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第三章『家督相続』

伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その壱

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 陽が昇っている内から寝て、早朝に目覚めた。最近では、自分はニートなのではないかと錯覚してしまうくらいだ。それはさておき、俺は夢を見た。その夢の内容は、本能寺の変から織田信長を救うというものだ。これは神からの指令かもしれない。
 何はともあれ、昨日から予定していた信長を救出するか否かの会議を始めるためには小十郎と景頼と愛姫の三人が必要だ。今起きてる奴は小十郎くらいだ。早起きが得意なのは四人の中では小十郎だけだからな。
 布団を畳んで部屋の隅まで蹴り飛ばし、廊下に足を踏み出した。
「小十郎!」
「若様。どうされました?」
 俺は声を潜めた。「会議をしたい。俺の部屋に来い」
「承知いたしました。それでは、失礼します」
 あとは部屋で待っていれば小十郎が来るだろう。
 十数分後、小十郎は部屋にやって来た。かなり眠そうにあくびをしてから、床に座る。
「お前、眠いのか?」
「ちょっとだけだが、眠い。昨日は徹夜だった」
「よくこんなに早く起きれたな」
「僕は前世では早起きは苦手だった。多分、片倉小十郎景綱の体が早起きに適していたんだと思う」
「ってことは、伊達政宗の体は早起きに不向きというわけか」
「そういうことなんじゃないか?」
「そのような話しをするために呼んだのではないんだよ」俺は声を荒げた。「織田信長を救うか否か、だ」
「織田信長? 本能寺の変ってこと?」
「イチゴ(15)パンツ(82)の織田信長、で覚えろ。本能寺の変は1582年だ。ついでに言うと6月2日の早朝」
「今は1581年だな」
「そう。もうすぐ本能寺の変だ。織田信長を救うか否かを話し合いたいと思ったんだ」
「救うのを推奨するよ」
「何でだ?」
「本能寺の変で死ななかったら、織田信長は天下統一をして海外にまで手を伸ばすと聞く。その織田信長に恩を売れるんだぞ。助けるしかないだろ」
「でも、織田信長を助けたら俺の天下統一が出来なくなる可能性もあるわけだ。そこが問題なんだよ」
「んじゃ、見捨てるんだ」
「理由は?」
「伊達政宗の天下統一を実現したいから」
「織田信長を助けて、良い方に転んだら容易く天下統一出来るかもしれないだろ」
「面倒だな」
「織田信長を救うか救わないかは、今日中に決定したい」
「僕は頭脳面でも役に立てそうにないし、早く決定したいなら景頼をたたき起こすといい」
「いや、ほら。景頼って怒ると怖いし......」
「景頼は名坂の一介の家臣じゃないか」
「でもなぁ」
 それからは会議内容とは関係ない話しが続いた。無駄話と言っても差し支えない会話を交えること一時間、部屋に景頼が入ってきた。
「お、ちょうどいい。景頼も会話に混ざれ」
「会話、というのは?」
「神辺と、戦国時代と未来を比べて、戦国時代の利点を話し合ってたんだ」
「おい、名坂。僕達、本能寺の変の話しをしてたんじゃ?」
「あ、そうか」
 景頼に聞こえない大きさの声で、小十郎と話しを合わせた。
「そうなんだ。今、神辺とは本能寺の変について語ってたんだ」
「本能寺の変、ですか? どのような内容で?」
「織田信長を救うべきか救わぬべきか、の議論だ」
「私もその会議に参加します」
 こうして三人が集まり、会議はその後も進行した。
「若様」
「何だ、言ってみろ、景頼」
「救うべきかと思います。若様は織田信長に恩を作ることも出来ますし、いざとなれば若様が織田信長を処分して天下統一をすることも可能というものです」
「確かに、俺も賛成と言えば賛成だ」
「それでは、少なからず反対もあると?」
「織田信長を救ったら、力を持ちすぎて俺が奴を裏切ることが出来なくなるかもしれんだろ?」
「それもそうですね......」
「が、景頼の言葉で決めた。助けよう、織田信長を」
 議論していた内容がまとまったところで、愛姫も合流した。これからする会議は、どうやって織田信長を助けるか。
「いいか、お前ら。織田信長に反旗を翻(ひるがえ)すのは明智光秀だ。でも、反旗を翻した理由は未だにはっきりとはわかっていない。怨恨(えんこん)と言うバカもいるが、俺は黒幕説を支持する」
「黒幕説?」
「明智光秀に、織田信長を殺すように命令したりした奴がいたってことだ」
「じゃあ、黒幕は誰なんだ?」
「豊臣秀吉。史実では俺が部下になる野郎だ」
「なら、豊臣秀吉をぶっ殺せばいいんだな?」
「そんな簡単な話しじゃない。それに、本能寺の変を止めることも出来ない。本能寺の変を止めたら、豊臣秀吉に睨まれるだろ? そしたら、戦国時代では生きていけない」
「だったらどうやって織田信長を助けるんだ?」
「本能寺の変が起こる前に本能寺に入り、織田信長を救い出す。これに限る」
「でも、ぶっつけ本番で成功可能か?」
「ん? 誰がぶっつけ本番って言ったんだ? 来週、安土城に忍び込むんだ。それまでに、忍者に忍び込む方法をいろいろと伝授させてもらおうか?」
 俺の予想外の返しに、小十郎、景頼、愛姫でさえも絶句するしかなかった。俺は、そんな三人を目の端に、安土城の地図を眺めた。侵入ルートは念入りに考えないといけない。
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