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ポンコツ令嬢奮闘記

そんな事になるなんて。

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私が思っていたものとは思いもよらぬ方向へと物事は進んでいった。

気絶していた私がアリスティア姫とジークハルト王子から、事の顛末を聞いている間、トラブル続きの晩餐会はいつの間にかお開きになったらしい。

私がアリスティア姫達に連れられて、大広間に行った頃、晩餐会の参加者達は既にまばらであった。

大広間の床と結婚したシャンデリアはそのままになっていた。ぐちゃぐちゃになったシャンデリア。

良くこの中心で生き残ったものだ、私の背筋は少し冷たくなっていた。

白金鋼の様に煌めく髪を靡かせる男女がシャンデリアを調べている。

「ヴァルハイト、アリーシャ、何かわかりましたか?」

ジークハルト王子が二人に尋ねると、二人とも、こくりと頷いていた。

「これは火の魔法による、人為的なものです。」

ヴァルハイトと呼ばれた男性がジークハルト王子に言った。

「この断面を見て下さい。まるで鋭利な刃物で斬られた様な中心面に周囲は溶けているでしょ?」

アリーシャと呼ばれた女性が私達に、シャンデリアを吊るす鎖の先端を見せてくれた。
見事に綺麗に斬られている。

「あの暴走カートも車輪に魔力の痕跡が有りました。恐らくは姫様の生命を狙ったものと考えられます。」

「わかりました…。ヴァルハイト、アリーシャありがとうございました。引き続き警戒し、何かあったらすぐに伝えて下さい。」

ジークハルト王子の指示を受けると、ヴァルハイトとアリーシャはその場を後にした。

「再度申し上げますが、アクティナ様は私達の生命の恩人です。」

「あの時、セクテット公爵令嬢が私達を突き飛ばしてくれてなかったら、今頃、私達は…」

「まさか、この様な祝いの席で生命を狙われるとは思いませんでした…。」

「セクテット公爵令嬢をはじめ、多数の貴族においで頂いたのに…この様な残念な席になってしまい、誠に申し訳ない限りです。」

ジークハルト王子もアリスティア姫も何処か残念そうに私に頭を下げて。俯いていた。

こうやって一人一人の貴族に頭を下げていたのだろうか。

そう思うと、少しだけ胸の奥が痛む気がした。

私が嫉妬にまかせ、アリスティア姫をちょっと突き飛ばしたら"偶然"にも彼女の生命を救っていたと言うのは、私にとって衝撃的だったが、何と言う、とんでもない事になってしまったのか…。

…これ、もしかしてアリスティア姫達の生命狙ってた人達は私の事も目を付けたんじゃないの…?
少し哀しい笑顔で微笑む二人を見て、私はそう思った。

私が気絶から目覚めた後、この日は夜も遅くなってしまった為、私の身を案じたジークハルト王子とアリスティア姫は、イスト王城へ泊まる様に促した。

私の従者達も一緒に泊めてもらえるとの事だったので、私は二人の提案に二つ返事で了承した。

それがまずかったのだろうか…?

私の身の回りで実に奇妙な事が起こりだす。
寝不足になる程、私にとって生まれて初めて長い夜となった。

寝室に案内される間の事である。
私がイスト王城の廊下を歩いていると、展示されている甲冑が私に降り注いできたり。

壁に設置されたカーテンがいきなり斬り裂かれ襲いかかってきたり。

カーペットがずれて転んでしまったり。

植木鉢が倒れたり。窓が外側へと割れたり。

寝室に到着するまで、実に奇妙な現象が起き続けた。

寝室には浴室が付いていて、私が幼い頃から世話をしてくれている従者アンナの手伝いのもとゆっくりと湯船に浸かる。

騒動だらけの一日でやっと落ち着ける時間ができた。

ここまで目まぐるしく色々なことがあると、ジークハルト王子へ思い描いていた乙女の恋慕や、アリスティア姫への逆恨みによって産まれた、ささやかな憎しみなど、最早どうでも良くなっていた。

そんな事よりも、アリスティア姫が涙を流すほど心配してくれたり、王子と姫に大変感謝してもらったことの方が私にとっては大きな事だ。

私によるただの嫌がらせが、偶然にも功を制しただけとは二人は思いもよらないだろう。

それにしてもカートが暴走した時も、シャンデリアが落下してきた時も、何もかもが絶妙なタイミングだった事が不思議である。

そして、どのトラブルも私を巻き込んだが、偶然にも当たりどころがよく、衣服こそ汚れたり損傷したりしたものの、私は至って無傷である。
これを幸運と呼ぶのか、悪運と呼ぶのか、果たしてその二つでもないのか、私にはわかりかねた。と言うより考える事を放棄していた。

色んな事に巻き込まれたけど、今私が生きている事は事実だ。

そして、湯浴みを終えて寝巻きに着替えた私と従者のアンナ。
今、目の前で銀色の甲冑がこちらを見ているのも事実だ。

「は?」

ガッチャガッチャと金属音を響かせながら、腰に携えた剣を抜いた。アンナは叫ぶ。

「お嬢様ッ!」

「え?え?…何あれ?」

私は困惑していた。アンナは私の手を引き駆け出した。

「お嬢様!お逃げますよッ!!」

「逃げるって!?どこへ!?」

「戦える人がいるところです!!」

私とアンナは脇目も振らずにその場を逃げ出したのだった。
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