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15:急行
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男から聞いた情報を元に、ライナスはすぐに役割を割り振った。カーティスを、馬で近くの騎士団の待機所へ向かわせ、フィルをダルネルが待っているという家に向かわせる。そして、少し離れて待機していたエルシーにも声をかけた。
「エルシー、大丈夫ですか? 今しばらく辛抱してくださいね。なるべく早くあなただけでも城に戻れるようにしますから」
今の段階でも既にエルシーだけで城に戻ることもできた。ただ、もしダルネルがまだ城にいた場合、戻ってきたところで鉢合わせしてしまう可能性を考慮して、この場に留まって騎士団を待つしかないと判断したのだ。
「殿下、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です」
「ありがとう」
表に極力出さないようにしているようだが、ライナスからはいつもよりも焦りを感じた。おそらく、連絡役がダルネルの元に戻らないことで、計画の失敗を悟られてしまうことや、その後、ダルネルが自死か逃亡を選んでしまうことを警戒しているのだろう。一刻も早く、ダルネルの身柄確保が必要なのだ。
「……殿下こそ、フィル様と一緒にダルネル様の身柄確保に行きたかったですよね」
「この人員では、これが最善ですよ」
「私のスキルを使って、馬で移動できればよかったのに……」
何もできずに荷物になっている自分に悔しくなって、言葉が口をついて出る。エルシーのスキルでは、エルシーとライナスが動けても、馬を走らせることはできない。馬も一緒に時間が止まってしまうからだ。今こそ、時間を止めて、ダルネルの動きを封じるべきなのに。時間を止めたとて、ここから歩きで向かうのはあまりにも無謀な話だった。
「今日は、エルシーがいたおかげで、あの二人があんなにも早く迷いなく敵を処理できたんです。十分、役に立っています。守らなければいけないものが近くにあれば、誰でも普通はそちらに気を取られてしまいますからね」
「……気を遣わせてしまいました。ありがとうございます、殿下」
エルシーは苦笑して、ライナスに礼を告げた。
しばらくすると、馬が駆けてくる音が聞こえ、カーティスが騎士団を連れて戻ってきた。現場の処理が始まり、エルシーの護衛をする人員も確保できた。
「殿下、お気をつけて」
「えぇ。エルシーも」
ライナスはエルシーの護衛を任せた男に声をかけてから、騎士団から借りた馬に乗る。そのままカーティスと共に、フィルを追いかけた。
エルシーはそれを見送ってから、馬車に乗り込む。馬車は城に向かってゆっくりと進み始めた。
◇
フィルは一足先に、ダルネルの家についていた。この家は、ダルネルの身辺調査をするために何度か部下が訪れた場所だった。報告によれば、住んでいるのは、ダルネルと雇われた使用人だけだといい、ここ数日も特に異常はなかった。こんなに王城から近い場所で計画の相談が行われていたとは、完全にこちらの調査不足だ。
スキルを使って、外から中の様子を探る。声などは聞こえず、人の動く音もしない。音を立てないよう、玄関の取手に手をかけると、鍵はかかっていなかった。
警戒しながら、扉を開けて中に入る。ランプもなく、暗い家の中を、壁を伝って歩いていく。フィルの鼻先に、血の匂いが漂ってきた。匂いを頼りに、ドアが開いたままの部屋を覗く。
ダルネル・ラブキンが、血溜まりの中にうつ伏せで倒れていた。床に散らばった紙を踏みつけながら、急いで駆け寄り、首筋に手を当てる。脈がない。蘇生も難しいだろうと、フィルは手を離して周りを観察した。
近くに、血がついたままの短剣が落ちている。武器屋であれば、どこでも売っていそうな、よくある代物だ。傷口を押さえているのと反対側の手は、イーゼルに向かって伸ばされていた。
フィルは、現場を荒らさないよう、一旦家の外に出て、ライナスたちの到着を待つことにした。
◇
ライナスとカーティスは会話もしないで、必死に馬を駆る。
「殿下、そろそろ目的地です!」
「わかった!」
スピードを緩めて、目を凝らすと、周辺の家より一回り大きい家の前でフィルが立っている。馬を止めて降りると、フィルがライナスに向かって首を振った。
「……遅かったか」
「はい。家の中をご覧になりますか?」
「あぁ」
フィルに案内され、部屋の中を見回す。倒れたダルネル、近くに落ちた短剣。一見しただけでは、自殺のように見える。
「うお、すごい部屋だな。自殺ですかねぇ……?」
「どうかな。この体勢と、血の跡だと……自分で胸を刺してから、あちらに動こうとしたということなのか?」
「そのようです。イーゼルには、ユージン殿下の絵が」
「絵の近くで死にたいのなら、最初からそこでやればいい。妙だな……」
「他殺の線も考えた方が良さそうですね」
フィルもカーティスの言葉に頷く。
「カーティスはここに残れ。私たちは王城に戻り、医者と騎士を手配する。フィル、王城に着き次第、すぐに動け」
「かしこまりました!」
「仰せのままに」
「私は、トレイシーと情報の共有して、ダルネルの今日の行動について調べる」
カーティスをおいて、二人で王城に向かう。すでに日付が変わり、夜がかなり深まっている。話が聞ける使用人がどれだけいるか、あまり期待はできなさそうだ。
王城に着くと、フィルと別れ、執務室に向かう。トレイシーは、案の定、夜会から戻る主人を待っていたらしく、仕事の手を止め、立ち上がった。
「殿下、やっと戻られたのですね」
「あぁ。私たちの乗った馬車が襲われたよ」
「……でしょうね。じゃなければ、ここまで帰りは遅くならないでしょう」
執務室の奥の自分の机に向かいながら、トレイシーにここまでの経緯を話して聞かせる。
「ユージン付きの使用人で話せそうなものを呼んでくれ」
「わかりました」
トレイシーが部屋を後にする。何気なく外を見ると、エルシーを乗せた馬車がちょうど入り口についたところだった。王城の使用人が出迎えている。表情までは確認できないが、無事に着いてよかったと安心した。
ライナスは一人、考えを巡らせる。ダルネルが自殺ではなく、他殺の場合、誰かが口封じに殺したということになる。すなわち、ダルネルの思惑を裏で支援していた人物がいたということだ。ダルネルが死んでも、その人物がまた狙ってくる可能性がある。思わず、ため息が溢れた。
「エルシー、大丈夫ですか? 今しばらく辛抱してくださいね。なるべく早くあなただけでも城に戻れるようにしますから」
今の段階でも既にエルシーだけで城に戻ることもできた。ただ、もしダルネルがまだ城にいた場合、戻ってきたところで鉢合わせしてしまう可能性を考慮して、この場に留まって騎士団を待つしかないと判断したのだ。
「殿下、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です」
「ありがとう」
表に極力出さないようにしているようだが、ライナスからはいつもよりも焦りを感じた。おそらく、連絡役がダルネルの元に戻らないことで、計画の失敗を悟られてしまうことや、その後、ダルネルが自死か逃亡を選んでしまうことを警戒しているのだろう。一刻も早く、ダルネルの身柄確保が必要なのだ。
「……殿下こそ、フィル様と一緒にダルネル様の身柄確保に行きたかったですよね」
「この人員では、これが最善ですよ」
「私のスキルを使って、馬で移動できればよかったのに……」
何もできずに荷物になっている自分に悔しくなって、言葉が口をついて出る。エルシーのスキルでは、エルシーとライナスが動けても、馬を走らせることはできない。馬も一緒に時間が止まってしまうからだ。今こそ、時間を止めて、ダルネルの動きを封じるべきなのに。時間を止めたとて、ここから歩きで向かうのはあまりにも無謀な話だった。
「今日は、エルシーがいたおかげで、あの二人があんなにも早く迷いなく敵を処理できたんです。十分、役に立っています。守らなければいけないものが近くにあれば、誰でも普通はそちらに気を取られてしまいますからね」
「……気を遣わせてしまいました。ありがとうございます、殿下」
エルシーは苦笑して、ライナスに礼を告げた。
しばらくすると、馬が駆けてくる音が聞こえ、カーティスが騎士団を連れて戻ってきた。現場の処理が始まり、エルシーの護衛をする人員も確保できた。
「殿下、お気をつけて」
「えぇ。エルシーも」
ライナスはエルシーの護衛を任せた男に声をかけてから、騎士団から借りた馬に乗る。そのままカーティスと共に、フィルを追いかけた。
エルシーはそれを見送ってから、馬車に乗り込む。馬車は城に向かってゆっくりと進み始めた。
◇
フィルは一足先に、ダルネルの家についていた。この家は、ダルネルの身辺調査をするために何度か部下が訪れた場所だった。報告によれば、住んでいるのは、ダルネルと雇われた使用人だけだといい、ここ数日も特に異常はなかった。こんなに王城から近い場所で計画の相談が行われていたとは、完全にこちらの調査不足だ。
スキルを使って、外から中の様子を探る。声などは聞こえず、人の動く音もしない。音を立てないよう、玄関の取手に手をかけると、鍵はかかっていなかった。
警戒しながら、扉を開けて中に入る。ランプもなく、暗い家の中を、壁を伝って歩いていく。フィルの鼻先に、血の匂いが漂ってきた。匂いを頼りに、ドアが開いたままの部屋を覗く。
ダルネル・ラブキンが、血溜まりの中にうつ伏せで倒れていた。床に散らばった紙を踏みつけながら、急いで駆け寄り、首筋に手を当てる。脈がない。蘇生も難しいだろうと、フィルは手を離して周りを観察した。
近くに、血がついたままの短剣が落ちている。武器屋であれば、どこでも売っていそうな、よくある代物だ。傷口を押さえているのと反対側の手は、イーゼルに向かって伸ばされていた。
フィルは、現場を荒らさないよう、一旦家の外に出て、ライナスたちの到着を待つことにした。
◇
ライナスとカーティスは会話もしないで、必死に馬を駆る。
「殿下、そろそろ目的地です!」
「わかった!」
スピードを緩めて、目を凝らすと、周辺の家より一回り大きい家の前でフィルが立っている。馬を止めて降りると、フィルがライナスに向かって首を振った。
「……遅かったか」
「はい。家の中をご覧になりますか?」
「あぁ」
フィルに案内され、部屋の中を見回す。倒れたダルネル、近くに落ちた短剣。一見しただけでは、自殺のように見える。
「うお、すごい部屋だな。自殺ですかねぇ……?」
「どうかな。この体勢と、血の跡だと……自分で胸を刺してから、あちらに動こうとしたということなのか?」
「そのようです。イーゼルには、ユージン殿下の絵が」
「絵の近くで死にたいのなら、最初からそこでやればいい。妙だな……」
「他殺の線も考えた方が良さそうですね」
フィルもカーティスの言葉に頷く。
「カーティスはここに残れ。私たちは王城に戻り、医者と騎士を手配する。フィル、王城に着き次第、すぐに動け」
「かしこまりました!」
「仰せのままに」
「私は、トレイシーと情報の共有して、ダルネルの今日の行動について調べる」
カーティスをおいて、二人で王城に向かう。すでに日付が変わり、夜がかなり深まっている。話が聞ける使用人がどれだけいるか、あまり期待はできなさそうだ。
王城に着くと、フィルと別れ、執務室に向かう。トレイシーは、案の定、夜会から戻る主人を待っていたらしく、仕事の手を止め、立ち上がった。
「殿下、やっと戻られたのですね」
「あぁ。私たちの乗った馬車が襲われたよ」
「……でしょうね。じゃなければ、ここまで帰りは遅くならないでしょう」
執務室の奥の自分の机に向かいながら、トレイシーにここまでの経緯を話して聞かせる。
「ユージン付きの使用人で話せそうなものを呼んでくれ」
「わかりました」
トレイシーが部屋を後にする。何気なく外を見ると、エルシーを乗せた馬車がちょうど入り口についたところだった。王城の使用人が出迎えている。表情までは確認できないが、無事に着いてよかったと安心した。
ライナスは一人、考えを巡らせる。ダルネルが自殺ではなく、他殺の場合、誰かが口封じに殺したということになる。すなわち、ダルネルの思惑を裏で支援していた人物がいたということだ。ダルネルが死んでも、その人物がまた狙ってくる可能性がある。思わず、ため息が溢れた。
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