隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也

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第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸陸

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 柏木が裏切る可能性は100%に近かった。彼女は両親を生き返らせるために錬金術を学んでいて、魔女教の生命の魔女エヴァは不死身。もしエヴァが死者蘇生の方法を教えると柏木に言えば、柏木は喜んでこちらを裏切ると誰もが思っていた。
 だから今回の事件でさほど驚いている者はいなかった。柏木が藤堂に硫酸をぶっ掛けた理由はわからないが、その点に関しては仁和が結論を出していた。
 数日に渡り柏木の錬金を見ていた藤堂によって、錬金術が政宗側に伝わることをおそれての犯行だと仁和は推測している。ただ数日のうちに作れた薬品の濃度など高が知れているので、結果として藤堂の体を水で洗い流すだけで硫酸は完全に落ちた。
 藤堂の体から硫酸が洗い流されると、仁和は灰吹金などを保管していた場所へ向かう。そしてそれらが無事だったことに安堵した。しかし仁和ははたと気付き、保管されていた灰吹金──もとい金鍍金メッキが塗られているだけの丸い石──を掴んで床に投げ捨てた。
 柏木が裏切ることは目に見えていたから、灰吹金などの管理は厳重にしているつもりだった。だが、まさか金鍍金を用いて灰吹金の偽物を用意しているとは思わなかった。
「柏木殿が灰吹金だけを偽物とすり替えて盗み出した理由は何でしょうか。......ああ、そういえば錬金術では不老不死が金と関係しているなんて言われていましたね」
 金は長い年月を経ても変化しない性質から、不老不死との関連性が錬金術師によって研究されていた。だから柏木は金だけを盗み出したのだ、と仁和は考える。あながち間違ってはいなかった。
 しかし柏木はどうやって丸い石に金鍍金をしたのか。仁和はうなり声を上げながら悩み、アマルガムのことを思い出した。
 アマルガムとは水銀と他の金属の合金のことだ。金と水銀の合金を''金アマルガム''と言い、金より水銀の方が融点が低いので、金アマルガムを塗った物を火にかざすと水銀だけが蒸発して金だけが表面に残る。
 このような鍍金の方法は古くから行われていた。では仮に柏木はその方法で鍍金をしたとして、水銀はどこで調達したのか。簡単なことだ。辰砂しんしゃである。
 辰砂とは天然でも産出されている赤い石で、別名は''賢者の石''。水銀と硫黄の化合物である辰砂は熱すると水銀を得ることが可能で、水銀を用いて金鍍金が出来ることから辰砂は錬金術師に注目された。だからこそ賢者の石とも呼ばれている。
 くわしい者なら山で入手可能な辰砂から水銀を得た柏木が、金鍍金で灰吹金の偽物を作り、本物とすり替えられた。多分、柏木も灰吹金が厳重に保管されていることを知ったからこそ、偽物を作ってすり替えたのだろう。完全に仁和はしてやられた。
「これで資金調達の計画はご破算ですか」
 無論、愚者の金とも呼ばれる黄鉄鉱などは盗まれてはいないが、見る者が見れば勘づかれてしまう。仁和は深くため息を吐き出し、藤堂の元へ戻った。彼はすでに心を落ち着けていて、戻ってくる仁和に問いかける。
「仁和様、灰吹金はどうでしたか?」
「駄目でした。偽物とすり替えられていました」
「油断していましたね。まさか偽物を作っているとは。一刻も早く主様を見つけて、魔女教の襲撃に備えを──」
 灰吹金が盗まれていても藤堂はあまり驚かない。そんなのは彼にとって予想の範囲内で、藤堂が危惧しているのは敵襲であった。そのことを言い終える前に、外から凄まじい爆音が聞こえてくる。もう来たのか、と皆表情が引き締めた。
「敵襲!」仁和は全力で叫ぶ。「おそらく魔女教の襲撃と思われます! 戦える者は鎧を纏って死地へ! 戦えぬ者は後方支援! 戦いの火蓋はもう落とされています!」
「「行くぞおおおぉぉぉぉぉ!?」」
 仁和は当然非戦闘要員だ。鎧を纏うものの、武器は持たず後方支援に回る。寺は寺で襲撃に備えてはいるものの、攻撃を仕掛ける気はないようだ。
 東野と忠義はいつものように後方で弓を構えている。前方ではジョセフやクロークなどの人外が並び、人外に準ずる強さを誇るホームズを筆頭にした者達はその横を陣取っていた。
 寺から一歩出れば砂埃が舞っていて視界不良なのだが、これは魔女教による爆撃のせいだ。爆撃と言っても、魔女教からしてみたら挨拶のために放ったに過ぎないのだが。
 砂埃や煙の奥から話し声やら足音が聞こえる。それが次第に大きくなり、ある集団が姿を現し始めた。その集団を引き連れ、先頭に立っているのは生命の魔女エヴァ。彼女を視界に捉え、九頭竜は驚きを禁じ得ない。
「おや、お出迎えのようだ」エヴァは立ち止まり、集団を代表して挨拶をする。「諸君、初めましてかな。我々は魔女教信徒! さあ、戦争を始めよう!」
 否、本人には挨拶のつもりしかない開戦宣言をエヴァは始めたのである。これには隣りに立つセシリアがエヴァに訂正するように耳打ちし、咳払いをしてから挨拶をやり直した。
「コホンッ! 失礼した。私は魔女教断罪執行担当、魔女格のエヴァだ。早速だが、殺し合おうか」
「おいエヴァ、それでは説明になっていないだろ。もう良い、我が説明をする」
 さすがにしびれを切らしたようだ。
「ではセシリアに任せよう」
「引き受けた。──さてこちらの話しはまとまったので、まずは説明をさせてもらおう。我々は新興宗教・魔女教。我は魔女教統括担当、魔女格のセシリアだ。
 そちらに元罪人格のエリアスと剣崎、それとエヴァの飼っていた犬っころがいるはずだが?」
 セシリアに自分の名前が呼ばれたので、エリアスは剣崎とともに前に出る。
「お久しぶりですね、魅惑の魔女セシリア。私や剣崎君に何かご用で?」
「この裏切り者めがっ! 我は貴様が気に入らんが、教祖様はエリアスに戻ってきてもらいたいそうだ。どうする?」
「私が魔女教に戻って欲しくば教祖が頭を下げに来い、と言っていたとお伝えください」
「そうか、ならば蹂躙するまでだ。柏木とかいう奴からそっちの情報は大分手に入れているからな。どうやら当主不在のようだな」
「お屋形様には何か事情があるのでしょう。新参者の私には推し量れないお方ですから」
「まさか政宗という若造をエリアスがそこまで買うとは。過大評価じゃないか、まったく」
 実際にエリアスは政宗のことを買いかぶり過ぎている節があるが、この発言で政宗を慕っていたエリアスや仁和などの配下がブチ切れた。
 この発言が政宗陣営を開戦へと駆り立てることになる。当然、当の本人である政宗は知るよしもなかった。
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