時をこえて、またキミに恋をする。

中小路かほ

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幕末剣士、元いた時代へ

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古関先輩に、剣道部への入部を勧誘された宗治。

その日の放課後に、さっそく宗治は剣道部の見学にやってきた。


「びぃも部員なのに、着替えなくてもいいのか?」

「わたしは剣道部の部員だけど、マネージャーなの。だから、動きやすいようにジャージのままでいいの」

「“まねーじゃー”…?」

「部員を陰でサポート…って言ってもわからないか。みんなが練習に専念できるように、その他の雑務をするのが役目なの」

「要は、縁の下の力持ちってやつか」


宗治にしては、いいこと言うじゃない。

感心していると、宗治の姿を見つけた古関先輩が駆け寄ってきた。


「春日井くん!きてくれてありがとう」

「くるつもりじゃなかったが、びぃがいるならと思って」

「そうか。いとこ同士で仲がいいんだね」


古関先輩はそう言うけど、おそらく宗治はそういうつもりで言ったのではない。


わたしが近くにいるなら、消える心配もないからついてきた。

…という意味合いだろう。


「そこで見ているのもつまらないと思うから、さっそく練習に参加してみないか?」

「…俺が?」

「先にみんなに話したら、ぜひキミの腕前を見たいと言って」


ということで、宗治は剣道着に着替えた。


「よく似合ってる!だけど、初めての袴なら歩きにくくないかな?」

「いや、むしろこのほうが落ち着く」


宗治にとっては、袴が普段着みたいなものだもんね。

最近は、制服かスウェットばかりだったから、袴姿の宗治は久々に見る。


そうして、剣道部の練習に参加することとなった宗治。


試合形式をしてみたけど、なんと上級生たちを難なく倒してしまった…!

その強さに、部員たちは圧倒される。


剣道部のエースで部長の古関先輩だって、宗治相手で苦戦するほど。


最終的には古関先輩が勝ったけど、力や技は宗治のほうが上だった。

ルールを理解していれば、おそらく宗治が勝っていたに違いない。


「古関先輩、お疲れさまです」


宗治との試合を終えた古関先輩に、ドリンクを手渡す。


「ありがとう、高倉。それにしても、春日井くんの強さには驚くばかりだよ」

「それでも、やっぱり最後に決める古関先輩は、さすが剣道部のエースです!」

「ありがとう。だけど、オレの目に狂いはなかった。春日井くんは、この剣道部に絶対に必要な存在だ」

「宗治が…ですか?」


すっかり宗治のことを気に入ってしまった古関先輩。

古関先輩が言うから宗治を一応剣道部に連れてきたけど、まさか本当に入部する流れになるとは思っていなかった。


家でも教室でも宗治といっしょなのに、…部活までも?


わたしの楽しみである部活まで宗治といっしょになるのはごめんだったけど、古関先輩の頼みに宗治はまんざらでもない顔をして応えていた。


こうして、宗治はわたしと同じ剣道部に入部することに。



「えっ!宗治にいちゃん、剣道部に入るの!?」


夜ごはんのときに、宗治が剣道部に入部するという話をしたら、朔が驚いていた。


「せっかく現代にきたんだから、もっといろんなスポーツを試せばいいのに。サッカーとかおもしろいじゃんっ」


断然サッカー派の朔は、どうやら宗治といっしょにサッカーをしたかったようだ。


「現代では、蹴鞠けまりが人気みたいだな。でも、俺はやっぱり刀を握るほうがしっくりくる」

「刀じゃなくて、竹刀しないね」


わたしはごはんを口に運びながら、宗治に指摘した。


「朔も、父ちゃんから剣道を教わってたんだろ?」

「そうだけど、周りで剣道やってるヤツなんていねーもん」


朔は口を尖らせていた。


そのあと、わたしはお風呂に入った。

そして、湯船に浸かりながらふと考えた。


剣道部に入部することになった宗治。

これからの大会で活躍しそうと言われていたけど、次に桜が咲くときには元の時代に戻るんだよね?


こっちの生活にもすっかり慣れてしまって、わたしも宗治がいる毎日が当たり前のようになっていた。


初めは、早く帰らないかななんて思っていたけど――。

いざ、宗治がいなくなると思うと…なんだか寂しかったり。



「お母さん、お風呂空いたよ~」


お風呂から上がってお母さんを呼びに行くと、畳の部屋で浴衣を広げていた。


「どうしたの、その浴衣?」

「押入れの奥から、お母さんが若い頃に着ていた浴衣が出てきたの」


白地に赤色の麻の葉模様のシンプルな浴衣だった。


「ちょうど今の都美の丈くらいなんだけど…。でもこんな昔の浴衣、着ないわよね」

「ううん、着たい!かわいいから、今年の夏祭りに着ていこうかなっ」

「そう!?それなら、丈を合わせてあげるから1回着てみて」


わたしは言われたとおり、お母さんの浴衣に袖を通す。


「あら、ピッタリ!直すところもなさそうね」


わたしの浴衣姿を見て微笑むお母さん。


「お父さんに見せに行こうかなっ」

「じゃあそのついでに、宗治くんにお風呂に入るように言ってきてくれる?」

「わかった」


わたしは浴衣を着たまま、畳の部屋を出た。


お父さんは、居間でテレビを見ているだろう。

その居間に行くまでに、縁側を通る。


縁側から見える桜の木の前で、宗治はいつもこの時間に素振りをしている。

都子姫からもらった刀『桜華』を握って。


だから、今日もそこには月明かりに照らされた素振りをする宗治の影があった。


素振りをするときは、決まって袴に着替える宗治。

その姿を見ていると、そこだけ時代が過去にタイムスリップしたように感じる。


「宗治ー!次、お風呂だよー!」


縁側から呼んでみたけど反応がない。

どうやら、集中していて聞こえていないようだ。


仕方なくわたしはつっかけを履くと、宗治のことろへ駆け寄った。


すると、足音に気づいた宗治が振っていた桜華を腰にさす。


「びぃか。なんだ、その格好」

「お母さんが昔着てた浴衣なんだって。押入れから出てきたみたいで、着てみたの」

「へ~。よく似合ってるな」

「そ…そう!?」


まさか宗治がほめてくれるとは思わなかったから、反応に困った。


「“顔だけ”都子姫だからな。着物が似合って当然だろ」


…『顔だけ』。

やっぱり、あいかわらず失礼なところは変わらない。


ムスッとして宗治をにらんでいると、ふと宗治の髪になにかついているのが見えた。


「宗治、頭になんかついてるよ?」

「ん…?どこだ?」

「ちょっと待って。今取ってあげるから」


手を伸ばしてつまんで、それを手のひらに乗せた。

月明かりに照らされたそれは、…桜の花びらだった。


「…桜?」

「どこから飛んできたんだろう。こんな時期に桜の花びらだなんて――」


と何気なく上を見上げて……息を呑んだ。


わたしと宗治を見下ろすようにして枝を伸ばす御神木の桜の木。

その枝先には、たくさんの花が咲き誇っていた。


朝見たときは、緑の葉っぱで覆い尽くされていたはずなのに…。

…いつの間にっ。


「こんなことって…あるの?」

「…ありえねぇだろ!だって、今は6月だぞ?」


そうして、ハッとして2人同時に顔を見合わせた。


「…もしかして」

「狂い咲き…!?」


たしか、おばあちゃんがあのとき言っていた。


『じゃあ、その救い人の力ってやつで、どうやったら戻れるんだ?』

『『桜が狂い咲く夜、時をこえる』…と書いてあるの~』


宗治が通常の桜が咲く季節を待たずに元の時代に戻るには、わたしの力と桜が狂い咲く夜だって。


もしこれが、古文書のとおりの狂い咲きだとしたら――。


桜の木のうろに目を向けると、赤紫色の光が現れ渦を巻き始めた。

宗治が現れたときと同じ現象だ…!


「びぃ!これって…!」

「…待って!わたし、まだ心の準備が――…キャーーーー!!」
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