塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白

文字の大きさ
16 / 80
第二部

4

しおりを挟む
「僕は鳥の民の血が強く出たから、身体は軽いしいくら鍛えても筋肉はつかない。王子の義務として剣術や格闘技を習ったけれど、稽古のたびに体格のいい異母弟たちにボコボコにされてたよ。幸い治癒魔法が使えたから助かったけど、このままだと稽古を口実に殺されかねないとは思っていた。周りの者たちもにやにやと笑いながら見ていて止めもしない。弱い者が強い者と戦って負けるのは当然のことだから。この国の王宮はそういうところなんだ」
 彼の異母弟たちは熊の亜人だという。年下の弟にすら勝てないアレクは侮られてきたのだろう。
「……そんな。酷い」
 皆が同じような体躯に生まれつく訳ではないし、得意なことは人によって違う。
 なのにダイモスでは力がない者を認めないのだろうか。
 どう考えても膂力で劣る彼が熊の亜人と決闘させられるとか公開処刑じゃないか。
「僕が逃げ続けていたら弟が標的にされかねない。弟は幸い父に似ていて僕より強くなるだろうけど、まだ子供だ。だからそれまで僕が戦うしかない。たとえ僕が負けても次の王位継承争いには弟が一番有利な立場になれるからね」
 王位継承決定の儀式で異議を唱えられる機会は一生で一度だけというしきたりなのだそうだ。だから今回アレクなら勝てると踏んで決闘を申し出た者たちは、次代の王位継承決定には加われない。
 次の代、誰が王位に就いても、次はその子のときにまた決闘が行われる。アレクの同腹の弟はそのころには大人になっているから、彼が儀式に参加したとしても決闘で潰される心配はない。
「……つまり、弟を今回の王位継承争いに参加させないために、アレクが無理にでも決闘しなくちゃいけないってこと?」
「そういうこと。ちなみに、他の決闘なら代理人を立てることもできるけど、こればかりは認められない」
 アレクはどれほどうち負かされて恥をかかされても戦うつもりだったのか。年の離れた弟のために。
 どこが非力で弱いんだ。アレクは立派だ。誰かのために戦い続けようとしていたんだ。
 わたしなど、塔の中でただ無為に日々を過ごしていた。恥ずかしいくらいだ。
 でも、アレクが酷い目に遭うのはいやだ。魔法は確かに不利かもしれないけれど……。
 わたしになにかできないだろうか。彼のために何かしたい。
 カミーユも熊の亜人の血を引いているバルバラに剣術で全く勝てなかった。
 アレクの弟たちはきっと体格も腕力も遙かに上回っているのだろう。そんな相手と戦うなんて。
「下馬評では僕は決闘で殺されるか、死ぬ目に遭うほど叩きのめされて辱めを受けるだろうと言われているよ。賭けにもならないくらいにね。自分でもそう思う。きっと無様を晒すだろう。不甲斐ない男ですまない」
「そんなことはない。アレクはわたしを約束通り助けてくれたじゃないか。そんな風に言わないでくれ」
 カミーユはこみ上げてくる感情に目頭が熱くなった。
 アレクはこともなげに言っているけれど、きっと辛い思いをしてきたはずだ。
 大勢の前で痛めつけられて辱めを受ける。それが悔しくないはずがない。幼い頃からそんな酷い目に遭っていれば、王都になるべくいたくないというのも理解できる。
 ……わたしには何もできないのか。何かできないのか。
「君がそうやって悲しそうな顔をしそうだから、なかなか言えなかったんだ」
 アレクはそう言ってカミーユの手を握った。
「でもね、僕は決めたんだ。もう諦めるのをやめる。君はバルバラに毎日のように負かされてもへこたれなかった。塔の中で絶望して気力を失ったりもしていなかった。そんな君を見ていたら、負かされるからと逃げ回っていられない。君をいきなり未亡人になんてさせないからね。魔法は不利なのは百も承知だけど、徹底的に本気で戦ってみせるよ」
 魔法は不利。でも何か工夫すれば立ち向かえるかもしれない。
 カミーユは魔法には詳しくない。魔法を生業にしている人がいるがよほどの才覚がないと魔法使いにはなれないと聞いていた。
 だったらせめて魔法のことをもっと知らなくては。
「アレク……わたしも手伝わせて。アレク一人を矢面に立たせるわけにはいかない」
「カミーユ……ありがとう」
 アレクが切なげに顔を一瞬歪めたように見えた。
 アレクには大切な家族がいる。守りたいものがある。ならそれを手伝いたい。
 ……わたしはわたしのできることをする。アレクのために。
「それで、その王太子を決める儀式というのは、いつ行われるの?」
「二週間後だよ」
「え?」
 ……たった二週間? カミーユが言葉を詰まらせたのを見て、アレクは微笑んだ。
「大丈夫大丈夫。僕も作戦を考えてはいるからね」
 そんな大事な事情を抱えているのに、自分を塔から連れ出してくれたのだと思うと、心の底から申し訳なさでいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

触れるな危険

紀村 紀壱
BL
傭兵を引退しギルドの受付をするギィドには最近、頭を悩ます来訪者がいた。 毛皮屋という通り名の、腕の立つ若い傭兵シャルトー、彼はその通り名の通り、毛皮好きで。そして何をとち狂ったのか。 「ねえ、頭(髪)触らせてヨ」「断る。帰れ」「や~、あんたの髪、なんでこんなに短いのにチクチクしないで柔らかいの」「だから触るなってんだろうが……!」 俺様青年攻め×厳つ目なおっさん受けで、罵り愛でどつき愛なお話。 バイオレンスはありません。ゆるゆるまったり設定です。 15話にて本編(なれそめ)が完結。 その後の話やら番外編やらをたまにのんびり公開中。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

軍将の踊り子と赤い龍の伝説

糸文かろ
BL
【ひょうきん軍将×ド真面目コミュ障ぎみの踊り子】 踊りをもちいて軍を守る聖舞師という職業のサニ(受)。赴任された戦場に行くとそこの軍将は、前日宿屋でサニをナンパしたリエイム(攻)という男だった。 一見ひょうきんで何も考えていなさそうな割に的確な戦法で軍を勝利に導くリエイム。最初こそいい印象を抱かなかったものの、行動をともにするうちサニは徐々にリエイムに惹かれていく。真摯な姿勢に感銘を受けたサニはリエイム軍との専属契約を交わすが、実は彼にはひとつの秘密があった。 第11回BL小説大賞エントリー中です。 この生き物は感想をもらえるととっても嬉がります! 「きょええええ!ありがたや〜っ!」という鳴き声を出します! ************** 公募を中心に活動しているのですが、今回アルファさんにて挑戦参加しております。 弱小・公募の民がどんなランキングで終わるのか……見守っていてくださいー! 過去実績:第一回ビーボーイ創作BL大賞優秀賞、小説ディアプラスハルVol.85、小説ディアプラスハルVol.89掲載 → https://twitter.com/karoito2 → @karoito2

処理中です...