え、婚約破棄?あ、もうそういうのいいんで。〜無限にやり直せるけど、絶対に死ぬ悪役令嬢は、好きに生きる事にした

銀杏鹿

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02 世界の果てまで行けそうな気がしたあの日

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「あ、貴方様のお名前は……」

「僕の名前はフリードリヒ。ただの……通りすがりの正義の味方さ」

 土蔵に閉じ込められていたクラリス。

 そして、彼女を助け出したフリードリヒとの出会いのシーン。

 ただ、彼は下着を頭に被っていた。

 堂々たる変質者、それが彼のカッコ良さ。

「うんうん、やっぱ、ヒーローは顔を隠すものだよね」

 ヒーローネームは金髪ブタ野郎、これで決まりだ。

 全身タイツで戦ってる連中がアメリカンヒーローなんだ、日本なら下着だ。これがクールジャパンだ文句あるか。

「何故、私を助けてくれたのですか……?」

「困っている子を助けるのに理由がいるのかい?」

 膝をついて目線を合わせるフリードリヒ。

 何カッコつけてるんだろ、その子の下着被ってんのに。

 頬染めてるクラリスも凄い、ここは性癖の無法地帯かな?

 イベント中の彼らは想定外の行為には反応しないから、何でも出来る。この程度は余裕だ。

 しかし、アドリブが出来ないんじゃ、プロじゃないね。

 私はプロだ、故に自由。

「相手の物を身につけたりするのがエモいんでしょ?私、知ってるよ。じゃ、靴下片方もらって帰るから」

 そして、クラリスとフリードリヒの靴下を片方ずつ回収する。

 因みに彼らは、設定された衣服が変わるまで着せたり被せた物がそのままなので、私が取らない限り彼はこのまま変態仮面。

 タイミングにもよるけど、断罪シーンまでそのままな時もある。

「さて、102回目のループを飾るに相応しいスタートだね。さらば乙女ゲー。私は自由になったのだ!」

 まだなんか出会いのシーンをやってる二人を土蔵に閉まって鍵を閉める。

「よし──と」


◆◆◆◆◆◆◆◆

 
 その日は朝から雨だった。

「自由!素晴らしき哉!私は自由の使者!」

 雨の中、私は傘をステッキのように振り回し、タップダンスを踊る。

「あ、あの、お姉様?何をなさっているのですか?」

 主人公じゃない方の妹──栗色の髪に茶色の瞳のラウラは慌てている。慌てた顔も可愛い。

 私の妹なだけの事はある。つまり私も見た目は可愛い子供。中身は大人だ。

「自由を」

「あ、あの、傘くらいさしては?」

「雨の中、傘を差さずに踊ってもいい。自由ってそういうものよ」

「そ、そうなのですか」

「さあ、ラウラも踊りましょう。そうすれば雨も笑って受け止められる!」

 私が差し出す手の先で、ラウラは困惑していた。

「もう、仕方ないですね」

 傘を置いて、雨の中に躍り出るラウラ。

「そう!雨に歌い踊れば、幸せは甦るの!」

 まだ私は生きている。処刑されるまでは自由なんだから、何をしても良い。

「何かあったのですか?お姉様」

「私、小説を書いているの」

「は、はあ」

「主人公は、何をしても六年後に必ず殺されてしまう。でも、殺されると六年前に戻ってそれを永遠と繰り返す。例え、誰と仲良くなっても誰も覚えていてはくれないし、何をしても全部無かった事になるの!」

「それは……悲しい事ですね」

「そうかも知れないけど、主人公は笑ってるのよ」

「何故ですか?」

「何もかも決まった流れの中で、主人公だけは自由に動ける──そう思い込んでいるから」

「思い込んでいる……?」

「所詮、小説の中の話。主人公は文字列でしかないわ。そんなの、池の中の鯉が自分が自由だと思っているのと変わらない」

「……その主人公は、どうなるのですか?」

「分からない、結末まで辿り着いてないの、何せ、何をしても死んでしまうんだから、どうやってエンディングにしたらいいか、検討もつかない」

「主人公は……ずっと一人なのでしょうか?」

「そう!ずっと!どれだけ仲良くなっても、思っても、同じ。まあ、六年の間は幸せかも知れないけれど、殺されるのと、やり直しは変わらない」

「そんなの……救いがなさ過ぎませんか?私は幸せな結末の方が好きです。ただ苦しいままだなんて、そんなの」

「でも、雨も悪くはないわ!」

「えっ?あの?どう言う意味ですか?」

「晴れた時、気分が良いでしょう?雨の日が憂鬱なんてのも勝手な話だけどね」

「お姉様は時々10歳とは思えない事を言いますね」

「私、606歳だもの!10歳の頃何を考えていたかなんて、再現できないわ!」

「ふふ、変なお姉様」

 何にせよ私は自由だ、自由過ぎて何をしたらいいのか分からない。

 これまで死なない為に金髪ブタ野郎と仲良くしたりとか、根回ししたりとか、色々してきて疲れたけれど、いざ自由となると何をして良いのか分からない。

 道筋通りにやっても、ゲームの範囲内なんだ、掟破りの地元走りを見せてやらないとこのゲームは壊れない。

「そうだ!」

「どうしたんですか?」

「決めた!世界の涯に行こう!」

 フィールドの端を歩き回るのはデバッグの基本。当たり判定の無い、世界の隙間を探そう。

 上手くいけばこの世界から脱出できるかも知れないし。

「一緒に逃げましょう!ラウラ!」

「えっ?」

 ラウラにはイベントが無い。この世界の住人で"ちゃんと顔が見える"──モブみたいに白い人形じゃないキャラクター以外には、殆どイベントが用意されている中、この子だけ何も無い。

 多分、ファンディスクとかでルートが解禁されるタイプなんだろう。多分。

「何処に行くのでしょうか?遠出ならお母様に言わないと……」

「世界の涯よ!お母様は気にしなくて良いわ!」

「えっ?」

 こうして私達は世界の隙間を探す旅に出た。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 二時間くらい歩き回って疲れたので家に帰ってきた。びしょ濡れだったのですごく怒られた。

「……お姉様、流石に徒歩ではこの街を出るのすら難しいですよ」

 風呂に入らされた後、私の部屋でラウラは呆れたような顔をしてそんなことを言った。

「でも、隙間は見つかったわ!」

「隙間……?」

「ほら、ここ」

 机と壁の隙間に、微妙にグラフィックがおかしくなっているところがあったのだ!

「何もありませんが……?」

「ラウラには見えないかもね、ほら」

 隙間には当たり判定が無いので、私の手が壁の中へ入っていく。

「な、何をされてるのですかお姉様!て、手が!」

「手だけじゃない、こうすれば──」

 隙間に身体を捻り込むと、壁の当たり判定をすり抜けて、私は壁の裏側に入った。

 やっぱりガバガバだ、このゲーム。

「お、お姉様!?」

 私からは壁の向こう側が見えるけど、ラウラからは見えないらしい。

「なに?」

 少し移動して床から顔を出す。

「ひゃっ!お姉様!?それってもしかして魔法ですか!?」

「魔法じゃなくて、仕様だよ」

「し、シヨウ……?よくわかりませんが流石お姉様です!」

 先ずは壁を抜ける方法を見つけた。これがなんの役に立つか分からないけど……

「──ルチア!ルチアいるか!」

 突然、部屋に入ってきたのは兵士。

「な、なんですか一体!」

「フリードリヒ王子を監禁した罪で捕縛するっ!」

「お姉様がそんな事をする筈がありませ」

「あ!開けるの忘れてた……!」

「えっ!?」

 イベントが終わるとこうなる。臨機応変に私を処刑しようとしてくるのだ。

「閉じ込めたくらいでなにが悪い。私はあいつらに100回も処刑されてるぞ?どうだ?まだ私を捕まえる気か?」

「……」

「ははは!何も言い返せまい!」

 私は裁判なしでさっくり処刑された。
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