王子に婚約を迫られましたが、どうせ私のスキル目当てなんでしょう?ちょっと思わせぶりなことしないでください、好きになってしまいます!

宮村香名

文字の大きさ
26 / 48

25:壊れた心

しおりを挟む
 ジョイは、隣国で生まれ育った。

 ライナスの母である王妃――ローナは、その国の侯爵家の娘で、ジョイの母親が乳母を勤めていた。そのため、幼い頃から一緒に育った姉妹のような関係だ。

 ローナには二つ違いの妹がおり、ローナと妹とジョイの三人で過ごすのが当たり前。とても仲良しの三人組だった。

 このまま大きくなって、ローナと妹はそれぞれ幸せな結婚をし、自分はそんな二人の暮らす国を守る女騎士として活躍するのだと疑うこともなかった。

 けれど、そんな平和は長く続かなかった。

 王家による圧政にあえいだ一部の貴族による反乱が起こったのだ。その小さな火種はたちまち大きくなり、国全体を巻き込む内乱となってしまった。

 ローナの父親である侯爵は、王家側の陣営に加わって、内乱をおさめようとした。しかし、王家は次第に不利な立場になっていく。そうして、誰が見ても、勝つ希望は見出せない状態になっていった。

 状況の深刻さに気づいたローナの母親は、ライナスの家系が代々治める国に住む実の姉と連絡をとった。

 公爵夫人であるその姉は、愛する妹の娘であるローナたちの保護を申し出てくれた。

 間も無く、王家側として戦いに参加したために、侯爵と夫人は命を狙われることとなる。そして、二人の乗った馬車がとうとう襲われてしまった。

 二人の死を悲しみ、弔う暇もないまま、ローナと妹、そして護衛として選ばれたジョイは国を後にすることとなった。

 それから、ローナは生き残った自分をひどく責めた。誇りある侯爵家の娘として、父と母のように堂々と国のために命を散らすべきだったと言うのだ。妹とジョイは、二人でローナを慰めた。

 亡くなった二人の分も生きて、幸せになろうと。
 いつしか、ローナはそれを口癖のように繰り返すようになった。
 
 その後、両親を亡くしたローナと妹は、養女として公爵家に引き取られることとなった。公爵夫人は亡くなった妹の娘たちを本当の娘のように可愛がってくれた。

 ジョイも二人の使用人として働くことを許され、公爵邸に住むこととなった。

 次第に明るさを取り戻していくローナは、特に妹を大切にした。血のつながった大切な家族として、それまで以上に世話を焼くようになった。

 もちろん妹も姉を大切に思っていた。ジョイも今度こそ、二人が幸せになれると安心していた。

 しかし、ローナのデビュタントの年、妹が倒れた。ただの風邪との診断だったが、一向に症状が良くならない。手を尽くしたものの、体力がだんだんと落ちていき、食事が取れなくなり、ローナに見守られながら亡くなった。

 大切な人の死を相次いで体験し、ローナは狂いそうな悲しみに襲われた。ぼろぼろと泣く彼女をジョイは抱きしめる。
 
「ジョイ、私、父様や母様、あの子の分まで生きるわ」
「はい、いつまでも私がお支えします」
「……あのひとたちが死んでしまったから
 私は生きるの」
「ローナ?」
「そうでしょう?
 私も本当は一緒に今すぐいなくなりたいわ
 けれど、死んでしまったみんなの代わりに
 私が生きて幸せにならなければ」
「……ローナ!」
「ふふふ、ねえ、ジョイ、
 みんなが亡くなったから今、
 私は生きているって強く感じるのよ
 生きるって素晴らしいわね」

 ローナの瞳はジョイを映さず、虚に光っていた。その日、ローナは壊れてしまったのだ。大切な家族がみな死んだことによって。

 この時に、ジョイはローナをその手で楽にさせてあげるべきだった。けれど、ジョイにとってはローナこそ生きる意味、たった一人の大切な人だった。そんなことができるはずもない。
 
 その日から、ローナは必死で自分を磨いた。そして、見事、舞踏会で今の国王――ライナスの父親にみそめられ、ジョイと共に王宮へ移り住むこととなった。

 数年後、二人の王子をもうけて、幸せな日々が続いていた。ジョイは安堵した。やっと王妃は幸せになれた。これまでの努力が報われたのだ。

 しかし、ある日、何気なく王妃にかけられた言葉にそんなことはなかったと思い知らされることとなる。

「ねえ、ジョイ。また誰かが死ねば、生きているって感じられるのかしら。生きてと言ってもらえるのかしら」
「ローナ様……」
「誰でもいいわけではないの。大切な人でなければ。……ライナスなんて適任ね」
「王子を……!? 私では駄目なのですか?」
「あなたではダメよ、ジョイ。あなたは私と一緒に生き続けるのよ」

 ジョイは苦しむ王妃にどんな言葉をかければいいのか分からなかった。なぜなら、ジョイにはもう、自分から悲しみを増やそうとしている王妃の気持ちは理解できなかったから。きっと誰にも壊れてしまった王妃の気持ちは理解できない。

 だから、せめて王妃の願いは叶えてやりたいと思った。それで彼女が自分をそばに置いてこれからも一緒に生き続けてくれるなら。

 一方で、叶えたくない気持ちもあった。叶えたが最後、彼女の心がさらに壊れてしまうことは目に見えているから。もうこれ以上、彼女の悲しみを増やしたくない。

 この期に及んでもジョイは、そんな相反する想いを抱え、悩み続けていた。どんな結末であろうと、私だけはローナの傍にいよう。

 話し聞かせている途中で意識を失ったエルシーを一瞥し、部屋を後にした。

 ◇

「エルシーは元気そうね」

 階段を上って、王妃の部屋に顔を出すと、もう夜も遅いというのに王妃はゆったりと椅子に座ってお茶を飲んでいた。

「はい。もう一度寝かせました」
「そう。いつ、あなたはライナスの元へ行くのかしら?」
「お嬢様は知らないふりをしていましたが、おそらく厄介なスキル持ちは彼女でしょう。これで、王子を助ける者は排除できました。式典中の油断している時を狙うつもりです」
「では、もうすぐ聞けるのね。あの言葉を」

 ジョイは外してあった床を元に戻して、カーペットを被せた。

 王妃が手招く。すぐにジョイは側へと寄ってかしずき、王妃の手をとった。王妃はいつもの柔らかい笑顔も浮かべず無表情で、ジョイを見つめる。

「あなたの手で、私に生きている実感を頂戴ね。そして、これからも共に生きて」
「もちろんです、ローナ様」

 冷たいその手に口付けを落として、ジョイは頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

処理中です...