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14 この変態が!
しおりを挟むカチャカチャ、と朝食の準備を始める音が街に響く。
この国の朝は早い。
特に王族は民より早く起きて街を散策する。
街に異変はないか?浮浪者が倒れていないか?、誰よりも早く見つけて早急に対応するためだ。
「ふむ。今日も異変はないようだな」
そう。この王族の慣例に倣い、早朝に起き、街を散策する習慣をローリエ・セイレーンは続けているのだ。
ボロボロの衣服を身にまとい、手足や首元に鎖を繋がれようとも元王族としてのプライドは健在のようである。
しかし……。
「ねぇ。ママ! あれ見てよ!!」
ローリエが散策する姿を見て街にいる子供は指をさして笑い。
「コラ! 見ちゃいけません!」
近くにいる親が子供の顔を手で覆って隠している。
なぜかというと。
「ローリエさん……もう帰りましょうよ……」
「何を言う、これは立派な公務なのだぞ。下々の者の生活を妾は直接みたいのだ」
ゴールドがローリエに首輪をかけて引っ張っているからだ。
ローリエは堂々としているが、年上の女性に首輪をかけて年端もいかない男が引き連れているのは何とも教育に悪い。
(こんなとこ親に見られたらなんて言えばいいんだ?)
ゴールドは焦っていた。
田舎においてきた両親。いくら田舎といってもこの街からはそう遠くない。
ファーレンさんと知り合いの母親に至っては、いつこの街に来るか予測できないのだ。
錬金術のスキルを得た息子が、街に出て奴隷の女を買ったと知ったら両親はなんて思うだろうか?
気まずくなるに違いない。
「ご主人殿。さっきから何で黙っているのだ?」
「ローリエさん……。その呼び方をやめてください」
「なんでだ?」
ローリエのその質問にゴールドは無言で立ち止まった。
「ん、どうしたご主人ど……」
「この視線が分からないんですか!?」
ゴールドは半べそになりながら街の通路の脇から、こちらをジロジロと眺めている人々を指差した。
「フォーレンさんに聞きました。奴隷を街中に連れ出すのは趣味の悪い飼い主のする事だって」
「ふっ。そんなこと気にしなくていいではないか」
ローリエは軽く笑うと口元に手をつけた。
この女性は本当に精神が強い……。
ローリエの所有権がゴールドに移った時も平然としていたし、何よりバッカスとのあの後のやり取りに起因する。
ー時は遡り・バッカス奴隷商会ー
ゴールドがローリエを買うと決めた後、バッカスは高笑いをしながら依頼者である女児に向かってこう言った。
「貴様があの女の娘か」
「お母さんを返して……」
娘の悲痛な声に、バッカスは少し顔を歪ませたが満面の笑みで応えた。
「小娘には分からんかもしれんが……」
愛は止められない――。
そのセリフを言い放った彼女から赤い血が、ポタポタと地面に垂れ落ちていた。
そう。これは鼻血だ。
鼻血を垂らしながら喋るバッカスに最早、威厳など存在しない。
ゴールドやフォーレン。外にいる商会の労働者も、顔を引きつらせてドン引きしている。
「ふふふ。安心しろ、母親は絶対に幸せにしてやるから」
「あ、おい! 待て!!」
最後にバッカスはグーサインを決めると、そそくさと何処かへ行ってしまった。
「「……」」
残された者達は何も声を発せなかった。
そこで声を出したのがローリエだったのだ。
「何をショボくれている? 腹が減っては何も考えられぬぞ?」
そう言って、大きな音を立ててお腹から音を出したのもローリエだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そのまま一行はフォーレンの家へと帰り、一夜を過ごして今に至るのだ。
ちなみにフォーレンは女児を連れていつもの場所でマジックをしているらしい。
それを思い出したゴールドは少し笑ってローリエの方を見た。
「ローリエさんて、前向きな方なんですね」
「え?」
ゴールドの反応が予想外だったのか。ローリエは一瞬驚いた表情を見せた。
しかし、すぐに和かな表情を見せると。
「そうであろう?」
暖かい笑顔を見せてくれた。
(よし。このままフォーレンさんの所へ向かうか)
ゴールドがそう思って前を向いた時だった。
ガシャン!と荷物を落とす音が聞こえた。
それと同時に懐かしい声も。
「ゴールドかい?!」
「か、母さん?!」
あんた! 街に来てやりたい事って……。女の子を買うことだったの!?――。
母親との再会は悪夢だった。
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