々、お前の5倍の仕事をしてたんだよ、あの子」
「お前が、だらだらスマホ見てる間にな」
 
 
ある時、同期の男性社員からそう言われた。
 
 
「お前のこと、注意しないの?って聞いたら、「先輩だから、私が指導する立場ではないので」って」
「仕事できるタイプで、昼休憩もしっかり休んでたし、残業も休日出勤もしてないみたいだったから、部長も放置してたみたいだけど」
 
なんなんだ、あの女は。
 
 
「今度、中途で採用されて新しくお前の部署に入ってくる人がいるらしいから。それまでの我慢でしょ」
 
 
あの女は、どれだけ私を惨めにすれば気が済むのよ。

 



 
 
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