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幕末剣士、デートの尾行へ

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「ああ、そうだよ。少し前まではな。だからこそ、俺自身が一番驚いてるよ。ずっと都子姫だけだと思ってたのに…」


宗治の頬がほんのり赤いような気がする。

でもそれは、夕日のせい…?


「お前は都子姫と比べて、がさつでアホでかわいげがないっていうのに。だけど、命がけで桜華を守ってくれた」


宗治はわたしの左頬をなでるように右手を添えると、流れる髪を耳にかけた。


「そのときに気づいたんだ。俺にとって、失って本当にこわいものは桜華じゃない。…都美、お前だって」


宗治が…わたしのことを見てくれている。

宗治の瞳には、わたしの姿が映っている。


「本当は、この気持ちはずっと心に閉まっておこうと思った。だって、俺はいつかはこの時代からいなくなるから」


…そうだ。

宗治は、現代の人間じゃない。


いつかはあっちの時代へ帰ってしまうんだ。


「でも、だからこそ、俺は気持ちを伝えておきたかった。じゃないと、元の時代へ戻ったとしてもずっと後悔することになるから」


ニッと口角が上がる宗治。

それを見て、わたしも思わず頬がゆるむ。


ほんと…バカだよ。

やっぱり宗治はバカだよ。


今度こそ都子姫と結ばれるために、わざわざタイムリープしてきたっていうのに。


…なのに。

なんで、好きになる相手がわたしなわけ。


なんだかバカバカしい…。

だけど…、どうしようもないくらいうれしい。


「都子姫と顔が同じだからとか生まれ変わりだとか、そんなことはどうだっていい。俺は、高倉都美のことが好きなんだ」


その瞬間、わたしの目に涙が浮かんだ。


宗治が好きな人は、都子姫。

それは覆ることのない絶対的条件。


わたしの想いなんて伝わるはずない。

もし宗治が知ったところで、どうにもならない。


…そう思っていたから。


でも、宗治もわたしと同じ気持ちだということがわかって、うれしくてうれしくてたまらない。

時をこえて、結ばれることになるなんて。


「わたしも…。春日井宗治のことが好きっ」


そう告げると、宗治はわたしに手を伸ばすとそっと抱きしめた。

わたしも宗治の広い背中に手をまわし、ギュッと抱きしめた。


この日、わたしたちの想いは1つになった。

宗治と結ばれたこの夕暮れの出来事は一生忘れない。


ずっとそばにいたい。



――だけど。

運命のその日は、すぐそこまで迫っていた。
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