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第二部
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「バルバラ、あれは何?」
こそっと背後に問いかけるとバルバラが近づいてきた。
「おそらく宝剣『バリエンテ』、国宝の一つです」
……いくら王子でもそんなもの勝手に持ち出すなんてできるはずがない。ということは国王陛下はこのことを知っていた? きっとバルバラ妃は怒ってるんだ。陛下がレイモンドに味方したと思って。
「何か強い剣なの?」
「いえ、剣自体は普通です。持ち主がご立派だっただけで。けれど、殿下が宝剣だと気づいていれば『折っちゃったら大変だなー』くらいのことは考えるでしょう」
バルバラはそう言ってから元の場所に戻っていった。
カミーユは怒りがこみ上げてきた。
それはずるい。迂闊に大きな魔法を剣に浴びせて折ってしまったらと気にしていたら、まともな決闘にはならない。アレクは鷹揚に見えるけど目端は利く。
……手加減のことといい、余計な事を考えなければいいけれど。
カミーユがアレクの横顔を見つめていると、視線に気づいたのかこちらに嬉しそうに手を振ってきた。
いや、それどころじゃない。相手は自分に魔法攻撃からの加護をかけてるし、大事な宝剣を持ち出してるし、やりにくくなること間違いないのに。
ああもう、どうかアレクをお守りください。わたしの「祝福」ごときでは足りないかもしれないけれど……。
カミーユは盛り上がる観客の声を遮るように両手を耳にあてた。
開始の合図とともにすぐさま動いたのはレイモンドだった。少し遅れてアレクが杖を構えた。ふわりと彼の黒髪が揺らぐのを見て、自分の周りに風魔法を展開したのだとわかった。
間合いを詰められないように下がりながら、レイモンドを牽制するかのように風魔法で押し戻す。
やはり何か動きがおかしい。すでに最初の決闘で魔法で威嚇して戦意を削ぐ作戦はもう使えないからだろうか。それでも彼なら近距離でも攻撃できるはずだ。
もしかして、攻撃しても加護で無効化されると気づいている? いや、最初から攻撃魔法は使っていないように見える。
それに、何か相手に言っているような……。何か会話を交わしている?
レイモンドはアレクの言葉を意に返さず剣を振り下ろしてくる。
それを避けながらアレクが風魔法で跳ね飛ばす。というより、風をレイモンドの周りに巡らせて囲んでいるようだ。
カミーユはもどかしさを感じながらも目が離せなかった。
……これでは勝負がつかない。相手の体力切れを狙っている? けれど熊の亜人は持久力もあるはずだ。
一見レイモンドが押しているように見えるせいか、第二妃のいる席からも歓声が上がっている。
突然状況が変わったのはその時だった。
レイモンドが急に目を覆って倒れた。倒れた後も痙攣して苦しんでいる。
アレクが手を上げて審判役の男を呼んでいる。審判役がレイモンドが取り落とした剣を見てから何やら話し込んでいる。
観客たちは静まりかえって、何事かと固唾を呑んでいる。第二妃の席では悲鳴が上がっている。
……一体何があったんだ。
カミーユは心穏やかではなかったがこの場で騒ぎ立ててしまっては貴婦人として失格だ。アレクの妃として狼狽える姿を見せるわけにはいかない。
レイモンドは担架で運ばれて、審判役が手を上げた。
「レイモンド王子殿下の反則行為により、勝者はサミュエル・アレクサンダー王太子殿下となります。新しき王太子殿下に栄光あれ」
アレクは困惑したような表情だったが、王族の観覧席に向き直って一礼すると観客たちに手を振って応えていた。
反則?
カミーユが戸惑っているとグラントリーが駆け寄ってきた。
「兄上のところに行きましょう。お祝いをもうしあげませんと」
「グラントリー、その前にカミーユさんに申し上げることがあるでしょう?」
グレンダ妃がグラントリーの肩に手を置いた。グラントリーは慌てて背筋を伸ばすと一礼した。
「王太子妃殿下、このたびはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
カミーユはそう答えながら、これはアレクの望んだ展開なのかと疑問に思った。
アレクは決闘で勝ち残ることまでは考えていなかったように見えたから。彼の望んでいたのはグラントリーをこの決闘に出さないことで、自分が国王になりたいとは言っていなかった。
……それにわたしが王妃では格好がつかない。この国では強い王が求められるというのに彼らからすれば「ひ弱」な人族が伴侶では……。
その時、エドガー王がこちらに歩み寄ってくるのに気づいた。カミーユが一礼しようとすると首を小さく横に振った。
「よい。カミーユ妃よ、本日この時よりそなたが王太子妃だ。つまり、何があろうと国に帰すわけにはいかない。その覚悟でサミュエルを支えよ」
わざわざ国に帰れないなどと、こんな場で宣言するだろうか。普通、政略結婚というのはそういうものだ。
人質としてこの国に置くという意味なのか、それとも純粋に息子の妃として期待しているという意味なのか、カミーユには掴めなかった。
けれどもとより帰国するつもりがなかったので、神妙に答えた。
「陛下の御心のままに。微力ながら殿下を全力でお支え申し上げる所存にございます」
これでドミニク三世からの帰国要請には応えなくていいだろう。さすがに王太子妃となったらあれこれと干渉してこないはずだ。
……それとも叔父上はアレクがこの決闘で勝てないという予想を知っていたからアレクとの縁談を一度は受け入れようとしたのだろうか。あれこれと時間を稼いでいるうちにアレクは王子ではなくなると予想して?
どちらにしても、アレクが勝ち残ったのだから。カミーユはひとまず彼を労いたいと思った。
……そういえば、反則のことを聞いていなかった。一体何があったんだろう。
こそっと背後に問いかけるとバルバラが近づいてきた。
「おそらく宝剣『バリエンテ』、国宝の一つです」
……いくら王子でもそんなもの勝手に持ち出すなんてできるはずがない。ということは国王陛下はこのことを知っていた? きっとバルバラ妃は怒ってるんだ。陛下がレイモンドに味方したと思って。
「何か強い剣なの?」
「いえ、剣自体は普通です。持ち主がご立派だっただけで。けれど、殿下が宝剣だと気づいていれば『折っちゃったら大変だなー』くらいのことは考えるでしょう」
バルバラはそう言ってから元の場所に戻っていった。
カミーユは怒りがこみ上げてきた。
それはずるい。迂闊に大きな魔法を剣に浴びせて折ってしまったらと気にしていたら、まともな決闘にはならない。アレクは鷹揚に見えるけど目端は利く。
……手加減のことといい、余計な事を考えなければいいけれど。
カミーユがアレクの横顔を見つめていると、視線に気づいたのかこちらに嬉しそうに手を振ってきた。
いや、それどころじゃない。相手は自分に魔法攻撃からの加護をかけてるし、大事な宝剣を持ち出してるし、やりにくくなること間違いないのに。
ああもう、どうかアレクをお守りください。わたしの「祝福」ごときでは足りないかもしれないけれど……。
カミーユは盛り上がる観客の声を遮るように両手を耳にあてた。
開始の合図とともにすぐさま動いたのはレイモンドだった。少し遅れてアレクが杖を構えた。ふわりと彼の黒髪が揺らぐのを見て、自分の周りに風魔法を展開したのだとわかった。
間合いを詰められないように下がりながら、レイモンドを牽制するかのように風魔法で押し戻す。
やはり何か動きがおかしい。すでに最初の決闘で魔法で威嚇して戦意を削ぐ作戦はもう使えないからだろうか。それでも彼なら近距離でも攻撃できるはずだ。
もしかして、攻撃しても加護で無効化されると気づいている? いや、最初から攻撃魔法は使っていないように見える。
それに、何か相手に言っているような……。何か会話を交わしている?
レイモンドはアレクの言葉を意に返さず剣を振り下ろしてくる。
それを避けながらアレクが風魔法で跳ね飛ばす。というより、風をレイモンドの周りに巡らせて囲んでいるようだ。
カミーユはもどかしさを感じながらも目が離せなかった。
……これでは勝負がつかない。相手の体力切れを狙っている? けれど熊の亜人は持久力もあるはずだ。
一見レイモンドが押しているように見えるせいか、第二妃のいる席からも歓声が上がっている。
突然状況が変わったのはその時だった。
レイモンドが急に目を覆って倒れた。倒れた後も痙攣して苦しんでいる。
アレクが手を上げて審判役の男を呼んでいる。審判役がレイモンドが取り落とした剣を見てから何やら話し込んでいる。
観客たちは静まりかえって、何事かと固唾を呑んでいる。第二妃の席では悲鳴が上がっている。
……一体何があったんだ。
カミーユは心穏やかではなかったがこの場で騒ぎ立ててしまっては貴婦人として失格だ。アレクの妃として狼狽える姿を見せるわけにはいかない。
レイモンドは担架で運ばれて、審判役が手を上げた。
「レイモンド王子殿下の反則行為により、勝者はサミュエル・アレクサンダー王太子殿下となります。新しき王太子殿下に栄光あれ」
アレクは困惑したような表情だったが、王族の観覧席に向き直って一礼すると観客たちに手を振って応えていた。
反則?
カミーユが戸惑っているとグラントリーが駆け寄ってきた。
「兄上のところに行きましょう。お祝いをもうしあげませんと」
「グラントリー、その前にカミーユさんに申し上げることがあるでしょう?」
グレンダ妃がグラントリーの肩に手を置いた。グラントリーは慌てて背筋を伸ばすと一礼した。
「王太子妃殿下、このたびはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
カミーユはそう答えながら、これはアレクの望んだ展開なのかと疑問に思った。
アレクは決闘で勝ち残ることまでは考えていなかったように見えたから。彼の望んでいたのはグラントリーをこの決闘に出さないことで、自分が国王になりたいとは言っていなかった。
……それにわたしが王妃では格好がつかない。この国では強い王が求められるというのに彼らからすれば「ひ弱」な人族が伴侶では……。
その時、エドガー王がこちらに歩み寄ってくるのに気づいた。カミーユが一礼しようとすると首を小さく横に振った。
「よい。カミーユ妃よ、本日この時よりそなたが王太子妃だ。つまり、何があろうと国に帰すわけにはいかない。その覚悟でサミュエルを支えよ」
わざわざ国に帰れないなどと、こんな場で宣言するだろうか。普通、政略結婚というのはそういうものだ。
人質としてこの国に置くという意味なのか、それとも純粋に息子の妃として期待しているという意味なのか、カミーユには掴めなかった。
けれどもとより帰国するつもりがなかったので、神妙に答えた。
「陛下の御心のままに。微力ながら殿下を全力でお支え申し上げる所存にございます」
これでドミニク三世からの帰国要請には応えなくていいだろう。さすがに王太子妃となったらあれこれと干渉してこないはずだ。
……それとも叔父上はアレクがこの決闘で勝てないという予想を知っていたからアレクとの縁談を一度は受け入れようとしたのだろうか。あれこれと時間を稼いでいるうちにアレクは王子ではなくなると予想して?
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……そういえば、反則のことを聞いていなかった。一体何があったんだろう。
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