4 / 245
第一章『初陣へ』
伊達政宗、元服するのは伊達じゃない その壱
しおりを挟む
一年後の天正5(1577)年11月9日。俺は元服の日を楽しみにしながら、城内を散歩がてら周囲を観察した。水堀が綺麗で見とれていると、水で濡れた人物が通ったのではないかと思われる道があった。注意深く眺めると、途中で途切れてしまっていた。
「いったいあの滴の落ちたような跡はなんなのだ?」
俺は爪を噛んで考えを巡らせた。しかし、考える暇はまったくなかった。俺・政宗の守役である片倉小十郎景綱が来たのだ。彼は俺が右目を斬った際に手厚く看病してくれた人物だ。もとい、俺の守役でもある。
ちょうど俺が右目を斬るちょっと前に19歳で伊達家に小姓として入った。小十郎は信頼出来る者だし、歴史をなぞるためにも側近として活躍してもらう予定だ。
「若様。どうかしたのですか?」
「水堀から誰かが侵入したかもしれない跡があった」
「それは気のせいですよ。それよりも、お屋形様が呼んでおりました」
「父上がか?」
「さようでございます」
「よし。行ってみよう」
俺は小十郎と一緒に輝宗の元に向かった。何の用事なのか予想しながら歩いたが、結論が出る前に到着してしまった。
「梵天丸」
「何でしょう、父上」
「野望を聞かせてくれ。梵天丸の野望だ」
野望。それは天下統一しかない。だが、もしこの質問は輝宗が俺の資質を確かめるものだとしたら、もう少し慎重にいかなくてはならない。
輝宗が望むであろう答え。それはなんであろうか。奥州統一とでも言うか?
「それはもちろん、この天下を統一するのです!」
俺より先に小十郎が言いやがった。仕方ない。天下統一に合わせるしかないようだ。
「梵天丸はこの世を統一しようと考えております」
「それはどのように?」
「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を討ち滅ぼすのです。例えば、忍者を使って敵の城内を撹乱させて落城させるんです。足軽もありったけ用意し、長柄槍を装備させて振り回させればいいでしょう。毒も良いのではないですか? 甲賀忍者は唐ハンミョウやフグの肝を粉末にして棒火矢というロケットに入れて敵陣に打ち込んでいます。この毒薬鉄砲を使えば、敵陣営の撹乱にも適しているはずですよ。唐ハンミョウの乾燥粉末はかなりの量を摂取しないと死にませんから、殺傷能力に疑いはありますが......確実に撹乱させることが出来ると保証します」
まあ、伊達政宗が創設した忍者組織『黒脛巾組』は武力行為はしないらしいけどね。
「うむ」輝宗は下を向いて少し考えた。「成長したではないか、梵天丸。野望だけでなく、その野望を実現させるための過程も意識しているな。満点だ」
どうやら輝宗の望んでいた答えが言えたようだな。これも全ては小十郎のお陰と言って差し支えないだろう。
次の日、11月10日。もうすぐ俺が元服だというときである。父・輝宗が食膳を前に白飯を口にかっこんで味噌汁をすすった。すると、急に輝宗が苦しみだした。喉の部分を手で押さえている。家臣が集まってくる。ギャーギャー大騒ぎの状態になった。
俺も驚いて唖然とした。無理もない。伊達梵天丸元服の五日前に輝宗が苦しむという歴史はなかったはずだ。つまり、俺が転生したから歴史が変わったということだな。
状況からすると、食膳に毒を盛られた可能性が高い。すると、毒味役は何をしていたのか?
まったく、甚だ馬鹿な毒味役だな、と感じた。
え? なんで実の父親が毒でやられているのにそんなに冷静かって? 輝宗が実父だという実感はないし、あの腫れた感じからすると毒物とは『唐ハンミョウ』だろう。そして、毒を盛ったのは誰か。忍者だとすれば毒殺に唐ハンミョウは使わない。つまり、忍者ではないド素人の馬鹿野郎の仕業だ。唐ハンミョウは猛毒だが皮膚が腫れるから毒殺だとバレやすい。トリカブトなんかは簡単でお手頃だが、ポピュラー過ぎる。ある程度の知識はあったが唐ハンミョウを使ってしくじるほどの知識しかない人物が犯人だ。
昨日の水堀の近くにあった跡からすると、犯人は外部の人間の可能性が高い。追いかけるのは不可能だ。
だが待てよ、水堀は泳いで抜けられるほど甘くない(江戸城みたいな例外を除けば、だけど......)。だが、滴の落ちたような跡はあった。もしかすると、忍者の可能性もあるのか?
実は忍者の水蜘蛛は靴のようになっているのではない。今で言う浮き輪に近い物だ。直径60センチ、厚さが5センチ、真ん中の穴を直径40センチにしたとする。それを両足に履いて水に浮ける体重は15キログラム。だが、浮き輪のように使えば大人でも浮ける浮力を持つ。つまり、水蜘蛛は浮き輪だ。
何もないとおそらく泳げないであろう水堀。しかし、忍者なら水蜘蛛で泳げるし水の跡が残っていたのも納得はいく。でも、唐ハンミョウを忍者が暗殺に使ったとは思えない。腫れてすぐに毒殺とバレる危険性がある。
やばい! まずい! 犯人の解釈の仕方が多数ある。まったく推理にならない! 毒味役が犯人の可能性もあるし、ていうか毒味役が毒に気づかないのも怪しいな。食えよ! 飯を食え!
──ひとまず、輝宗の元に駆け寄った。輝宗はもうすでに顔が腫れだしているようだ。
「大丈夫ですか! 父上!」
「ぼ、梵天丸......」
「父上! 父上!」
「いったいあの滴の落ちたような跡はなんなのだ?」
俺は爪を噛んで考えを巡らせた。しかし、考える暇はまったくなかった。俺・政宗の守役である片倉小十郎景綱が来たのだ。彼は俺が右目を斬った際に手厚く看病してくれた人物だ。もとい、俺の守役でもある。
ちょうど俺が右目を斬るちょっと前に19歳で伊達家に小姓として入った。小十郎は信頼出来る者だし、歴史をなぞるためにも側近として活躍してもらう予定だ。
「若様。どうかしたのですか?」
「水堀から誰かが侵入したかもしれない跡があった」
「それは気のせいですよ。それよりも、お屋形様が呼んでおりました」
「父上がか?」
「さようでございます」
「よし。行ってみよう」
俺は小十郎と一緒に輝宗の元に向かった。何の用事なのか予想しながら歩いたが、結論が出る前に到着してしまった。
「梵天丸」
「何でしょう、父上」
「野望を聞かせてくれ。梵天丸の野望だ」
野望。それは天下統一しかない。だが、もしこの質問は輝宗が俺の資質を確かめるものだとしたら、もう少し慎重にいかなくてはならない。
輝宗が望むであろう答え。それはなんであろうか。奥州統一とでも言うか?
「それはもちろん、この天下を統一するのです!」
俺より先に小十郎が言いやがった。仕方ない。天下統一に合わせるしかないようだ。
「梵天丸はこの世を統一しようと考えております」
「それはどのように?」
「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を討ち滅ぼすのです。例えば、忍者を使って敵の城内を撹乱させて落城させるんです。足軽もありったけ用意し、長柄槍を装備させて振り回させればいいでしょう。毒も良いのではないですか? 甲賀忍者は唐ハンミョウやフグの肝を粉末にして棒火矢というロケットに入れて敵陣に打ち込んでいます。この毒薬鉄砲を使えば、敵陣営の撹乱にも適しているはずですよ。唐ハンミョウの乾燥粉末はかなりの量を摂取しないと死にませんから、殺傷能力に疑いはありますが......確実に撹乱させることが出来ると保証します」
まあ、伊達政宗が創設した忍者組織『黒脛巾組』は武力行為はしないらしいけどね。
「うむ」輝宗は下を向いて少し考えた。「成長したではないか、梵天丸。野望だけでなく、その野望を実現させるための過程も意識しているな。満点だ」
どうやら輝宗の望んでいた答えが言えたようだな。これも全ては小十郎のお陰と言って差し支えないだろう。
次の日、11月10日。もうすぐ俺が元服だというときである。父・輝宗が食膳を前に白飯を口にかっこんで味噌汁をすすった。すると、急に輝宗が苦しみだした。喉の部分を手で押さえている。家臣が集まってくる。ギャーギャー大騒ぎの状態になった。
俺も驚いて唖然とした。無理もない。伊達梵天丸元服の五日前に輝宗が苦しむという歴史はなかったはずだ。つまり、俺が転生したから歴史が変わったということだな。
状況からすると、食膳に毒を盛られた可能性が高い。すると、毒味役は何をしていたのか?
まったく、甚だ馬鹿な毒味役だな、と感じた。
え? なんで実の父親が毒でやられているのにそんなに冷静かって? 輝宗が実父だという実感はないし、あの腫れた感じからすると毒物とは『唐ハンミョウ』だろう。そして、毒を盛ったのは誰か。忍者だとすれば毒殺に唐ハンミョウは使わない。つまり、忍者ではないド素人の馬鹿野郎の仕業だ。唐ハンミョウは猛毒だが皮膚が腫れるから毒殺だとバレやすい。トリカブトなんかは簡単でお手頃だが、ポピュラー過ぎる。ある程度の知識はあったが唐ハンミョウを使ってしくじるほどの知識しかない人物が犯人だ。
昨日の水堀の近くにあった跡からすると、犯人は外部の人間の可能性が高い。追いかけるのは不可能だ。
だが待てよ、水堀は泳いで抜けられるほど甘くない(江戸城みたいな例外を除けば、だけど......)。だが、滴の落ちたような跡はあった。もしかすると、忍者の可能性もあるのか?
実は忍者の水蜘蛛は靴のようになっているのではない。今で言う浮き輪に近い物だ。直径60センチ、厚さが5センチ、真ん中の穴を直径40センチにしたとする。それを両足に履いて水に浮ける体重は15キログラム。だが、浮き輪のように使えば大人でも浮ける浮力を持つ。つまり、水蜘蛛は浮き輪だ。
何もないとおそらく泳げないであろう水堀。しかし、忍者なら水蜘蛛で泳げるし水の跡が残っていたのも納得はいく。でも、唐ハンミョウを忍者が暗殺に使ったとは思えない。腫れてすぐに毒殺とバレる危険性がある。
やばい! まずい! 犯人の解釈の仕方が多数ある。まったく推理にならない! 毒味役が犯人の可能性もあるし、ていうか毒味役が毒に気づかないのも怪しいな。食えよ! 飯を食え!
──ひとまず、輝宗の元に駆け寄った。輝宗はもうすでに顔が腫れだしているようだ。
「大丈夫ですか! 父上!」
「ぼ、梵天丸......」
「父上! 父上!」
11
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
ファンタジー
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる