―まひる家長男は異世界迷子の『カミサマ』だった事案について―

スガヤヒロ

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異世界へ

第一村人、侵入!

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「これからどうしましょうかねぇ…」

 あれこれ、考えていたが、白無垢に丸投げしてみる。
 話のなかで、それとなく聞ければ御の字だ。

 ストーブの前で考え込む白無垢。
 撫でられているランタン型ライトが猫に見えてきた。
 そういえば、クッションが足りない気がするな?
 白無垢がさっきまで持っていたと思うんだけど……。

 「そうおすなぁ…。早いとこ幽世から離れることに越したことはありまへんし…。」

 そうなんだけどね。
 それができたらそうしたい。
 
 白無垢なら何か知ってそうだし。
 今の状況に悲観せずにいらえるのは白無垢の御蔭だ。
 柳に風の如く、現状に危機感を抱いている様子がない。

 なんかあるんですよね?白無垢さんっ

「お前様なら、異界を渡ることくらい容易いでっしゃろ?」
「は?」
「今ここにおるのはお前様のお力やっしゃろ?」
「…いや?」
「ほんに? ほんにお心当たりはないやっしゃろか?」
「う~む…ない。ですねぇ……」
「……」

 お互いに、この現状は相手にあると思っていたとう事実。
 これは想定外。俺の肩にも荷重がかかっていたとは。
 
 異界を渡る? それは、運が悪いだけの少年にできることなの?
 僕、わかなんない。

「ちなみに、なぜ俺が異界? 渡りができると思ったんですか?」
「それは、異界を渡る事ができはるのは、お前様しかいらっしゃらへんとおもいやすから……」
「まったく、自覚はないんですけどねぇ……」

 白無垢が微笑む。憂いが瞳に滲む。

「そうおすね。そうおした」

 佇まいをなおす白無垢。

「それでは、名乗らせて頂きとうござります」

「うちは…そうおすね、白無垢とよばはったらよろしおす。鎮西の懇意させてもらってはる狭依さよりはんのとこに合祀いうか、間借りさせてもらってはります。お前様は覚えてはらないかもしれまへんけど、随分お世話になりましたさかいに。また、まみえるえにしがあるならと、はしたないと知りながら足を運んでいたんどす」

 と、照れながら話してくれた。

 白無垢。
 あからさまに今、考えました。という、偽名。

 しられたくない事があるのかな?
 でも、脳内でずっと白無垢と呼んでいたので、
 いまさら違和感はない。
 
 すると、今日たまたま来てみたら、俺がいたと。
 そして、いてもたってもいられず、といった感じだろうか?
 ちんぜい。どこだがしらないが、近くなのかな?
 いやでも、京都弁使ってるし、そっちのほうから来たのか?

「そう、ですか。俺は真昼です。真昼 あきひと」
「真昼? 白主じゃあらへんのどすか?」
「白主は、母の旧姓ですね。
  もともと、この家に住んでいた人たち、といっても俺の親族なんですけど」

 白主で俺を認識していた白無垢。
 この家を知ってるみたいだし、出入りするとこを見ていれば、
 白主さん所の子、って認識なるのかな?
 
 と、すれば。
 俺が神隠しに合う以前の俺を知っていることになる。
 案に10年通っていたと白無垢はいってるのだ。
 記憶がなくなる前の話。
 俺はここにいた事実すら記憶にない。

「といことは、俺が神隠しに合う前に白無垢さんとあっていたかもしれませんね。五歳より前の俺ですけど」
「へぇ、うちもお前様もややこの時分にお会いしたんどす。」
  
 ややこ? 子供の頃ってことか。

「へぇ、幾つぐらいのときですか?」
「……」
「へぇ、幾つぐらいのときですか?」
「ふふふ」

 袖口で口元を覆いほほ笑む白無垢。
 きいちゃあかん奴やったんかぁ……。

 女性は年齢的なことはタブーらしい。
 姉ちゃんの誕生日に、赴くまま建てたいからという理由で、
 5本くらいロウソクを追加したことがあった。

 俺だけイチゴのないショートケーキになったんだよな。

 俺の中で自然現象として処理しといたやつ。
 それ以降2本減らしてロウソクを立てるようになった。

 事実であることに不都合を感じる人もいる。
 という教訓を学んだ。

  白無垢の笑顔にあのときの姉を思いだす。

「お前様が思い出してくれはったら、お話ししやす」
「そうですか……」
「へぇ、うちのわがままどすけど」

 と、コテンと小首を傾げて微笑む。

 なるほど、そういうことらしい。
 名前もそのとき、教えてくれるのだろうか?
 俺の嫁になる、うんぬんも、この分だと藪の中なんだろうな。
 
 ただ、どちらかと言うと神隠しした側の話なのだが。
 聞けると思ったのに残念。
 でも、本当に覚えているのか、自分でもわからないからな。
 難しい問題だ。

 5歳の俺は白無垢と、どうであったんだろう。
 10年いもしない俺に会いに通うってただ事じゃないよな。

 得体のしれない女性にストーカーされていた。
 こういえば異常事態なのだが……。

 あ、その辺聞くべきだな。

「白無垢さんは、その、なんなんでしょうか?妖怪?」
「むぅ。魑魅魍魎の類じゃありゃへんどすっ!」

 と、正座のまま肩を竦ませ、身を乗り出す。

 うん。そりゃ怒るよね。
 でも聞いとかないと安心できない。

「軽率でしたね。すみません。では……?」

 すなおに謝意を示す。

「なんと申したらええんおすやろか?お前様とおんなじどす」

 ニコニコと「おんなじ」を強調していう白無垢。
 人間かな?

「神様どす」
「……」
「あくまであの国の言葉で言うなら神様どすなぁ」

 えぇ……。
 その括りに俺も含まれちゃうの?
 俺も人間じゃなかった説。
 某、第六感の精神科医的な展開。

「お前様はちゃんと人間どすさかい。案じなくて平気おす」
「はぁ……」

 はぁ。しかいえないじゃん。
 結局、自称神さま、ということしか分からなかった。
 互いに神様だとして、この状況に対して無力って。
 でも、白無垢の言葉からすると日本でいう神とは、違う的なニュアンスを感じる。

 その含みが、ますます白無垢の正体を闇においやってしまった。

 一神教の主神ともちがうよな?
 白無垢に言わせれば俺も神様、白無垢も神様。
 二人の間に上下があるとは……。
 あ、いや。俺だけなんだっけ? その異界渡り? できるの。
 中二病感がすごい。
 信じられる根拠がまるでないけど。
 
「へぇ、どすからお前様のお力が唯一の頼みなんどすッ」

 眉をキリっと寄せ、胸の前で拳を握る。
 お前様にかかってます!
 と、言わんばかりに期待の目が向けられる。

「いや、俺人間なんで。どちらかというと迷える子羊の方なんで……」
「いえ、お前様は神様どすッ」
「…どっちなんですか。白無垢さんが人間どすッ。言ったんじゃないですかっ」
「そうどす。お前様は人間どすし、神様どすっ」

 それって両立できていいのか?
 あぁ、あれかな? デミゴット。
 ヘラクレス的な流れがあれば半神半人が生まれるかもしれない。
 しかし、親父か母さんどちらかが神様って事になる。
 それはない。ないなぁ。
 ファンタジーを根拠に持ち出さなければいけない時点で、
 どんな推量でも虚構になるよ。

 でも、現実に正門の先に日本の田舎の風景はなかった。
 そして、白無垢が目の前にいて、実家がある。
 母さん達は結局実家に現れず、連絡もこない。
 今はこれだけが事実。

 自分の目で見たものでもどれだけ信用できるかわからないけど、
 明日は現状認識に努めよう。

 白無垢に聞いても、お前様にかかってます!感、ゆえに問題解決に無力だし、俺に巻き込まれたと思っていて、現状認識は俺とあまり変わらない。
 これが、自称他称ともに神様の実力だった。


 スマホを確認すると8時になっていた。
 バッテリーも段々と減ってきてるなぁ。
 最初に使えなくなるのはスマホかもしれない。
 必要な時に備えて電源を切る。
 それがあるかは、わかんないけど。

 そういえば、換気のために家中、開けっ放しだった。
 ストーブで暖を取っているが、ガラス戸や襖の間から寒気が流れ込んでくる。

 途端に背中に怖気が走る。

 あいつ……。

 そう、第一村人だ。奴が勝手に入って来るかもしれない。
 正門もあけっぱ。
 あんなでかい門の開け閉めが習慣化してるのなんて坊さんだけだろう。
 これは、いけない!阻止しなければっ

「あぁ、えっと、白無垢さんッ!ちょっと正門閉めてきますッ」
「へぇ、それはかまへんどすけど…。だいじょ……」

 慌てていたため、最後まで聞かなかった。
 しかし、謝罪している時間が惜しい。

 「ちょっと急いでるんで失礼します!」

 がばっと立ち上がる。
 白無垢の膝上でくつろいでいるライトを掻っ攫う。
 ガラス戸を勢いよくあけ放ち、慌てて静かに閉める。

 そ~…ぴしゃっ。

 ガラス越しに困惑する白無垢が、目をパチクリさせていた。

 よし、とりあえず正門だ!正門。
 靴を履き、玄関を飛び出す。
 ライトが照らし出す飛び石を頼りに闇を突き進む。

 早歩きもあってすぐに、正門前に着いた。
 ぽっかりと開いた門。
 指向性の弱いランタン型ライトではその先を伺い知れなかった。

 正門よりわずかに踏み出し、辺りにライトを掲げる。

 …いないな。気配もしない。

 門扉の丸い輪っか状の取っ手を引いていく。
 金属製の冷たさが、くつし…手袋越しに伝わる。
 結構な重さだ。古木ゆえか。閉口する挙動に軋み、乾いた音が鳴る。
 積もった雪が門扉を押し留めようと掻き集まっていく。

「うぬぬぬッ……」

 ぷるぷるする、二の腕で何とかかんぬきを掲げ持ち、扉に掛けた。

「ハァ、ハァ……これで、よし」
 
 やらないよりましだろう。
 人外あいてに物理防御がどれほど効果があるのか……。
 
 境界をつくってやって「あちら」と「こちら」を教えてやるといい。
 的な民間信仰をオカルト系小話がのったサイトで見た気がする。
 門を開け放ったあいまいな状態から、閉めて境界とする。
 俺の精神衛生上、必要な処置でもある。

 未知の世界で未知の常識。
 
 マイナス同士の掛け算であることを願うばかりだ。

 あとは、家の戸締りなんだが、古民家ゆえに鍵のない扉が多い。
 こちらも室内の温度管理の必要性を考えれば閉めた方がいい。

 心臓バクバクで踵をかえす。
 
 白衣の女性が現れる。

「ひぅ……」

「もし? 大丈夫でやっしゃろか? ぼうが青ざめていはるようおしたから……」

 あんたのせいだよッ!
 もちろん、声にでなかった。
 びっくりしすぎて、飲み込んでしまったからね。

 またも、気配無く後ろに立たれる。

「あ、いえ…。どうかしましたか?」
「あんまり、せわしないさかい。 気に掛けるんはしょうがありまへんどすやろ?」

 ちょっと、怒られた。
 それは、申しわけない。
 しかし、止むに止まれない事情が……。

「あんまり気にしてはらないようどすから言わへんかったのどすけど、何か入り込んどるよどす。今日はもう、家だからと歩き回らんほうがよろしおす。」
「……」

 嘘だろ……。
 心当たりがある分、白無垢の言葉が重くのしかかる。
 
 第一村人が、侵入ずみ、だとッ!?
 
「……いつからですか?」
「お前様があの子らを探してくれてはる時分くらいには、はっきりと」

 犯人が自白のすえ、タネ証を催促するがごとく聞く。
 白無垢の電波受信の信頼性が向上したのはいいのだが、
 精度ゆえに知りたくない事実を知ってしまった。

 いま、この家に、最低3人はいるということ。

「ちなみに、なにかは分かりますか?」
「正体までは…。ですが、こちらの幽世かくりよではなく、元の幽世からついてきはったようどすなぁ。」
「元の…」
「へぇ。なんやろなぁ、思うおして。気にしいかもと考えたりもしたんどす。けど心配おすから。なるたけお前様のかたわらにおったんどすぅ」
 
 と、照れくさそうに報告してくれた。

「なんや得たいがしれないさかいに」

 ……。

 あなたがそれをいうんですね。
 
 早く知りたかった。
 知ったら知ったで引きこもってしまったかもしれないけど……。

 やたらとそばにくるなぁと、思っていたけどそういうことだったのか……。
 気配はなかったけど。

「どうしましょうか?」
「さぁ……?」

 ……ックション!

 あー……スビスビだ。
 肝が冷えたら、急に  寒くなってきたな。

 まだまだ、雪は降り続けている

 長い夜になりそうだ。
 
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