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幕末剣士、学校へ

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「…ちょっと待って!」


突然、後ろから声が聞こえた。

よく知る声に反応して、振り返ると――。


「古関先輩…!?」


向こうのほうからわたしたちに駆け寄ってきたのは、剣道部部長の古関先輩だった。


なんで古関先輩が、こんな人気のない校舎裏に?


と思ったけど、古関先輩は軍手をはめていて、それぞれの手には火ばさみと半透明のごみ袋が握られていた。


どうやら、美化委員の仕事で手分けしてゴミ拾いをしていたらしく、この校舎裏にやってきたのだという。


「それはそうと…!キミ、今の見たよ!」


古関先輩はそう言って、キラキラしたまなざしを宗治に向ける。


「み…、見たって?」

「さっきの、2年の板東くんだよね?彼の攻撃をかわしたあの身のこなし!そして技!どれもすばらしくて感激してしまった…!」


どうやら古関先輩は、たまたまやってきたこの校舎裏で、宗治と板東くんとのやり取りを陰から見ていたようだ。


そして、宗治が木の枝をまるで刀のように使い、板東くんを追い払うところを見て、声をかけずにはいられなかったのだと。


「たしか、高倉のいとこなんだよね?」

「…あ、はい…まぁ」


…そういう設定です。


「転校してきたって聞いたけど、前の学校でも剣道を?」

「いや…、べつになにも。幼い頃から剣術を教わってきただけで」

「剣術…?まるで、お侍みたいだね!」


にこやかに笑う古関先輩だけど、わたしは2人の会話を聞きながら、内心ヒヤヒヤしていた。

さっきの現場を剣道部の古関先輩に見られていたことによって、ただの素人ではないとバレていないかが心配で。


だけど古関先輩は、なにも宗治を疑う様子はなかった。

それどころか、宗治の手を取ってグイッと顔を寄せる。


そして、驚くような発言をした。


「ぜひ、ウチの剣道部に入ってもらいたい!」


…え。


わたしと宗治は顔を見合わせる。


たしかに宗治には、なにか部活に入ればと思っていたけど…。

それが…剣道部!?
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