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幕末剣士、元いた時代へ
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わたしたちは、うろに現れた赤紫色の光に吸い込まれてしまったのだった。
ふと、まぶしさに目が覚める。
ゆっくりとまぶたを開けると、宗治が倒れているのが目に入った。
「…宗治、起きてっ」
宗治の体を揺すると反応があった。
まぶしいと思ったら、太陽の光が差し込んでいた。
…ということは、朝?
突然桜が狂い咲いて、木のうろが赤紫色に光りだした。
その光の渦に吸い込まれたかと思ったけど…。
わたしと宗治は、その桜の木の前にいた。
…あれは夢だったのかな。
それで、一晩中わたしたちはここに倒れていたのだろうか。
だけど……あれ?
なんだかこの桜の木、うちにあるのと違って二回りほど小さいような。
でも、同じところにうろがあるから、同じ桜の木のはずなんだけど…。
「…おい、ここって」
すると、隣に倒れていた宗治が飛び起きた。
宗治は茂みをかき分ける。
わたしは宗治のあとに続くも、変な感じだった。
だって、うちの庭の桜の木の周りには茂みもない。
同じ場所なんだけど、どこかわたしの知らない場所にいるような…。
そんな感覚だった。
「待ってよ、宗治…!」
宗治の後ろを追っていると、突然ピタリと止まるものだからその背中にぶつかってしまった。
「急に…なに?」
「…見てみろよ、びぃ」
宗治がそう言うから顔を覗かせると、茂みをかき分けた向こう側には寝殿造の立派なお屋敷が立っていた。
「なにこれ…。ここって、うちの家があるはずじゃ…」
「違ぇよ。これは…藤門家の屋敷だよ」
藤門家って、都子姫の…。
「…ということは」
「…戻ってきたんだよ!俺の時代に!」
じわじわと喜びがわき上がる宗治。
だけど、わたしは信じられずにいた。
あの赤紫色の光に包まれたとき、もしかしたら宗治の時代にタイムスリップするかもしれないと思った。
そうしたら、本当に同じ場所だけど知らない場所にいた。
だからって、そんなすぐに信じられるわけがなかった。
おそらく、初めて現代にきた宗治もこんな感じだったのだろう。
「じゃあここって、宗治がいた幕末の時代ってこと…!?」
「だから、そう言ってんだろ!喜べよ、びぃ!」
「…喜べないよ!わたしはどうやったら帰れるっていうの…!?」
ふと、2人同時に桜の木を見上げる。
朝日に照らされる桜は、まぶしいくらいに緑の葉っぱが茂っている。
「…さぁ?また桜が咲いたら戻れるんじゃね?」
自分が元の時代へ戻ってこれたからって、ものすごく適当な回答だった。
「わたしはいやだよ…!?幕末で暮らすだなんて――」
「…シッ!静かにっ」
突然宗治に手で口を塞がれ、茂みの中に連れ込まれた。
すぐそばには宗治の顔があって、わたしは思わず頬が熱くなった。
「な…なにするの!」
「ここが俺がいた時代なら、もうすぐ屋敷の者たちが起きてくる時間だ。俺はともかく、お前が見つかったら大変だろ」
「それは…そうだけど」
「俺がここで死んだとき、屋敷は火事で燃えたはずだった。それが今こうして残ってるってことは、もしかしたら今は…火事になる前なのかもしれない」
だから、今が何年の何月なのか。
それを確かめてくると言って、宗治はわたしを残して行ってしまった。
仕方なく、その間にわたしは桜の木を調べることに。
幹をペタペタと触ってみたり、うろに手を突っ込んでみたり。
はたまた「現代へ返してくださ~い」と囁いてみたけど、桜の木はうんともすんとも言わない。
そんな桜の木を見上げていると、急に胸騒ぎがした。
本当に、知らない世界で1人残されたような気がして。
しばらくすると、宗治が戻ってきた。
「どうだった?なにかわかった?」
「どうやら今は、火事になる半年前のようだ」
つまり宗治は、死んだはずの日から蘇って、半年前の日に戻ってきたということになる。
これも、都子姫と結婚したいという強い想いのおかげなのだろうか。
「それと、ひとまずお前はこれで顔を隠してろ」
そう言って宗治が差し出したのは、細長い白い布。
「…包帯?」
どうやら、自分の部屋へ忍び込んで持ち出してきたようだ。
「びぃは、都子姫と顔が瓜二つだからな。そんなびぃが平然とその辺を歩いていたら、騒ぎになるに決まってる」
都子姫は、この辺りでは有名な公家のお嬢様。
お屋敷の中でも外でも、だれかに見られるとマズイんだそう。
都子姫が2人いると思われるから。
それに、わたしが都子姫じゃないとなれば、宗治が初めてわたしと会ったときのように妖怪呼ばわりされかねない。
だから、わたしは顔がわからないように、宗治によって雑に頭に包帯を巻かれた。
「これでよしっと」
そうつぶやいて、満足そうな表情の宗治。
だけどわたしは顔の半分を包帯で隠されて、片目しか見えない状態で非常に心地悪い。
「…これ、もう少しどうにかならないの?」
「ちょっとくらい我慢しろ。これなら、都子姫と顔が同じだとは悟られねぇはずだから」
池には、ムスッとして不満そうなわたしの顔が映っている。
そこへ、宗治が歩み寄る。
「びぃは屋敷の外にいろ」
「…外?外に行って、わたしはどうしたらいいの?」
「心配すんな。俺はいったん屋敷に戻って、現状が把握できたらまた戻ってきてやるから」
幸い、わたしが今着ているのは浴衣。
この時代に溶け込むことはできる。
だけど、よく知りもしない幕末の時代にぽつんと1人残されて、なにをしろっていうの。
今は、宗治だけが頼みの綱。
さっきわたしから離れたときだって、本当は心の中では戻ってこなかったらどうしようと考えていた。
そんな不安な気持ちが顔に表れていたのだろうか…。
「心配すんな。びぃが無事に現代に帰るまで、この世界では俺が面倒見てやるからっ」
そう言って、宗治はわたしの頭をぽんぽんっとなでた。
いつもわたしには失礼で意地悪なくせに、こういうときだけ優しくしないでほしい。
吊り橋効果で…好きになったらどうするの。
「とりあえず今から外に出るが、屋敷の出入口には門番がいて、そこは通れねぇ」
「じゃあ、どこから出るの?」
「大丈夫。こっちに俺や壱がガキの頃から使ってる抜け道があるから、そこから外へ出る」
都子姫と幼なじみの宗治と壱さんは、幼いときからこの屋敷で遊んでいたんだそう。
だから、都子姫に仕える前から屋敷のことに関しては詳しかったらしい。
「びぃ、こっちだ」
「…あっ。待って、宗――」
「宗治…?」
早朝の静かな屋敷の庭園に、宗治の名前を呼ぶわたしの声が響く。
――でも、そんなはずがない。
だって、まだわたしは宗治の名前を呼んでいないのだから。
それに、その声はわたしの背後から聞こえた。
前を見ると、大きく目を見開け、ぽかんと口を開けた宗治がわたしを見つめている。
いや、…違う。
宗治の視線は、わたしの後ろに向けられている。
その視線をたどるようにして振り返ると――。
「やっぱり宗治だっ」
寝殿と対屋とを繋ぐ、橋のような廊下の透渡殿から、美しい赤色の着物に長い黒髪がこぼれる女の人が微笑んでいた。
わたしは、その人を見て思わず息を呑んだ。
なぜなら、声も顔も髪型も…わたしそっくりだったから。
「…宗治!もしかして、あの人が――」
「都子姫…」
驚いて、心ここにあらずといったような宗治の顔。
しかし、その瞳が潤んでいるのに気づいた。
「…姫!ご無事でしたか!?」
ふと、まぶしさに目が覚める。
ゆっくりとまぶたを開けると、宗治が倒れているのが目に入った。
「…宗治、起きてっ」
宗治の体を揺すると反応があった。
まぶしいと思ったら、太陽の光が差し込んでいた。
…ということは、朝?
突然桜が狂い咲いて、木のうろが赤紫色に光りだした。
その光の渦に吸い込まれたかと思ったけど…。
わたしと宗治は、その桜の木の前にいた。
…あれは夢だったのかな。
それで、一晩中わたしたちはここに倒れていたのだろうか。
だけど……あれ?
なんだかこの桜の木、うちにあるのと違って二回りほど小さいような。
でも、同じところにうろがあるから、同じ桜の木のはずなんだけど…。
「…おい、ここって」
すると、隣に倒れていた宗治が飛び起きた。
宗治は茂みをかき分ける。
わたしは宗治のあとに続くも、変な感じだった。
だって、うちの庭の桜の木の周りには茂みもない。
同じ場所なんだけど、どこかわたしの知らない場所にいるような…。
そんな感覚だった。
「待ってよ、宗治…!」
宗治の後ろを追っていると、突然ピタリと止まるものだからその背中にぶつかってしまった。
「急に…なに?」
「…見てみろよ、びぃ」
宗治がそう言うから顔を覗かせると、茂みをかき分けた向こう側には寝殿造の立派なお屋敷が立っていた。
「なにこれ…。ここって、うちの家があるはずじゃ…」
「違ぇよ。これは…藤門家の屋敷だよ」
藤門家って、都子姫の…。
「…ということは」
「…戻ってきたんだよ!俺の時代に!」
じわじわと喜びがわき上がる宗治。
だけど、わたしは信じられずにいた。
あの赤紫色の光に包まれたとき、もしかしたら宗治の時代にタイムスリップするかもしれないと思った。
そうしたら、本当に同じ場所だけど知らない場所にいた。
だからって、そんなすぐに信じられるわけがなかった。
おそらく、初めて現代にきた宗治もこんな感じだったのだろう。
「じゃあここって、宗治がいた幕末の時代ってこと…!?」
「だから、そう言ってんだろ!喜べよ、びぃ!」
「…喜べないよ!わたしはどうやったら帰れるっていうの…!?」
ふと、2人同時に桜の木を見上げる。
朝日に照らされる桜は、まぶしいくらいに緑の葉っぱが茂っている。
「…さぁ?また桜が咲いたら戻れるんじゃね?」
自分が元の時代へ戻ってこれたからって、ものすごく適当な回答だった。
「わたしはいやだよ…!?幕末で暮らすだなんて――」
「…シッ!静かにっ」
突然宗治に手で口を塞がれ、茂みの中に連れ込まれた。
すぐそばには宗治の顔があって、わたしは思わず頬が熱くなった。
「な…なにするの!」
「ここが俺がいた時代なら、もうすぐ屋敷の者たちが起きてくる時間だ。俺はともかく、お前が見つかったら大変だろ」
「それは…そうだけど」
「俺がここで死んだとき、屋敷は火事で燃えたはずだった。それが今こうして残ってるってことは、もしかしたら今は…火事になる前なのかもしれない」
だから、今が何年の何月なのか。
それを確かめてくると言って、宗治はわたしを残して行ってしまった。
仕方なく、その間にわたしは桜の木を調べることに。
幹をペタペタと触ってみたり、うろに手を突っ込んでみたり。
はたまた「現代へ返してくださ~い」と囁いてみたけど、桜の木はうんともすんとも言わない。
そんな桜の木を見上げていると、急に胸騒ぎがした。
本当に、知らない世界で1人残されたような気がして。
しばらくすると、宗治が戻ってきた。
「どうだった?なにかわかった?」
「どうやら今は、火事になる半年前のようだ」
つまり宗治は、死んだはずの日から蘇って、半年前の日に戻ってきたということになる。
これも、都子姫と結婚したいという強い想いのおかげなのだろうか。
「それと、ひとまずお前はこれで顔を隠してろ」
そう言って宗治が差し出したのは、細長い白い布。
「…包帯?」
どうやら、自分の部屋へ忍び込んで持ち出してきたようだ。
「びぃは、都子姫と顔が瓜二つだからな。そんなびぃが平然とその辺を歩いていたら、騒ぎになるに決まってる」
都子姫は、この辺りでは有名な公家のお嬢様。
お屋敷の中でも外でも、だれかに見られるとマズイんだそう。
都子姫が2人いると思われるから。
それに、わたしが都子姫じゃないとなれば、宗治が初めてわたしと会ったときのように妖怪呼ばわりされかねない。
だから、わたしは顔がわからないように、宗治によって雑に頭に包帯を巻かれた。
「これでよしっと」
そうつぶやいて、満足そうな表情の宗治。
だけどわたしは顔の半分を包帯で隠されて、片目しか見えない状態で非常に心地悪い。
「…これ、もう少しどうにかならないの?」
「ちょっとくらい我慢しろ。これなら、都子姫と顔が同じだとは悟られねぇはずだから」
池には、ムスッとして不満そうなわたしの顔が映っている。
そこへ、宗治が歩み寄る。
「びぃは屋敷の外にいろ」
「…外?外に行って、わたしはどうしたらいいの?」
「心配すんな。俺はいったん屋敷に戻って、現状が把握できたらまた戻ってきてやるから」
幸い、わたしが今着ているのは浴衣。
この時代に溶け込むことはできる。
だけど、よく知りもしない幕末の時代にぽつんと1人残されて、なにをしろっていうの。
今は、宗治だけが頼みの綱。
さっきわたしから離れたときだって、本当は心の中では戻ってこなかったらどうしようと考えていた。
そんな不安な気持ちが顔に表れていたのだろうか…。
「心配すんな。びぃが無事に現代に帰るまで、この世界では俺が面倒見てやるからっ」
そう言って、宗治はわたしの頭をぽんぽんっとなでた。
いつもわたしには失礼で意地悪なくせに、こういうときだけ優しくしないでほしい。
吊り橋効果で…好きになったらどうするの。
「とりあえず今から外に出るが、屋敷の出入口には門番がいて、そこは通れねぇ」
「じゃあ、どこから出るの?」
「大丈夫。こっちに俺や壱がガキの頃から使ってる抜け道があるから、そこから外へ出る」
都子姫と幼なじみの宗治と壱さんは、幼いときからこの屋敷で遊んでいたんだそう。
だから、都子姫に仕える前から屋敷のことに関しては詳しかったらしい。
「びぃ、こっちだ」
「…あっ。待って、宗――」
「宗治…?」
早朝の静かな屋敷の庭園に、宗治の名前を呼ぶわたしの声が響く。
――でも、そんなはずがない。
だって、まだわたしは宗治の名前を呼んでいないのだから。
それに、その声はわたしの背後から聞こえた。
前を見ると、大きく目を見開け、ぽかんと口を開けた宗治がわたしを見つめている。
いや、…違う。
宗治の視線は、わたしの後ろに向けられている。
その視線をたどるようにして振り返ると――。
「やっぱり宗治だっ」
寝殿と対屋とを繋ぐ、橋のような廊下の透渡殿から、美しい赤色の着物に長い黒髪がこぼれる女の人が微笑んでいた。
わたしは、その人を見て思わず息を呑んだ。
なぜなら、声も顔も髪型も…わたしそっくりだったから。
「…宗治!もしかして、あの人が――」
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驚いて、心ここにあらずといったような宗治の顔。
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