私訳源氏物語

高橋悠

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桐壺(光源氏誕生から12歳まで)

帝のご寵愛を独占する一人の更衣

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 あれはどの帝の御時だったでしょうか。
 
 宮中には、身分が高い者から低い者まで、沢山の者が帝に仕えていた。そのなかので、それほど高い家柄の出身ではない桐壺という女が、他の身分の高い女性たちを差し置いて、帝のご寵愛を独り占めなさっていた。宮中に仕え始めた頃から、私こそは帝のご寵愛を受けるにふさわしいと思っていた方々は、このご寵愛を独り占めする桐壺の事を「目に余る」と蔑み、憎しみなさった。また、桐壺と同じほどの身分、それ以下の身分の者たちともなれば、いよいよ心に余裕が無い。
 本来、宮中に仕える女性たちをまんべんなく寵愛すべき帝であるが、気になさらず朝も夕方も桐壺を呼び、その寝室に行き来する桐壺は、他の女たちの燃え上がる嫉妬心や恨みつらみを一身に受けることとなった。その周りの負の気持ちが積もりに積もったのであろうか、桐壺はとうとう病気がちになり、だんだん心細い様子になっていき、宮を下って実家に戻り、臥せることが多くなった。
 すると帝は桐壺に会えない分、そんな彼女を不憫に思い、ますます執着するようになっていった。もう、周囲の人達の非難も帝の耳には届かず、ご寵愛はエスカレートするばかり。上達部や殿上人といった、帝を補佐をする高官たちも見ていられないほどの寵愛ぶりで、唐国の色好みがもとで内乱沙汰になった楊貴妃の例までだして、この事態を嘆き合っている。桐壺の更衣にとっては、いたたまれない思いを抱く日々であった。しかし、それでも畏れ多い帝のご愛玩をまたとないことと心の拠り所として宮仕えをしていらっしゃる。
 この桐壺の父親は大納言であったがすでに亡くなっている。母親である北の方は、由緒ある名家出身で教養深い人であった。だからこそ自分の娘である桐壺が、他の両親の揃っている妃たちに引けを取らないよう気配りしてきた。しかし、宮中であらたまった儀式のあるときなどは、やはり後ろ盾もなく、心細げな様子でいらっしゃった。

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