忘れた恋のはずだった

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君の笑顔と温かさ

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「木の根っこから落ちたらワニに食べられちゃうから」
 そう言って私に手を差し伸べてくれる、君の笑顔は眩しくて、可愛くて。握った手は温かかった。



「美結。次どこ行く?」
「え?」
 パフェを食べながら、美咲が私に話しかけてきてることは分かっていたけど、何を言っているのか聞いてなかった。
「最近、美結ずっとそんな感じだよね」
 美咲とは保育園の時からの幼馴染で親友的な存在。
「もしかして!! 好きな人出来たとか?」
「そんなじゃないって!」
 私が慌てた素振りを見せたもんだから美咲は当然のように好きな人が出来たていで話を進めてくる。
「叶くんとか? 最近よく話してる所見るからねぇ。あ、もしかして沙月くん? 美結のタイプっぽいもんね」
「だから違うって!」
 苺を口いっぱいに入れた美咲が私の方をぽかんと眺めている。
 私はため息をついて生クリームをスプーンいっぱいにすくって口に運ぶ。生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが調和されてすごく美味しい。
「でもさ、美結が最近何かを考えるようにぼーっとしてんのは、確かよ?」
 それは確かにそうだ。
 ここ最近になっても彼の事を無性に考えてしまう。2度と会うことがないかもしれない彼の事を考えてもどうこうなる話ではないのに。
 でも、美咲なら彼の事を少しでも理解できると思う。彼が私の目の前からいなくなったのは小学校にあがってから。保育園の時は美咲とはあまり一緒にいなかったけど、彼の事はたぶん知っていると思う。
「ねぇ、海星くんの事、覚えてる?」
「ん? あー、あの可愛い子?」
「うん。海星くんの苗字って何なんだろね」
「んー。覚えてないなぁ。保育園の時のアルバム持ってないから確認することも出来ないし」
「んーー」
「なに? 美結もしかして、海星くんの事好きなの?」
 幼なじみに言われた言葉は、何故かずっと私の心の中でこだまし続けた。何回も耳元で美咲の声が聞こえてくる。
 家に帰ってから私はおもむろに押し入れを開けていた。
 その中の収納ボックスをガタガタと取り出して『ある物』を一心不乱に探し続けた。
「あれ、帰ってたの?」
 電気のついていない部屋に入ってきたのは母だった。
「何探してんの?」
「ねえ、卒園アルバムないの?」
 母は考える素振りを見せて手を打った。
「卒園アルバムは要らないと思って買わなかったのよぉ。高かったしね」
 その言葉を聞いて全てのやる気を失った。
 どこにいるかも分からない。名前はわかるのに苗字は分からない。彼の今を知りたいのに何一つとして情報がないなんて。
「なんで、それが必要なの?」
「海星くんの事、覚えてる?」
「あー、あの子、大阪に行ったみたいよね」
「え?」
 母がそんな事をあっさり言うものだから、呆気にとられてしまった。
「卒園と同時のタイミングでお父さんのいた大阪に引っ越したみたいよ?」
「え、ちなみにさ、苗字とかは? 覚えてないの?」
「それは覚えてないけど…」
「なんだぁ」
「そんな事より、勉強しなさいよ? 今の学力でいけるからって余裕を持っておかないと落ちちゃうかもしれないでしょ?」
「わかってますぅ」
 嫌味げにそう言って出して物を整頓しながら収納ボックスに片付けていく。保育園の時の写真は何枚か残っている。それでも彼が写っている写真は2・3枚しかないのだ。
 私は商業科の高校に入学するつもりだ。行きたいとかそういう訳じゃない。世間体的に高校に行っていないとカッコの悪いこの時代に行きたくなくても行かなければならないのなら、姉の進路について行くだけだ。姉の通う高校に行っておけば何となく安心することができる。
 商業科の学校には学科が3つに別れている。商業科、会計情報科、情報処理科。この3つだ。ちなみに私は会計科に行くつもりだ。ここだったら何かと都合がいい。まず、姉が進んだ学科だからわからない時は教えて貰える。2つ目、3つの学科のうちで1番人数が少ない。商業科は4クラスもあるのに1クラスに生徒数が40人。に対して、会計科は2クラスで1クラスに25人程度。ちなみに情報処理科は2クラスでクラスに30人ちょっといるらしい。元からあんまり友達とか作りたいと思っていなかったので、静かな会計科が私にはピッタリだ。そして、3つ目。男子がほとんどいない事。ここが1番私が惹かれた理由でもある。姉のクラスにも男子が10人もいないらしい。女子高でもないのに、ほとんど女子高みたいな感じだという。私はそれを聞いて入学を決めた。私は本当に最低な人間なのかもしれない。
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