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第3章 城下町のモフモフの宿
こんなはずじゃなかったのに
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あのあと、ワタクシは消防の本部に連行されて事情を聞かれた。
美貌で調査員を誘惑してなんとかごまかせたと思ったのに、警官を呼ばれて引き渡されてしまったわ。なんでも、うちの従業員が全部白状したのだとか。アイツがそんな簡単に裏切るなんて。ワタクシは宿主のお嬢さまなのよ?下賎の者が代わりに罪をかぶるのが当然ではなくて?
だから今は、不本意ながら警察署の拘置所に入れられているところよ。いつ出られるかは分からないって、ワタクシのような高貴な血を受け継ぐものに、なんという仕打ちかしら!
「ちょっと!ワタクシは王族なのよ!?不敬罪になりたくないなら、今すぐにここから出しなさい!」
鉄格子をつかんで叫ぶワタクシに、見張りの警官がうんざりしたような顔で言う。
「静かにしなさい」
んまぁああああ!なんて生意気なのかしら!
「あなたたち、まさかワタクシにこんな粗末なベッドで寝ろって言うんじゃないわよね?」
ワタクシは殺風景な部屋の隅に置かれた狭くて固そうなベッドを見る。あんなの絶対にダニがいるに決まっている。だけど、警官はもうこちらをチラリとも見ないわ。
ワタクシはあきらめて、一客しかない粗末な木の椅子に座った。クッションもなくてお尻が痛くなるけど、立ってるよりはマシだもの。さっき、ディナーや着替えのドレスを届けてもらえるように家に使いを出してもらったけど、これじゃあ毛布やクッションも差し入れてもらわないとダメね。
いったい、どうしてこんなことになったのかしら?
絵画の飾りのひとつもない、無粋な灰色の壁を見つめて考える。拘置所に入れるにしても、もう少しましな、せめて貴族用の部屋とかないのかしら?
ワタクシは貴族だったお母さまの娘で、裕福な老舗旅館の後継ぎなのに。タクトと結婚して、お父さまから経営を引き継いで、幸せな人生を送るはずだったのに。なぜ今、こんなところに閉じ込められているの?
「お嬢さま、遅くなりましただ」
遠慮がちなしわがれ声に振り向く。鉄格子の向こうには、旅館で働いている古参の従業員が立っていた。先代から働いている爺さんで、名前は確かゴスケとか言ったわね。もう何十年も城下町にいるのに、故郷の訛りの消えないダサい爺さんよ。
「なんでお前が来たの?お父さまとお母さまは?」
「それが、おふたりとも来られねえんで」
「そんなワケないでしょ!大事な後継ぎであるワタクシの一大事なのよ」
警官に賄賂でもなんでも使って、早くここから出してもらいたいのに。この老いぼれじゃ何の役にも立たない。だけどゴスケはしぼんだ体をますます縮めて、申し訳なさそうに言う。
「それが、奥さまはご実家へ帰られました。旦那さまはそのう・・・後始末にあちこち回らなければならないもんで」
は?どーゆーこと?
驚きのあまり声が出なかったわ。こんなときなのに、なぜお母さまは実家に帰ってしまわれたの?お父さまは何故のん気に遊んで歩いてるの?
そこまで考えたとき、お腹がグゥとなって、ワタクシは顔を赤らめたわ。淑女にあるまじき失態だけど、拘置所の食事はまずくて食べられなかったのよ。
「ディナーは持ってきてくれた?」
「へえ、まかない飯を明日の朝のぶんとあわせて2回分、包んできましただ」
「まかない飯ですって?それはお前たちの食べ物でしょ!」
ワタクシは彼を叱りつける。本当にこの年寄りは役に立たないわ。なんでお前と同じものをワタクシが食べると思ったのよ。だけど彼はペコペコ頭を下げながら、またワケの分からないことを言い出したの。
「申し訳ございません。ですが旦那さまのお言いつけなんで」
「お父さまがそんなこと言うワケないじゃない!」
ワタクシは怒りに震えた。分かった、このジジイは私に意趣返しをしてるんだわ。「伝統と格式が」なんて古臭いことを言うジジイの反対を押し切って宿の改装を進めたから、それが気に入らないのよ。
まったく、これだから教養のない下賎の者は。
「いいこと、ワタクシは王族の一員なの!平民ごときが・・・」
そう叱りつけると、ゴスケはあわててワタクシをさえぎる。
「お嬢さま、そういうご冗談はもうおやめくだせえ。警察にそんなこと聞かれたら、それこそ不敬罪で島流しになりますだ」
え、冗談?
え、島流し?
この爺さんは何を言ってるの?ワタクシは王族だし、島流しになんかなるわけないじゃない。
だけど、涙を流して懇願する老人を見、彼に同情の視線をおくる警官を見たら、なんだか言葉が出なくなってしまった。
「・・・分かったわゴスケ。次は毛布とクッションをもってきてくれる?」
「へえ、また明日きますんで」
ゴスケがペコペコ頭をさげて帰っていったあと、ワタクシはまた堅い椅子に腰かけて考えた。
島流しなんかになるわけにはいかないわ。刑務所に入るわけにもいかない。だってそんなことになったら、タクトと結婚できなくなっちゃうもの。
15年まえ、あの邪魔な子供を排除するために、ワタクシはある神と取引をした。あの女とタクトが別れないのは、あの子供がいるせいだと思ったの。
神は代償としてワタクシの魂を欲したわ。ただしタクトと結婚出来れば、それはチャラになる約束で。まあ賭けみたいなものだけど、もちろん勝つ自信はある。でも、神が決めた期日まではあと5年しかないから、離島や刑務所に送られたら叶わなくなってしまう。
そうしたら、私は神に魂を取られて死ぬのだろうか?
頬に涙が流れ落ちていく。
ワタクシの人生、こんなはずじゃなかったのに。
美貌で調査員を誘惑してなんとかごまかせたと思ったのに、警官を呼ばれて引き渡されてしまったわ。なんでも、うちの従業員が全部白状したのだとか。アイツがそんな簡単に裏切るなんて。ワタクシは宿主のお嬢さまなのよ?下賎の者が代わりに罪をかぶるのが当然ではなくて?
だから今は、不本意ながら警察署の拘置所に入れられているところよ。いつ出られるかは分からないって、ワタクシのような高貴な血を受け継ぐものに、なんという仕打ちかしら!
「ちょっと!ワタクシは王族なのよ!?不敬罪になりたくないなら、今すぐにここから出しなさい!」
鉄格子をつかんで叫ぶワタクシに、見張りの警官がうんざりしたような顔で言う。
「静かにしなさい」
んまぁああああ!なんて生意気なのかしら!
「あなたたち、まさかワタクシにこんな粗末なベッドで寝ろって言うんじゃないわよね?」
ワタクシは殺風景な部屋の隅に置かれた狭くて固そうなベッドを見る。あんなの絶対にダニがいるに決まっている。だけど、警官はもうこちらをチラリとも見ないわ。
ワタクシはあきらめて、一客しかない粗末な木の椅子に座った。クッションもなくてお尻が痛くなるけど、立ってるよりはマシだもの。さっき、ディナーや着替えのドレスを届けてもらえるように家に使いを出してもらったけど、これじゃあ毛布やクッションも差し入れてもらわないとダメね。
いったい、どうしてこんなことになったのかしら?
絵画の飾りのひとつもない、無粋な灰色の壁を見つめて考える。拘置所に入れるにしても、もう少しましな、せめて貴族用の部屋とかないのかしら?
ワタクシは貴族だったお母さまの娘で、裕福な老舗旅館の後継ぎなのに。タクトと結婚して、お父さまから経営を引き継いで、幸せな人生を送るはずだったのに。なぜ今、こんなところに閉じ込められているの?
「お嬢さま、遅くなりましただ」
遠慮がちなしわがれ声に振り向く。鉄格子の向こうには、旅館で働いている古参の従業員が立っていた。先代から働いている爺さんで、名前は確かゴスケとか言ったわね。もう何十年も城下町にいるのに、故郷の訛りの消えないダサい爺さんよ。
「なんでお前が来たの?お父さまとお母さまは?」
「それが、おふたりとも来られねえんで」
「そんなワケないでしょ!大事な後継ぎであるワタクシの一大事なのよ」
警官に賄賂でもなんでも使って、早くここから出してもらいたいのに。この老いぼれじゃ何の役にも立たない。だけどゴスケはしぼんだ体をますます縮めて、申し訳なさそうに言う。
「それが、奥さまはご実家へ帰られました。旦那さまはそのう・・・後始末にあちこち回らなければならないもんで」
は?どーゆーこと?
驚きのあまり声が出なかったわ。こんなときなのに、なぜお母さまは実家に帰ってしまわれたの?お父さまは何故のん気に遊んで歩いてるの?
そこまで考えたとき、お腹がグゥとなって、ワタクシは顔を赤らめたわ。淑女にあるまじき失態だけど、拘置所の食事はまずくて食べられなかったのよ。
「ディナーは持ってきてくれた?」
「へえ、まかない飯を明日の朝のぶんとあわせて2回分、包んできましただ」
「まかない飯ですって?それはお前たちの食べ物でしょ!」
ワタクシは彼を叱りつける。本当にこの年寄りは役に立たないわ。なんでお前と同じものをワタクシが食べると思ったのよ。だけど彼はペコペコ頭を下げながら、またワケの分からないことを言い出したの。
「申し訳ございません。ですが旦那さまのお言いつけなんで」
「お父さまがそんなこと言うワケないじゃない!」
ワタクシは怒りに震えた。分かった、このジジイは私に意趣返しをしてるんだわ。「伝統と格式が」なんて古臭いことを言うジジイの反対を押し切って宿の改装を進めたから、それが気に入らないのよ。
まったく、これだから教養のない下賎の者は。
「いいこと、ワタクシは王族の一員なの!平民ごときが・・・」
そう叱りつけると、ゴスケはあわててワタクシをさえぎる。
「お嬢さま、そういうご冗談はもうおやめくだせえ。警察にそんなこと聞かれたら、それこそ不敬罪で島流しになりますだ」
え、冗談?
え、島流し?
この爺さんは何を言ってるの?ワタクシは王族だし、島流しになんかなるわけないじゃない。
だけど、涙を流して懇願する老人を見、彼に同情の視線をおくる警官を見たら、なんだか言葉が出なくなってしまった。
「・・・分かったわゴスケ。次は毛布とクッションをもってきてくれる?」
「へえ、また明日きますんで」
ゴスケがペコペコ頭をさげて帰っていったあと、ワタクシはまた堅い椅子に腰かけて考えた。
島流しなんかになるわけにはいかないわ。刑務所に入るわけにもいかない。だってそんなことになったら、タクトと結婚できなくなっちゃうもの。
15年まえ、あの邪魔な子供を排除するために、ワタクシはある神と取引をした。あの女とタクトが別れないのは、あの子供がいるせいだと思ったの。
神は代償としてワタクシの魂を欲したわ。ただしタクトと結婚出来れば、それはチャラになる約束で。まあ賭けみたいなものだけど、もちろん勝つ自信はある。でも、神が決めた期日まではあと5年しかないから、離島や刑務所に送られたら叶わなくなってしまう。
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