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以心伝心 その肆

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 新田の言葉で、土方も急いで玄関に来た。
「新島。獅子倉って奴は誰なんだ?」
「くわしい話しはあとでするってことにしよう。ざっくり言うと、新田は獅子倉という人物とテレパシーでつながっている。すぐに獅子倉を助けに行こう!」
「テレパシー? 何言ってんだよ!」
 三島と高田は新島の家で新田を看る係りとなり、新島と土方はまだ学校にいるはずである獅子倉を探しに走った。
 正門に到着すると、土方は生徒のように振る舞いながら侵入をした。その横に新島がいることで怪しまれる心配はないだろう。
「その獅子倉とか言う奴は何部だ?」
「吹奏楽部だったな」
「よし。音楽室に行ってみようか」
「音楽室って、七不思議の六番目のだろ? シューベルトの目が動いた奴だ」
「当然だ。もう七不思議の六番目は起こらないし、警戒はされていないはずだぞ。だから、私が言っても大丈夫なはずだ、」
「それもそうか」
 二人は音楽室まで走ったが、人っ子一人見えない。仕方がないから、隣りの音楽準備室、その隣りの家庭科室を順々に見回って行った。
「いないな」
「いや」土方は階段の上を見た。「いるはずだ。......屋上に行くぞ!」
 屋上につながる扉を思い切り開いた。しかし、人影はなかった。
「B棟にいないということは、A棟か?」
「先輩。ものすごい勢いで扉を開けるな。ぶっ壊れるぞ」
「そうだな。A棟行くぞ」
「いや、A棟は教職員がたくさんいるぞ! バレるぞ!」
「危険な橋を渡ってこその文芸部だ」
 土方が階段を駆け下りて連絡通路からA棟に向かって走り出した。新島も土方を追うように、階段の手すりに足裏をつけて、一気に一階まで降りた。手すりは木製で、摩擦熱により一部が黒くなっていたがお構いなしに連絡通路を走り抜けた。
 A棟の階段の上の方から足音がした。どんどん小さくなっているから、おそらく土方だろう。新島はため息をもらして、階段を走り上がる。五階に着くと、音楽教材室を目指して小走りになる。目前に土方の姿を見つけた。
「先輩!」
「新島、遅いぞ」
 土方が音楽教材室に入っていった。新島も急いで中に入った。音楽教材室の奥に、人影があった。土方は歯を食いしばって歩み寄った。そこには、二人の予想通り人が倒れていた。
「新島。この人が獅子倉か?」
 新島は顔を覗き込んだ。「この人が、獅子倉だ!」
「よし。まずは運びだそう」
 獅子倉の下半身には、音楽教材室に並べられた棚のひとつが重なっていて倒れていた。おそらく、棚が倒れてきて、その拍子に獅子倉は下敷きとなってしまったのだろう。
 新島は蹴り飛ばして棚を退かした。土方は丁寧に獅子倉を持ちあげて、廊下に出した。
「先輩、獅子倉に怪我はあるか?」
「......大丈夫だ。怪我はない」
 やがて、獅子倉は目を覚ました。
「あれ?」
「大丈夫ですか? 文芸部部長の新島です」
「あ、新島さん」
「保健室に運びましょうか?」
「いえ、このまま帰ります」
 土方は腕を組んだ。「獅子倉さん? だっけ?」
「はい、そうです」
「今日の烏合の衆の会議に出てくれないか?」
 新島と土方は獅子倉を支えながら、正門まで歩いた。だが、少し疲れたようで、十分程度休憩した。獅子倉も自分で歩けるくらいには回復して、なんとか新島の家まで戻ってきた。
「新田ちゃん......」
「大丈夫? 獅子倉ちゃん」
「うん」
 高田はなぜ獅子倉を連れてきたのか、新島に尋ねた。
「いや、連れて行こうと言ったのは先輩なんだよ。だから、俺はなんで獅子倉を連れてきたのかわからない」
「今日は獅子倉を含めて六人で会議をするのか?」
「俺に聞くな」
 土方は全員をリビングの床に座らせると、口を開いた。
「まず、これまでの活動を報告してもらおう」
「高田! 説明しろ」
「りょーかい!」高田は手帳をペラペラとめくった。
 高田の細かすぎる説明により、土方は火の玉の件とテレパシーの件をよく理解した。
「なるほど。それでさっき新島は新田が頭を抱えた時にテレパシーが云々と言っていたんだな」
「そういうことだ」
「テレパシーの有無はちゃんと検査出来ているのか?」
「まだだ。というか、精密検査は出来ないだろ?」
「確かに、脳波を調べないことには精密検査とは言わないだろうな」
 新島は机の上に置いていたスマートフォンを取り、操作した。「調べてはみたが、やっぱりテレパシーの具体的な話しはわからなかったよ。ただ、俺のはっきりとしたことを言いたい。犯人は──」
「新島! お前まさか、あのことを言うんじゃないだろうな!」
「そのまさかだ。犯人は、新田だと考えている」
 その瞬間、部屋の空気は気まずいものとなった。

 次の日、朝早くから全校集会が体育館で行われた。すると、校長が転入生を紹介するとか何とか言って、見慣れない人物をステージに上げた。マイクを渡されると、そいつは名乗った。
「神奈川から引っ越してきた、新島真琴です」
 その人物は紛れもなく、新島の弟と呼べるほど顔がそっくりだった。義父・甲斐次はすでに、真琴を養子にしたようだった。
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