王子に婚約を迫られましたが、どうせ私のスキル目当てなんでしょう?ちょっと思わせぶりなことしないでください、好きになってしまいます!

宮村香名

文字の大きさ
22 / 48

21:聞き込み

しおりを挟む
「力になりたいですが、うちではなさそうですな」

 あれから、二週間。カーティスは今日もフラれている。

「だーーー! 見つからないって!」

 店を出て、頭をガシガシ。お目当ての店は見つかる気配もなかった。

 ◇
 
「エルシー」

 名前を呼ばれて顔を上げると、ライナスが立っていた。エルシーは、窓際に置かれた長椅子で、読書に集中しすぎていたらしい。

「殿下、ごきげんよう」
「ごきげんよう。おや、今日はもうレポートは?」
「終わったので、本を読んでいました」

 手元の本を閉じて、表紙を見せる。読んでいた本は、隣国で書かれたおとぎ話を集めた本だ。語学も兼ねて子ども向けの簡単な本にした。
 
「……そうですか」

 レポートを手伝うためにフィルを伴って来たのだろう。資料室の入り口に目を向けると、フィルが軽く会釈したので、エルシーも返す。

「せっかく来ていただいたのに申し訳ありません」
「謝る必要などありません。私のことはお構いなく。本の続きを読んで、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」

 読書の続きを勧めてくるライナスに、手伝いがないからもう自分の執務室に戻るのかと、エルシーは本をまた開いて、視線を落とした。
 すると、ライナスがエルシーの隣に腰掛ける。

「執務室には戻られないのですか?」
「休憩しようかと」
「ここではないところの方が休憩できると思いますが」
「……せっかく婚約者に会いに来たのに、ただ仕事に戻るなんてもったいないですから」

 ライナスに目を向けると、ニコニコと微笑んでエルシーを見ていた。

「……。では、殿下も本を読んではいかがです? 読書はストレス解消にもいいそうですよ」
「なるほど。そうします」

 立ち上がって資料室の本棚に向かったライナスは本を選び、また戻ってくる。

 二人で並んでただ本を読むだけ。もっと居心地の悪い気持ちになるかと思ったが案外そんなこともなく、時間が穏やかに流れていく。

 あと一週間で任命式の日となる。本当にライナスが言った通り、それまでにこの事件が解決するなら、こんな時間もなくなるのだ。

 エルシーはそっと視線を隣に向ける。真剣な顔でライナスが本を読んでいる。何をしても絵になる人だと、目を逸らしながら、思わずため息をついた。

「大丈夫ですか? 疲れている?」

 ため息に反応したライナスが視線をエルシーに向ける。エルシーは慌てて首を振った。

「大丈夫です。疲れてなんてないです」
「出かけるたびにトラブルに見舞われてますから、さすがに心労が溜まったかと」
「歌劇場の件から、もう日が経ってますし大丈夫ですよ。殿下こそ、疲れているんですよね?」

 パタン、とライナスが読みかけの本を閉じる。

「心配してくれるんですか?」

 悪戯っぽく微笑んだ瞳がエルシーを映した。エルシーはそれを見返しながら、真剣に頷く。

 劇場での事件以来、なかなか落ち着いて話す時間が取れなかった。フィルやエルシーがいなければ、ライナスは怪我、運が悪ければ死んでいたかもしれない。きっと周りに見せないだけで、心労も疲労も溜まっているのは、ライナスの方だ。

「心配しています」

 エルシーのまっすぐな瞳に、ライナスは一瞬だけ目を見開き、すぐに柔らかく微笑む。

「ありがとうございます。……私は大丈夫ですよ」

 弱みを見せまいとするようなその言葉にエルシーは寂しいような、物足りないようなそんな気持ちになる。それをおくびにも出さず、表情を緩めて見せた。

 ◇

「どれどれ、見せていただきましょう」

 城下の外れの武器屋で、カーティスは祈るような気持ちでナイフを差し出す。

 任命式まであと二日。そろそろ手がかりだけでも見つかってほしい。

「……あー、このナイフなら覚えがあります」
「えっ!? 本当に!?」
「女性が買いに来ましたよ」
「女!? どんな?」
「ブラウンの髪で……えー、……それくらいしか覚えてませんな」
「長さとかは!?」
「顎くらいだったような……。それよりも、騎士様、こちらとかどうです?」
「悪いね、おっちゃん。急ぐから、また!」

 店を出て、ガッツポーズ。あまり参考にならないかもしれないが、何も情報が得られないより良い。

 カーティスは城に向けて、馬を走らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

処理中です...