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第3章 城下町のモフモフの宿
墓穴を掘らせに呼び寄せる
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翌朝、女将が倒れたのは過労と心労が重なったせいだと主人から説明を受けた。しばらく安静にして休んでいれば回復するそうだ。たいしたことがないようで私はホッとする。
「ご主人、心労というのはやはり嫌がらせが原因ですか?」
ルリがずばりと切り込むと、主人の顔がゆがんだ。少し躊躇したあと、意を決したように打ち明けてくれる。
「はい、お客さまに迷惑がかからないか心配で、アイツは夜もおちおち眠れない日が続いていたんです。そこにまた昨日のことがあったもんだから」
悔しそうに唇を噛む主人に、私は心から同情した。放火される危険があるなんて、宿には致命傷だ。そう思ったそばから、主人がこんなことを言い出した。
「お客さまの安全にかかわりますので、少なくとも犯人が捕まるまでは宿を閉めようと思っています。申し訳ないのですが、今お泊りいただいている方々は他所へ移っていただきます」
次は客室に放火されたら大変だ。これまでだって、ブルシズをたくさん置いたり、警察に相談したりしても防げなかったのだから、主人の決断はもっともだろう。
しかしそれをルリが止めた。
「ご主人、宿はいいとして、レストランのほうは営業してほしいのです。私たちが手伝いますので」
「ええ!?お客さまに手伝いなんかさせられませんよ!」
主人はとんでもないと言うように両手を振って断った。ルリはなおも説得する。
「嫌がらせと放火の犯人を捕まえたくないですか?私たちに考えがあります」
「どういうことでしょう?」
ルリは昨夜ふたりで話し合ったことを主人に伝えた。
「なるほど。お客さまの言うことにも一理あるかもしれません。今までだって証拠がないばかりに泣き寝入りしてきましたからね」
説明を聞いた主人は、今の話を吟味するようにアゴに手をあてる。
「ご主人、今日だけ、今日だけでいいのです。ちょっと刺激してやれば、アレはすぐにやってきます」
「今日だけ・・・そうですね、今日だけでいいのなら」
「はい、今日中にカタをつけるので、心配ありません」
ルリは自信たっぷりに請け負った。本当に大丈夫なのか私には少し不安もあったけど、主人を励ますために笑顔をつくってルリに同調する。
そこから私たちは大急ぎで動いた。
まず宿の主人には近所をひとっ走りしてもらって、段取りをつけてもらう。私は厨房で野菜の皮むきなどの下仕事を手伝い、ルリはブルシズ達の世話や掃除。まだ休養が必要な女将の世話には、あの麺屋の女主人に来てもらった。
宿泊客のほうは、こちらからお願いするよりも先にみんな出て行ってしまった。一昨日の泥団子事件もあたし、放火の件は伏せてあるが火事が出たと聞けばやっぱり不安なのだろう。
「金ぴかとかいう宿には泊まらないほうがいいですよ。あそこはダニだらけだし、料理が壊滅的にまずいです」
出ていく客には、ルリがそんなことを吹きこんでいた。信じるかどうかは相手次第だが、それはどうでもいいのだ。
そんなこんなでバタバタと動き回るうち、レストランを開ける時間があっと言う間に迫ってきた。
「これを着るのですか?」
「うん、可愛いでしょ」
ランチの開店時間をまえに、私はルリにメイド服を着るようにと迫っていた。今朝チビルリちゃんたちに頼んでつくっておいてもらったのだ。袖とスカート部分がふんわりとした黒のワンピに、白のエプロン。黒髪ストレートの美少女であるルリに、絶対に似合うに違いない。
拒否されるかと心配だったけど、服装に関心のないルリはさっさと着替え始めた。仕上げに私が首に黒リボンのチョーカーを結んであげる。
ヤバイ。可愛い。可愛すぎる。
その完璧な仕上がりに私は見惚れた。メイド喫茶に通う男性の気持ちがちょっと分かる気がする。もっとも、こんな美少女はめったにいないだろうが。
「沙世さん、ルリさん、そろそろ開店しますよ」
主人の声がかかる。今日の私たちは従業員だから、名前で呼んでもらうように事前に打ち合わせておいたのだ。ルリはホール、私は厨房と、私たちはそれぞれの持ち場へ着いた。
「こんにちは!」
オープンの札をかかげるとすぐにお客が入ってきた。一番乗りは常連さんの中年のご夫婦だ。
「いらっしゃいませ」
ルリがスススと近寄ってメニューを差し出した。ニコリともしない愛想なしだが、とりあえず仕事はちゃんとできているようなのでホッとした。
しかし、さすがは人気店。オープンから30分もすると席の半分以上が埋まってしまった。その大半が近所の人か常連だ。皆がこの宿の夫婦を応援しているのだと思うと心強い。
「コルーのピリ辛焼きとペロンの蒸し焼きです」
「ハバローネ3人前とコルーのピリ辛焼きひとつ」
ルリが厨房へ次々と注文を伝えにくる。今のところ間違いもないし、思ったよりも優秀だ。愛想はないけど。
「沙世さん、こっちの皿にピロリを盛りつけて!」
「はいっ!」
私も頑張って厨房を手伝う。宿の主人は忙しいのに慣れているのだろう、手早いながらも落ち着いて仕事をしていた。
そして、ちょうどランチのピークを迎えたとき、待っていたあの人がやって来たのだ。一番忙しい時間を狙ってくるあたり、やはり性格が悪いと言わざるを得ない。
「皆さま、ごきげんよう!」
ピンクのフリフリミニドレスを着たイランコトシーナ3世は、店に入るなり大きな声でそう挨拶した。各テーブルでくつろいで食事していた人々が、驚いていっせいに彼女を見る。それに気を良くしたのだろうか、彼女は頭の後ろに片手をあてて胸を張り、モデルのようなポーズをしてみせた。
なにしてんのよ!?
私は思わず心のなかでツッコむ。「皆ワタクシの美しさに見惚れているわ」とか思っていそうで気持ち悪い。見惚れてるんじゃなくて大声と格好に驚いてるだけなのに。
ポーズをとるイランコトシーナ3世に、ルリがつかつかと歩み寄って言った。
「いらっしゃいませ、何様ですか?」
「は?」
「いえ、何名様ですか?」
イランコトシーナ3世は腕を胸の前で組むと、ツンとアゴをあげた。
「あーら、お食事に来たのじゃなくってよ。ここにうちの宿の悪口を言ってる人がいるみたいだから、抗議しにきたの」
ここを引き払った客に聞いたのだろう、彼女はルリをにらみつけながら返した。先日客引きに失敗した相手だとは気づいていないようだ。きっと色んな観光客に声をかけすぎて覚えていないのだろう。
その強い視線を真正面から受けるルリは、表情ひとつ変えずに答える。
「はい、『金ぴかはダニだらけで食事は壊滅的にまずい』と言ったのは私です」
「なんですって!?」
ピキッと、イランコトシーナ3世のこめかみに青筋が立つ。店内の空気が凍った。
「ご主人、心労というのはやはり嫌がらせが原因ですか?」
ルリがずばりと切り込むと、主人の顔がゆがんだ。少し躊躇したあと、意を決したように打ち明けてくれる。
「はい、お客さまに迷惑がかからないか心配で、アイツは夜もおちおち眠れない日が続いていたんです。そこにまた昨日のことがあったもんだから」
悔しそうに唇を噛む主人に、私は心から同情した。放火される危険があるなんて、宿には致命傷だ。そう思ったそばから、主人がこんなことを言い出した。
「お客さまの安全にかかわりますので、少なくとも犯人が捕まるまでは宿を閉めようと思っています。申し訳ないのですが、今お泊りいただいている方々は他所へ移っていただきます」
次は客室に放火されたら大変だ。これまでだって、ブルシズをたくさん置いたり、警察に相談したりしても防げなかったのだから、主人の決断はもっともだろう。
しかしそれをルリが止めた。
「ご主人、宿はいいとして、レストランのほうは営業してほしいのです。私たちが手伝いますので」
「ええ!?お客さまに手伝いなんかさせられませんよ!」
主人はとんでもないと言うように両手を振って断った。ルリはなおも説得する。
「嫌がらせと放火の犯人を捕まえたくないですか?私たちに考えがあります」
「どういうことでしょう?」
ルリは昨夜ふたりで話し合ったことを主人に伝えた。
「なるほど。お客さまの言うことにも一理あるかもしれません。今までだって証拠がないばかりに泣き寝入りしてきましたからね」
説明を聞いた主人は、今の話を吟味するようにアゴに手をあてる。
「ご主人、今日だけ、今日だけでいいのです。ちょっと刺激してやれば、アレはすぐにやってきます」
「今日だけ・・・そうですね、今日だけでいいのなら」
「はい、今日中にカタをつけるので、心配ありません」
ルリは自信たっぷりに請け負った。本当に大丈夫なのか私には少し不安もあったけど、主人を励ますために笑顔をつくってルリに同調する。
そこから私たちは大急ぎで動いた。
まず宿の主人には近所をひとっ走りしてもらって、段取りをつけてもらう。私は厨房で野菜の皮むきなどの下仕事を手伝い、ルリはブルシズ達の世話や掃除。まだ休養が必要な女将の世話には、あの麺屋の女主人に来てもらった。
宿泊客のほうは、こちらからお願いするよりも先にみんな出て行ってしまった。一昨日の泥団子事件もあたし、放火の件は伏せてあるが火事が出たと聞けばやっぱり不安なのだろう。
「金ぴかとかいう宿には泊まらないほうがいいですよ。あそこはダニだらけだし、料理が壊滅的にまずいです」
出ていく客には、ルリがそんなことを吹きこんでいた。信じるかどうかは相手次第だが、それはどうでもいいのだ。
そんなこんなでバタバタと動き回るうち、レストランを開ける時間があっと言う間に迫ってきた。
「これを着るのですか?」
「うん、可愛いでしょ」
ランチの開店時間をまえに、私はルリにメイド服を着るようにと迫っていた。今朝チビルリちゃんたちに頼んでつくっておいてもらったのだ。袖とスカート部分がふんわりとした黒のワンピに、白のエプロン。黒髪ストレートの美少女であるルリに、絶対に似合うに違いない。
拒否されるかと心配だったけど、服装に関心のないルリはさっさと着替え始めた。仕上げに私が首に黒リボンのチョーカーを結んであげる。
ヤバイ。可愛い。可愛すぎる。
その完璧な仕上がりに私は見惚れた。メイド喫茶に通う男性の気持ちがちょっと分かる気がする。もっとも、こんな美少女はめったにいないだろうが。
「沙世さん、ルリさん、そろそろ開店しますよ」
主人の声がかかる。今日の私たちは従業員だから、名前で呼んでもらうように事前に打ち合わせておいたのだ。ルリはホール、私は厨房と、私たちはそれぞれの持ち場へ着いた。
「こんにちは!」
オープンの札をかかげるとすぐにお客が入ってきた。一番乗りは常連さんの中年のご夫婦だ。
「いらっしゃいませ」
ルリがスススと近寄ってメニューを差し出した。ニコリともしない愛想なしだが、とりあえず仕事はちゃんとできているようなのでホッとした。
しかし、さすがは人気店。オープンから30分もすると席の半分以上が埋まってしまった。その大半が近所の人か常連だ。皆がこの宿の夫婦を応援しているのだと思うと心強い。
「コルーのピリ辛焼きとペロンの蒸し焼きです」
「ハバローネ3人前とコルーのピリ辛焼きひとつ」
ルリが厨房へ次々と注文を伝えにくる。今のところ間違いもないし、思ったよりも優秀だ。愛想はないけど。
「沙世さん、こっちの皿にピロリを盛りつけて!」
「はいっ!」
私も頑張って厨房を手伝う。宿の主人は忙しいのに慣れているのだろう、手早いながらも落ち着いて仕事をしていた。
そして、ちょうどランチのピークを迎えたとき、待っていたあの人がやって来たのだ。一番忙しい時間を狙ってくるあたり、やはり性格が悪いと言わざるを得ない。
「皆さま、ごきげんよう!」
ピンクのフリフリミニドレスを着たイランコトシーナ3世は、店に入るなり大きな声でそう挨拶した。各テーブルでくつろいで食事していた人々が、驚いていっせいに彼女を見る。それに気を良くしたのだろうか、彼女は頭の後ろに片手をあてて胸を張り、モデルのようなポーズをしてみせた。
なにしてんのよ!?
私は思わず心のなかでツッコむ。「皆ワタクシの美しさに見惚れているわ」とか思っていそうで気持ち悪い。見惚れてるんじゃなくて大声と格好に驚いてるだけなのに。
ポーズをとるイランコトシーナ3世に、ルリがつかつかと歩み寄って言った。
「いらっしゃいませ、何様ですか?」
「は?」
「いえ、何名様ですか?」
イランコトシーナ3世は腕を胸の前で組むと、ツンとアゴをあげた。
「あーら、お食事に来たのじゃなくってよ。ここにうちの宿の悪口を言ってる人がいるみたいだから、抗議しにきたの」
ここを引き払った客に聞いたのだろう、彼女はルリをにらみつけながら返した。先日客引きに失敗した相手だとは気づいていないようだ。きっと色んな観光客に声をかけすぎて覚えていないのだろう。
その強い視線を真正面から受けるルリは、表情ひとつ変えずに答える。
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