異世界の南国リゾートでバカンスを楽しむつもりがいつの間にかハードモードに?でもモフモフたち力を借りて乗り切ります!

めっちゃ犬

文字の大きさ
6 / 70
第1章 旅立ち

アヒルンゴでゴー!

しおりを挟む
そのアヒル?は馬くらいの背丈があった。それが3頭、馬車っぽい乗り物の前に並んでいる。白い羽毛に覆われた体と、黄色いくちばしと水かきのついた足が2本。サイズ以外はアヒルそのものの見た目だ。困惑する私にルリが説明してくれる。

「これはアヒルンゴと言って、ティーダル諸島の人たちがよく移動手段に使っている生き物です」

アヒルンゴは馬のように背に乗ることもできるし、乗り物を引かせることもできる。そのような乗り物をアヒルンゴワゴンと言うらしい。私たちはこれから、このアヒルンゴワゴンに乗って旅をするのだ。

「そしてこのアヒルンゴが隊長です」

ルリがアヒルンゴの1頭を指して紹介する。隊長は誇らしげに胸を張り「クワックワッ!」と鳴いた。3頭のうちこの子だけ、頭頂部の羽毛がクルンとカールして跳ねていた。なんだか寝ぐせみたいだけど、たぶんクセ毛なのだろう。

「隊長がいるんだ?」

「はい。アヒルンゴには必ずリーダーがいて、その個体が先頭を走ります。リーダーの優秀さでワゴンの乗り心地が格段に違うのです!」

「へえ」

「今回は選りすぐりのアヒルンゴですからご安心を」

「う、うん」

見た目がのん気なアヒルさんなのであまりピンとこないが、ルリが言うならきっと優秀なんだろう。

「さあ乗ってください」

彼女はワゴンのドアを開けると階段を引き出した。走るときには折りたたんで収納できるステップらしい。ルリの手を借りて乗り込むと、なかは思ったより広々として、席が向かい合わせになっていてそれぞれに2人ずつ、あわせて4人は余裕で乗れそうだ。

しばらく待ったあと、ルリが乗り込んできて向かいの席に座った。アヒルンゴワゴンが静かに動き出す。

「あれ?御者とかはいらないの?」

「アヒルンゴはとても頭が良いので、行き先さえ最初に指示すれば、あとは何もしなくてもそこまで運んでくれるのです」

「すごいね!」

私は心から感心して言った。窓の外には生い茂った木々が見える。きっと斜面の森に入ったのだろう。森のなかの道だから多分舗装とかはされていないと思うけど、ガタガタ揺れることもなく快適だ。快適だけど、ちょっと気になることがある。

前方の小窓からアヒルンゴたちの様子を確認できるようなので、腰を浮かせて覗いてみた。頭頂部を跳ねらかした隊長を先頭に、三角に隊列を組んでワゴンを引いている。

3頭ともプリプリのお尻を振りながら、森の細い道をよちよちと進んでいた。

可愛い。すごく可愛いけど。

「ねえ、ずいぶんとゆっくりじゃない?」

私はルリに尋ねた。お尻フリフリは可愛いが、アヒルンゴたちの歩みは遅い。かなり遅い。これで今日中にティーダル島につくのだろうか?それとも今日はこの島でキャンプでもするのかな?

「今は森の斜面の狭い道を進んでいますから、彼らもゆっくり気をつけながら進んでいるのです。安全な道に出ればスピードをあげますので大丈夫です」

ルリによれば、ここは無人島であまり人が入らないので、道はあるもののあまり整備されていない。倒木が道をふさいでいることもあるのだそうだ。だから事故を起こさないようにゆっくり進んでいるのだという。

「アヒルンゴたちは道の状況を自分たちで判断して安全な走行をします。街なかの道でアヒルンゴワゴンが多いときは、ぶつからないようにお互いに譲りあったりして進むのです」

「アヒルンゴって本当に頭が良いのね!」

それじゃあ自動運転と安全装置がついているようなものじゃないか。すごいぞアヒルンゴ。

「はい、私たちのアヒルンゴ隊長は特に優秀なので心配ありません」

私は納得してうなずいた。そうやって小一時間も進むと、ワゴンは斜面を下りきって小さな浜辺についた。窓から顔を出して見れば、海上のはるか先にティーダル島が見える。

「あれ?そう言えばどうやって海を渡るの?」

島から出るには船が必要だろう。アヒルンゴたちは止まる様子もなく、まっすぐに海に向かって進んでいるみたいだけど、大丈夫なのだろうか?

「もちろん、このまま行きます」

「へ?」

そのとき、ザブン!という音がしてワゴンがゆらゆらと揺れた。まさかと思って外を見ると、ワゴンは波のうえに浮かんでいる。

「アヒルンゴワゴンは水陸両用です。だからこそ離島が多いティーダル諸島で広く利用されているのです」

「そうなんだ」

ビックリしつつ、また小窓からアヒルンゴたちを観察した。3頭はアヒルみたいに海面にプカプカと浮かび、波間を泳いでいる。水の下ではきっと、水かきのついたあの黄色い足をせわしなく動かしているにちがいない。

「クワックワッ!!」

「「クワーッ!」」

先頭の隊長がひと声鳴くと、あとの2頭も答えるように鳴く。「進め!」「おー!」みたいな感じだ。するとワゴンのスピードがググンとあがった。そんなに頑張って大丈夫なのかなと思ったけど、3頭の様子を見る限り楽しそうだ。もしかしたら歩くより泳ぐほうが得意なのかもしれない。

スピードがあがると揺れが少なくなってワゴンが安定してきた。これなら小さな船に乗るよりも快適かもしれない。私はルリに向き直って聞く。

「ティーダル島までどのくらいかかるの?」

「おそらく3時間はかかると思います。なのでその間にここを快適なお部屋に改装しましょう」

改装?ワゴンのなかを?海の上で?

ルリの言うことが謎すぎてクエスチョンマークしか頭に浮かばない。

「あの」

どういうことかと尋ねようとしたら例の虹色の光につつまれ、私たちはまた白い部屋に移動していた。今度はただ真っ白なだけで、スクリーンも椅子もない。

「え?なんでここに戻ってきたの?」

「いえ、私たちが移動したのではなく、ワゴンのなかに時空の裂け目にある部屋を持ってきたのです」

「そんなことできるの!?」

細かいことは分からないが、時空の裂け目への入り口をワゴンの入り口とつなげたらしい。ワゴンのなかに入れば時空の裂け目につくられた部屋に自動的に入る。この部屋は広さは無限だし、内装や家具なども好きなようにつくれるそうだ。ワゴンのなかであっても空間が違うから、揺れも感じないで済む。

「好きなように部屋をカスタマイズできるってことね」

ルリはうなずく。なんとお風呂や水洗トイレもつくれるらしい。浜でキャンプするようなことになってもトイレの心配をしなくていいし、お風呂にだって入れるのだ。郷に入れば郷に従えというけれど、やっぱり衛生面は気になるので嬉しい。

「旅のあいだ沙世さまが快適に過ごせるようにしたいのですが、どのようなお部屋がお好みでしょう?」

ルリの問いに私は勢いよく答えた。

「高級リゾートホテルのスイートルームみたいな部屋がいい!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

処理中です...