Illusion of Halloween

まちは

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中編

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暗い森の中ジャックが持つ小さなランタンの炎だけを頼りに歩いていくと、不意に「クスクス」と少女の笑い声がした。
ソフィーは驚いて、

「なに!?」

と悲鳴に近い大きな声で叫んだ。

「大丈夫だよー、ソフィー。レディ出てきてくれない?」

ジャックがそう言うと2人の目の前に突然、レースがたっぷりと使われている真っ黒いドレスを纏った少女が現れた。
顔立ちは幼いが百合のように清楚で可愛らしい。
しかし、少女をよく見ると髪や指、服のあちらこちらにドクロの形をしたシルバーアクセサリーが散りばめられている。
さらに肌の色は死人を思わせるほど白く透き通っていて、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
ソフィーはそんな様子の少女を恐ろしく思い、ジャックの腕にしがみついた。
少女は優雅に礼をすると、

「ハロー、ジャック!今日はステキなハロウィンパーティが開けそうだワ!!」

と言った。
その声は、高級な薄いガラス製のお皿を銀食器で軽く叩いたときような澄んだ声だった。

「良かったねレディ!!その楽しそうなパーティに僕達も参加したいんだけど中に入れてくれないかなー?」
「イイわヨ!あっ、でも今日はオメカシしていないとダメな日なの。だから私が勝手にコーディネートしちゃうワ!!」

ジャックにレディと呼ばれた少女が指を「パチン」と鳴らした。
するとジャックの服は漆黒の燕尾服に、そしてソフィーはオレンジ色を基本としたロングスカートの魔女の服に変わっていた。

「わっ、可愛い!」

ソフィーはレディが変えてくれた自分の服を見て目を輝かせた。

「とっても似合ってる!レディ、ありがとー!!ハッピーハロウィン良い夜を。」
「あ、チョット待って!」

レディがそう声を上げるとソフィーの目の前まで移動した。

「私としたことガ!!大事なモノを忘れていたワ。」

レディがソフィーの頭の上で指をもう一度鳴らすと、小さなとんがり帽子がソフィーの頭の上にちょこんと乗った。

「ありがとうレディ。」

ソフィーが恐る恐るお礼を言うと、

「どーイタシまして。」

とレディは美しく微笑んだ。

「さぁ、ソフィー。ハロウィンパーティに行こっかー。」

そう言ってジャックが歩き出すと、レディの姿は暗闇に溶けるように掻き消えた。
「あれ、レディは?」

ソフィーが周りを見渡してもレディの姿はもうどこに見当たらない。
キョロキョロしているソフィーの耳元ににレディは、

「ソフィーもゼヒ、ハロウィンパーティを楽しんでネ。」

と囁いた。
その後、レディの気配は完全に無くなった。

「大丈夫、レディもハロウィンパーティーに行っただけだよー。どうやらソフィーもレディに気に入られたみたいだねー。」

その言葉にソフィーは喜んだ。

「レディはちょっと怖いけど可愛いから凄く嬉しい!」
「でもね、レディは魔女だから気をつけてー?気に入らないことがあるとすぐに神様の力を借りてお仕置きしちゃうからー。」

ジャックは少し怖い顔をして言った。
いつもの幼く無邪気なジャックとは違った雰囲気にソフィーは黙って何度も頷いた。
そのソフィーの様子にジャックはころりと表情を変え、

「ここまで長くなっちゃったけどハロウィンパーティの会場が本当にもうすぐそこだから行こっかー。」

そう言うとジャックは手を繋ぐ力を少しだけ強めた。

「じゃあ、"せーの"で一歩踏み出そう!」
「「せーのっ!!」」



2人が同時に足を1歩踏み出すと、周りの空気が一変して音と光が溢れた。

「うわぁぁぁ!」

ソフィーが目の前の光景に感嘆の声を上げた。
ソフィーたちの村ぐらいの大きさの広場には白い石でできた大きな噴水がある。
そこから伸びるイルミネーションは周りをぐるっと囲むように生えている木まで繋がっていた。

「噴水なんて初めて見た!私達の背よりも大きいよ!?」

今にも走り出しそうなソフィーにジャックは、

「ソフィー待って、危ない!!」

と、手は握ったまま思いっ切りソフィーに抱きついた。

「わっ。」

その行動にソフィーは驚いて止まった。
ジャックはソフィーにだけ聞き取れるくらいの小さな声で、

「よく見てソフィー。パーティに参加しているお客さんは一杯いるんだー。いい人も悪い人もみんないるから絶対に僕の手を話しちゃ駄目ー!!」

ソフィーがはっとして周りを見渡すと、いつの間にか広場には貴族のように派手なドレスを着て目の周りだけを隠す仮面をしている人や骸骨の格好をした人がいた。
また、身長や体格も様々で普通という言葉がわからなくなるほど混沌としていた。

「すごい…。」

あまりの驚きにソフィーは口をぽかんと開けた。

「ふふっ。ソフィーのその顔すごいおもしろーい。」

ジャックは上品に笑った。
ソフィーはその初め感じたジャックの雰囲気に手を繋いでいることが妙に気恥ずかしく感じられた。
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