18 / 18
XX
しおりを挟む
閉ざされた扉をほんの少しの間だけ見つめて、青年は歩みを進めた。
夜も深い教会の廊下は、とても静かだ。
自室に戻ると、同居人の燃えるような髪をもつ青年は、もう夢の世界に旅立っていた。
不良っぽいなりをしているが、なんだかんだ規則は守る男なのだ。
青年は小さく笑って、自分のベッドに腰かける。
窓の外には、明るい月が登っていた。
「……ラーレの、髪みたいだな」
脳裏によぎるのは、先ほど別れた少女の名前。
明るい金色の髪に、鮮やかな黄色の瞳をもつ、そのひと。
彼女を思い浮かべると、青年の顔も自然とほころんだ。
鞄にこっそりと忍ばせていた袋を取り出し、月明かりに照らす。
それは、黄色いチューリップを象った髪飾り。
今日の買い物で、彼女が可愛いとはしゃいでいたそれ。
愛らしいそれは、笑顔の似合うあの子にぴったりで。
「──愛してる」
明日、誕生日を迎えた彼女に伝える言葉を、そっと音に乗せる。
「愛してる、ラーレ。ラーレのことが、好きだよ」
紡がれる言葉は、ひそやかで、どこまでも甘く、空気に溶ける。
「君のことが、誰よりも好きなんだ。俺と、一緒に生きてくれないか」
──愛してる。
ああ、これを聞いたあの子は、どんな顔をするだろう。
きっと顔を真っ赤にして、けれど、自分の大好きなあの笑顔を浮かべてくれるだろう。
──早く、明日になればいい。
そんなことを願い、髪飾りに小さく口づけを落とす。
それから、ベッド脇のチェストに、大事に大事にしまい込んだ。
落とさないように、失くさないように。
どこにも行っていまわないように。
そして、ベッドの中へもぐりこむ。
充実感のせいか、あっという間に瞼は降りてきて。
──意識が落ちる、その瞬間。
どこかで、鐘の音が聞こえた気がした。
それは、髪飾りだけが聞いていた、訪れるはずだった幸福の言葉。
夜も深い教会の廊下は、とても静かだ。
自室に戻ると、同居人の燃えるような髪をもつ青年は、もう夢の世界に旅立っていた。
不良っぽいなりをしているが、なんだかんだ規則は守る男なのだ。
青年は小さく笑って、自分のベッドに腰かける。
窓の外には、明るい月が登っていた。
「……ラーレの、髪みたいだな」
脳裏によぎるのは、先ほど別れた少女の名前。
明るい金色の髪に、鮮やかな黄色の瞳をもつ、そのひと。
彼女を思い浮かべると、青年の顔も自然とほころんだ。
鞄にこっそりと忍ばせていた袋を取り出し、月明かりに照らす。
それは、黄色いチューリップを象った髪飾り。
今日の買い物で、彼女が可愛いとはしゃいでいたそれ。
愛らしいそれは、笑顔の似合うあの子にぴったりで。
「──愛してる」
明日、誕生日を迎えた彼女に伝える言葉を、そっと音に乗せる。
「愛してる、ラーレ。ラーレのことが、好きだよ」
紡がれる言葉は、ひそやかで、どこまでも甘く、空気に溶ける。
「君のことが、誰よりも好きなんだ。俺と、一緒に生きてくれないか」
──愛してる。
ああ、これを聞いたあの子は、どんな顔をするだろう。
きっと顔を真っ赤にして、けれど、自分の大好きなあの笑顔を浮かべてくれるだろう。
──早く、明日になればいい。
そんなことを願い、髪飾りに小さく口づけを落とす。
それから、ベッド脇のチェストに、大事に大事にしまい込んだ。
落とさないように、失くさないように。
どこにも行っていまわないように。
そして、ベッドの中へもぐりこむ。
充実感のせいか、あっという間に瞼は降りてきて。
──意識が落ちる、その瞬間。
どこかで、鐘の音が聞こえた気がした。
それは、髪飾りだけが聞いていた、訪れるはずだった幸福の言葉。
131
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
返信が遅れてしまい申し訳ございません……!💦
感想ありがとうございます!頑張って続編書いている最中ですので、首を長〜〜〜くしてお待ち頂けると幸いです……(笑)
読んでくださり、本当にありがとうございました!
感想ありがとうございます!
レリアは転生者ではなく、あの世界で「ヒロイン」として生を受けた真っ当な女の子です。誰も悪くないんですよね……。
呪いは言い得て妙ですね!続編でその呪いが解けるように頑張ります。
読んでくださり、本当にありがとうございました!
お見事!
素晴らしい展開でした👍
が、私はワンコ好き❤️
ワンコ達も宜しく、です。
感想ありがとうございます。
どの子もたくさん悩んで考えて作った子達なので、そう言って頂けて本当に嬉しいです!
読んでくださり、本当にありがとうございました!