王子に婚約を迫られましたが、どうせ私のスキル目当てなんでしょう?ちょっと思わせぶりなことしないでください、好きになってしまいます!

宮村香名

文字の大きさ
28 / 48

27:突入(1)

しおりを挟む
「…………ぅう……」

 エルシーは再び目を覚まし、ゆっくり瞬きを繰り返す。状況は変わっていないが、ジョイや見張りのような人間はいないようだ。

 まだエルシーが解放されていないということは、ライナスは無事ということだろうか。部屋の中は相変わらず薄暗く、今がいつなのかも分からない。

 少しずつ頭がはっきりしてきて、暗闇の中でもぼんやりと周りが見えるようになった。

 腕と足を縛る紐を緩めようと動かしてみる。当たり前だが、解けそうにはなく、スキルで時間を止めることはできても、今のエルシーにできることなどない。

 ため息をついて、自分の情けなさに唇を噛み締めた。ライナスを助けるために婚約者候補になったというのに、こんなふうに捕まって足手纏いになっているなんて。

 薬の副作用かひどく頭も痛む。もう一度瞼を閉じて、痛みをやり過ごす。

 しばらくして頭痛が良くなってくると、エルシーはただここで無為に時間を過ごす自分に苛立ちを感じ始めた。

 紐が解けないくらいでなんだというのだ。ライナスに迷惑をかけていると思うのなら、今すぐここから抜け出して、犯人を突き出せばいい。

 そうすれば、ライナスが危害を加えられる前にジョイを止めることができるかもしれない。

 それに、ライナスには、エルシーがいなくなったのは王妃に会いに行った後だと護衛から報告がいっているはず。冷静に事を進められるライナスならきっと、すでに王妃やジョイを疑い、動き始めているに決まっている。

「弱気になっている場合じゃない」
 
 わざと声を出して、気合を入れる。できることを、できる限りしよう。弱音を吐くのも、諦めるのもその後でいい。

 太ももには護身用の短剣の存在を感じる。どうやら、ただの伯爵令嬢が刃物を持っているとは思われなかったようだ。

 時間がかかると、ジョイがまた様子を見にくる可能性がある。エルシーは、スキルを使った。これで、時間を気にせず、腕の紐とたたかえる。使えるものは全て使った。誰も見てはいないのだから。

 エルシーは歯を使って紐を引きちぎる。手首や口元が紐と擦れて傷ができるが、気にしている暇はない。少しずつロープが緩み始めた。手をきゅっと小さくして片手を抜く。

「よし!」

 ぱらりと紐がとれる。自由になった手で太ももの短剣を取り出し、足を縛っていた紐を切った。

 立ち上がると、壁伝いに歩き、出口と思われるドアの前に立つ。

 ノブを掴んで回して、押したり引いたり。押すと何かにぶつかる感触がする。

 時間を止めているせいかもしれないと、一旦エルシーはスキルを止めて、精一杯の力で押した。それでもドアは開かない。

「……開けられないように何かを置いてあるんだわ」

 あまり音を出すと、逃げ出そうとしていることを気づかれるかもしれない。エルシーはスキルをもう一度使う。

 どうにかしてここを開けなければ。時間が止まった状態で何度も体当たりすれば、スキルを止めた瞬間にたまった衝撃が一気に伝わり、外に置いてある何かが動いてドアが開くのではないか。

 エルシーはとりあえずやってみようと、ドアに体当たりを何度も何度も繰り返し始めた。

 ◇

 朝一番でライナスはフィルと共に王妃の部屋に向かっていた。

 王妃の部屋から執務室へ戻ってから、改めて犯人はジョイだという前提で各所に聞き取りをし直せば、ダルネルを乗せた御者は、女性でもおかしくない背格好だったと話した。

 さらに、ライナス達が劇場に行った日、一時的にジョイが王妃のそばから離れていたことも分かった。

 他にも、襲撃事件の後、捕まえられた男の元に秘密裏にジョイが訪れ、話を聞いていたことも明らかになった。

 それらの情報を元に、朝日が昇る前からトレイシーとカーティスは騎士団長の元に強制捜査の許可証を取りに行っていた。

 叩き起こすような時間だ。時間がかかるのは予測できるが、エルシーのこともある。ある程度待機したら、二人が戻らずとも突入する覚悟だった。

「まだ来ないか」
「……」

 隣にいるフィルは無言で頷く。フィルはスキルでこちらへ駆けてくる足音を聞き分けていた。

 時間は刻一刻と過ぎていく。ライナスは仕方ないと呟き、王妃の部屋の扉を叩こうと手を伸ばした。その手をフィルが止める。

「来たか?」
「おそらく」

 しばらくして、息を切らしたトレイシーの声が聞こえた。
 
「殿下! お待たせしました!」

 カーティスが走ってきて、ライナスに洋紙を渡した。さらに後ろから数人の騎士がこちらに向かっている。

「許可証とってきました!」
「はぁっ……かなり、無理を通しましたよ……!」
「よくやった、二人とも。ありがとう」

 ライナスは今度こそ、扉をノックする。返事はない。だが、こちらはもう捜査を許されているのだ。多少の無茶は許される。

「母上、あなたの護衛にある事件の嫌疑がかけられています。捜査にご協力を」
「……」
「呼吸音は聞こえます。中には確かに人がいるかと」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...