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私は「可愛い」
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安藤 香苗 (女子高生)
河合 琳 (女子高生)
田中 圭一 (男子校生)
ーーーーー
クラスに、いつも1人でいる子がいる。
河合さんという女の子で、
身長も高くて、手足の長い美人さんだ。
自分で言うのもなんだが、
私も、周りからは「可愛い」と言われている。
けれど、河合さんは、美人なのだ。
私とはジャンルが違う。
しかし、彼女には友達がいない、らしい。
たまに話をしている男の子はいるが、
彼氏の弟だから対応しているだけで、
仲が良いわけではないらしい。
河合さんの彼氏は、大学生で、
同じ剣道道場に通っているとか。
河合さんは、部活には入っていないし、
大会にも出ないけれど、
かなり強いらしい。
うちの高校を選んだ理由の一つに「剣道部がない」ことがあると聞いた。
なぜ、私が彼女のことを
こんなにも知っているのか、というと。
彼女と友達になりたくて、
色々聞き回ったからだ。
河合さんに友達がいないから、かわいそうとかじゃない。
以前、彼女が私のことを庇ってくれたからだ。
誰とも衝突したくなくて、
無意味に愛想を振り撒いてしまい、
逆に敵を作ってしまい、トラブルになることも多いのだが、
以前、河合さんが唯一会話をする男の子である田中くんの彼女と険悪になりそうだったところを、
彼女が田中くんに助言したことで、回避できたのだ。
2人の会話を、偶然聞いていた。
いや、河合さんはただ、田中くんを諌めただけだったが、
私にとっては、嬉しい言葉だったのだ。
みんな、私を可愛いって勝手に言って、
周りを不快にして、私を敵として扱う。
確かに私は可愛いし、
それを利用していないといえば嘘になるが、
誰かを貶めるために使ったことはない。
正直なところ、
周りが自爆して貶められて、私が巻き込まれているだけだ。
河合さんは、私を悪としなかった。
その時から、彼女と仲良くなりたいと思ったのだが、
なかなかうまくいかなかった。
「河合さん、おはよう!」
「おはよう」
挨拶をしても、普通に返される。
改めて観察してみたら、
彼女に、挨拶をする人間は多かった。
そして、彼女はオートで返事をしている。
友達がいない、というか、
作る気がないだけなのでは、と思い始めたが、
友達がいらない人間なんているはずがないのだ。
「河合さん、数学の課題がわからなくて、教えて欲しいのだけど」
「いいよ」
昼休みにノートを持って近づけば、
意外にあっさり応じてくれた。
しかも、わかりやすく教えてくれて、
ちょっと賢くなった気がする。
あとで田中くんに聞いたら、
通っている剣道道場の中学生相手に、家庭教師のバイトもしているらしい。
彼女にとっては、
なんて事のない、日常的な事だったので、進展はない。
仲良くなりたくて、頑張っているのに、
なんの進展もない。
これは、もう同じ剣道道場に通うしかないのでは。
そんなことを考え始めた頃、嫌なことが起きた。
昼休みにトイレに行こうとしたら、
中から、クラスの子の声が聞こえてきた。
「安藤さん、よくやるよね」
「いい子ちゃんぶってるよね」
「友達がいない河合さんに同情してるんじゃない?」
「いやいや、自分が嫌われてるのを理解したから、友達作ろうと必死なんでしょ?」
「いえてる!」
そのまま、トイレには入らず教室に戻った。
嫌われているのなんて、わかってる。
けど、私が何をしたって、あんたたちは私のこと嫌いじゃん。
好かれようと思ったことはない。
けれど、それなりにうまくやろうと、頑張っていただけなのに。
私は、可愛い。
可愛くありたいと思っている。
そのために、頑張ってもいる。
そんな私を、私は好きだから。
けれど、そんな私が、周りに好かれないことも知ってる。
私は、誰かの彼氏に色目を使ったことはない。
ただ、普通に接していただけだ。
じゃあ、なんだ。
私は友達の彼氏に、仏頂面で悪態をつけばよかったのか?
それは、人として失礼だろう。
それをやったら、怒るだろうに、
私はどうすればよかったというのだ。
教室に戻り、席に戻って鞄から文庫本を取り出して読み始めた。
河合さんと仲良くなりたくて、
彼女がよく本を読んでいるから、私も真似してみた。
そしたら、面白くて、
1冊読み終わったら、すぐに本屋さんに行くくらいに読書が好きになった。
そういえば、「可愛い私」が好きになったのも、
きっかけは、雑誌に載っていたコラムがきっかけだった。
「可愛い」に自信を持っているモデルさんに憧れて、
私も、可愛いに自信を持ちたくなって、努力したのだ。
でもね。
自分のために頑張っても、辛いことはあるんだな、って。
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