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19師匠はゴブリン
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シャルルとガロスが移動している時、リストはちょうど退魔の森でゴブリンと出会っていた。
―退魔の森―
「お、おいどう言う事だ。俺を助けるなんて、それにそんな事依頼されるなんて初めてだぞ」
「何言ってんだよキバ。もともとゴブリンを討伐するつもりなんてない……それに……」
リストはキバへの攻撃を止めて、真上から見下ろしていた。
木の棒を腰にしまうと両膝を綺麗に地面へとつけて、丁寧に頭を下げる。モンスターに対して人間が頭を下げるなどあり得るのだろうか。
ゴブリンであるキバも目を大きく開けて驚嘆している。
それでも御構い無しにリストはもう一度依頼する。
「キバ、改めて言う。俺の師匠になってくれ」
「はぁ? 頭は正気か。俺はゴブリンだぞ」
「あぁ分かってる。でも俺にとってそんな事はどうでもいい」
リストは下げた頭をあげて、キバの目をしっかりと見つめた。
「剣術を俺に教えて欲しいんだ」
「でもな、俺はお前に負けたじゃないか。今もこうして俺は地べたに座っている」
「それは手を抜いたからだろう」
キバは目を釣り上げながら口を綻ばせた。よく分かったな、と言わんばかりに笑うと話を続けた。
「ハハハ! バレていたか、俺は人間を殺すつもりはねぇ。夜中にこんな危険な森に入ってくる馬鹿野郎を怖がらせて王国に返してるだけだ」
「だろうな。この筋肉量、本当はもっと早く動けるんだろ?」
暗闇にあって月夜の光が差し込むと、ゴブリンであるキバの体が映し出された。
そこには、全身が筋肉に覆われた戦士の肉体があった。
いや、筋肉だけではない。
額には銀のプレートが巻き付けられており、仮にリストが木の棒を振り切っていたとしても、逆に装備が破壊されていただろう。
「よく見抜いたな」
「ここを退魔の森と呼ばれるまで、モンスターを駆逐してきた奴が俺なんかにやられるかよ」
「ハハハ! お前さん言うじゃないか」
「でもなんで、人間の味方になったんだ」
「……」
リストがそう尋ねるとキバは地面の方を向いて、瞳を閉じた。どうやらあまり触れられたくない質問らしい。
膝に手を置いて立ち上がると話題を変えてきた。
「そんな昔の事はいいじゃないか。いいぞ、剣術を教えてやろう。俺に一撃を加えなかった……その優しさに免じてな」
「……ありがとう」
リストは慌てて立ち上がると、くの字に体を折り曲げてしっかりと感謝の意を表した。
キバの方も腕を組んでにこやかな表情をしている。
「で、何年間修行するつもりなんだ? 1年間、それとも10年間くらいか?」
「いや、3時間くらいで修行をつけてくれ。勇者と話したい事があるんだ」
「ふむふむ。3時間か……なかなか短い時間で……って短すぎるだろ! お前さんふざけてるのか」
「ふざけてないよ。3時間で基礎だけ教えてくれ。行かなきゃならないクエストが明日の朝にあるんだ」
「勉強熱心なこった。じゃあそれが終わったらまた森へ来い。稽古をつけてやる」
まるで自らの息子に語りかけるように話すキバ、彼は組んだ腕を解いて棍棒に手を伸ばした。
だが、リストの方は悲しそうにキバを見つめると胸の内を明かした。
もう帰ってこれないかもしれない――。
そんな不安な思いを。
「キバ、実は次のクエスト、死の王の討伐なんだ」
「死の王だと?……」
「分かってる……俺には不相応なクエストだって……でも」
「言わなくていい。生きていく中には、無理だと分かってもやらなきゃならねぇ場面がある。たとえ自分自身がめちゃくちゃになったとしてもな。だからか、こんな夜中にこの森に入ってくるなんて正気じゃねぇ」
「だから限界まで俺を鍛え上げてくれ」
その真剣な眼差しを見て、キバは棍棒をリストの顔付近まで持ってきた。
今回は全身から殺気がこもっている。直視することすら困難なほどだ。
「分かった。じゃあ時間がねぇ、手っ取り早く力をつけるしかねぇな」
「……」
「なぁ、手っ取り早く力をつけるために必要なのはなんだと思う?」
「地道なトレーニングとか、かな」
「いや違う! 実践だ。訓練はあくまで訓練、素振りよりも死闘を繰り返した方がよっぽど有効だ」
「これから何をするつもりだ?……」
「お前、俺を本気で殺すつもりで襲ってこい。俺も殺さない程度に応戦する」
リストはキバから溢れ出る殺気を見て、再び木の棒を強く握りしめて剣道のような構えをとった。
―退魔の森―
「お、おいどう言う事だ。俺を助けるなんて、それにそんな事依頼されるなんて初めてだぞ」
「何言ってんだよキバ。もともとゴブリンを討伐するつもりなんてない……それに……」
リストはキバへの攻撃を止めて、真上から見下ろしていた。
木の棒を腰にしまうと両膝を綺麗に地面へとつけて、丁寧に頭を下げる。モンスターに対して人間が頭を下げるなどあり得るのだろうか。
ゴブリンであるキバも目を大きく開けて驚嘆している。
それでも御構い無しにリストはもう一度依頼する。
「キバ、改めて言う。俺の師匠になってくれ」
「はぁ? 頭は正気か。俺はゴブリンだぞ」
「あぁ分かってる。でも俺にとってそんな事はどうでもいい」
リストは下げた頭をあげて、キバの目をしっかりと見つめた。
「剣術を俺に教えて欲しいんだ」
「でもな、俺はお前に負けたじゃないか。今もこうして俺は地べたに座っている」
「それは手を抜いたからだろう」
キバは目を釣り上げながら口を綻ばせた。よく分かったな、と言わんばかりに笑うと話を続けた。
「ハハハ! バレていたか、俺は人間を殺すつもりはねぇ。夜中にこんな危険な森に入ってくる馬鹿野郎を怖がらせて王国に返してるだけだ」
「だろうな。この筋肉量、本当はもっと早く動けるんだろ?」
暗闇にあって月夜の光が差し込むと、ゴブリンであるキバの体が映し出された。
そこには、全身が筋肉に覆われた戦士の肉体があった。
いや、筋肉だけではない。
額には銀のプレートが巻き付けられており、仮にリストが木の棒を振り切っていたとしても、逆に装備が破壊されていただろう。
「よく見抜いたな」
「ここを退魔の森と呼ばれるまで、モンスターを駆逐してきた奴が俺なんかにやられるかよ」
「ハハハ! お前さん言うじゃないか」
「でもなんで、人間の味方になったんだ」
「……」
リストがそう尋ねるとキバは地面の方を向いて、瞳を閉じた。どうやらあまり触れられたくない質問らしい。
膝に手を置いて立ち上がると話題を変えてきた。
「そんな昔の事はいいじゃないか。いいぞ、剣術を教えてやろう。俺に一撃を加えなかった……その優しさに免じてな」
「……ありがとう」
リストは慌てて立ち上がると、くの字に体を折り曲げてしっかりと感謝の意を表した。
キバの方も腕を組んでにこやかな表情をしている。
「で、何年間修行するつもりなんだ? 1年間、それとも10年間くらいか?」
「いや、3時間くらいで修行をつけてくれ。勇者と話したい事があるんだ」
「ふむふむ。3時間か……なかなか短い時間で……って短すぎるだろ! お前さんふざけてるのか」
「ふざけてないよ。3時間で基礎だけ教えてくれ。行かなきゃならないクエストが明日の朝にあるんだ」
「勉強熱心なこった。じゃあそれが終わったらまた森へ来い。稽古をつけてやる」
まるで自らの息子に語りかけるように話すキバ、彼は組んだ腕を解いて棍棒に手を伸ばした。
だが、リストの方は悲しそうにキバを見つめると胸の内を明かした。
もう帰ってこれないかもしれない――。
そんな不安な思いを。
「キバ、実は次のクエスト、死の王の討伐なんだ」
「死の王だと?……」
「分かってる……俺には不相応なクエストだって……でも」
「言わなくていい。生きていく中には、無理だと分かってもやらなきゃならねぇ場面がある。たとえ自分自身がめちゃくちゃになったとしてもな。だからか、こんな夜中にこの森に入ってくるなんて正気じゃねぇ」
「だから限界まで俺を鍛え上げてくれ」
その真剣な眼差しを見て、キバは棍棒をリストの顔付近まで持ってきた。
今回は全身から殺気がこもっている。直視することすら困難なほどだ。
「分かった。じゃあ時間がねぇ、手っ取り早く力をつけるしかねぇな」
「……」
「なぁ、手っ取り早く力をつけるために必要なのはなんだと思う?」
「地道なトレーニングとか、かな」
「いや違う! 実践だ。訓練はあくまで訓練、素振りよりも死闘を繰り返した方がよっぽど有効だ」
「これから何をするつもりだ?……」
「お前、俺を本気で殺すつもりで襲ってこい。俺も殺さない程度に応戦する」
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