【短編】我儘王女は影の薄い婿を手放したくありません

しろねこ。

文字の大きさ
10 / 10

第10話 影が薄い=長所

しおりを挟む
「何でそんなものを持っているの?」

「キリトがおかしい事を言っていたから、探ってもらったんだよ。僕と同じくらいに影の薄い子にね。メリオラを側室になんて普通ならあり得ないと思ったから」

 ディルスがカミディオンより連れてきた従者の子ね。確かにあの子もいないのがわからない程影が薄い。

「彼女は昔から地位に固執していたから、その地位をエルマに譲るなんて、簡単には言わないはずだもの。用心深い彼女なら、形に残る契約書を作成しているはずだと考えてね。勝手知ったる自分のいた王宮だもの、どこに何を隠してあるか多少は知っているさ」

 重要なものをどこに隠しているか全て把握しているなんて、すぐにでも城を乗っ取れるのでは?。

「キリトもリッテル侯爵令嬢も詰めが甘いし、感情を露わにし過ぎだ。そんな者が国を背負って生きる覚悟を持っているのか? 三年前より退化しているね」

 ディルスはため息をついている。

「三年前は力もなく、諦めもあって言われるままだっただけど、今の僕は違うよ。国を継ぐのはキリトではない、公爵家にいる従兄弟がいいかもね。今の王家の体制は変えるべきだ。考えることを放棄してるものが多いから、血を薄めた方がいいよ」
 悪しき血筋しかないのなら、新しい風を入れるように動いた方が良さそうだ。

 カミディオン国がディルスの血筋を離したのは惜しいだろう。

 ふふ、こういう報復という事ね。

 王同士の話し合いも、どうやら終わりのようだし、そろそろお暇かしらね。

 青白い顔をしたカミディオン国王と土気色をしたキリト。

 さぁ上手く破滅して頂戴、中途半端に生き残ってディルスに縋られるのは嫌よ。





 最後に一言言ってやろうと思てキリトの前に来る。

 なんでそんな期待に満ちた目をするんだか。

 人妻に横恋慕するような男を助けようなんて、するわけがないじゃない。

「あなたの言う愛って、何なの?」

 ややキレ気味に私は言った。

「兄上よりも剣技はうまいし、人望もあるって……それがあなたを愛する理由になんてならないけど。三年も一緒にいて、私の我儘に付き合ってくれたディルスに勝てるはずないじゃない」

 本当に呆れるわ。

「勉強嫌いな私のためにどうしたら興味を持てるか一緒に考えてくれたりとか、あなた、出来ないでしょ? 離縁もしてないのに求婚する馬鹿なんだから」
 私の物言いにさすがにキリトも不機嫌な顔をする。

「ほら、そういう顔するでしょ? こんな事を言ってもディルスは私に付き合ってくれたの。寧ろ受け入れてくれたし」

「口は悪いけど、可愛いよね。今のこれは僕の為に怒ってるってすぐにわかるし、他の時も照れ隠しが多いってわかるもの。大好きだよ」

 ニコニコしているディルスにやや恥ずかしくなりながら続ける。

「それにあなたは私の表面しか見ていない。容姿なんて年とともに変わるもの、そんなものしか褒められないあなたの愛なんて即物的よ。嫁ぎたいなんて思うわけないじゃない」

 メリオラの方を見て、私はやや同情のため息もつく。

「長年婚約者として支えてくれた彼女を側室にだなんて言うのも、悪手ね。彼女にとっても私にとっても失礼極まりない言葉だし、顔を洗って出直したらどう?」

 もっと言ってやりたいけれど、ディルスが肩を抱き、終わりだよと促したから私は口を閉じる。

「そういうわけでエルマは僕のだし、虚言でも騙しているわけでもないって事はわかったかな? じゃあ二度とエルマに近寄らないでね。この国にも二度とこないから」

 援護射撃としてお父様も口を出す。

「そうだな。婿殿の母国ゆえに優遇していたのも見直すか。ディルス殿は本当にエルマを大事にしてくれる、大切な家族だ。これから孫の顔も見せてくれるはずだし、優先するはディルス殿だろう」

「ありがとうございます、お父様。二人でぜひ頑張って願いを叶えて上げたいわ」

 それがどういう意味かわかりつつ、ディルスに抱きつく。

 照れてるようだけれど、私がディルスを心から愛しているとアピールしないと、他にも口説きに来る者が出るかもしれないし。

 私の顔も大分熱いが気づかない振りをした。




 そうしてレグリスに戻り、私は以前にもましてディルスを大事にした。

 母国と決別した彼との家族を早く作りたいし、作ってあげたい。ディルスをうんと甘やかして癒してあげたいの。

 カミディオンの元王太子は当然ながら冷遇されている。離縁もしていない兄の妻を口説いたり、正妃となる人を側室にしようとしたり、非常識にも程があるのだもの。

 一番の理由はディルスを王太子から下ろした本当の訳が知られたからだ。

 それまではレグリスの脅しで止む無く、といった話だったのだけれど、カミディオンから喜んで差し出したとなれば事情は変わる。

 ディルスは慕われていないなんて言われていたけれど、常ににこにことしていて気配り上手な彼は、目立たないながらも皆の為に動いていたというのは伝わっていたそうだ。

 そしてカミディオンと結ばれていた国交も、元を辿ればレグリスとディルスが後ろ盾になっていたからなのに、それも知らなかったのだろう。だからあんなにも強気だったとしか思えない。

 しかしこの騒動はただのきっかけだ。

 ここから挽回できず、ますます他国が離れるならば、カミディオンはそもそも信頼を得られていない国となる。

 パーティで魔法を無断使用したレグリスも多少心象は悪くなったけれど、ディルスの事前の根回しや細やかな気配りのおかげでそこまででもない。

 人を見る目に長けているのだろう。会場でもお喋りな人に目をつけて、すばやく情報の拡散をしていたし。

「言葉と情報は僕のような腕力のないものには大事な力だからね」

 そうは言いつつもディルスの剣技は弱くはない。

 ただ、騎士のような戦い方ではなく、暗殺者のような気配を殺して刺す仕留め方が向いてるようだ。

 隠密というか、影が薄いを極めるとそんな事が出来るのね。

 そして私の我儘を受け入れる度量もある。

 そんな痒いところに手が届くような旦那様を、私は手放す気はない。















しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい

楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」 こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。 由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。 そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。 ◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました ◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります

新しいもの好きな私と伝統が大事な彼のすれ違いと歩み寄り

桧山 紗綺
恋愛
私は新しいものが好き。 商店に並ぶ見たことのないデザインのアクセサリー、季節のフルーツを使った新作のケーキ、職人が生み出す新しい模様のレースなど。 どれも見ているとワクワクして、こんな素敵なものがあるのと他の人に教えたくて仕方ない。 でも婚約者は私が次々に新しい物を身に着けているのが好きではないみたい。 浪費ではないのだけれど、難しい。 けれどある日のお茶会をきっかけにお互い歩み寄ってみると一緒に過ごすのは意外と楽しくて……。   ◆家風の違う婚約者とのすれ違いと歩み寄りの話です。 わだかまりはわりとすぐ解けて婚約者同士でイチャイチャしてます。 15話+番外編1話。 完結しました! お付き合いくださった皆様ありがとうございました。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

冷徹婚約者に追放された令嬢、異国の辺境で最強公爵に見初められ、今さら「帰ってきて」と泣かれてももう遅い

nacat
恋愛
婚約者である王太子に濡れ衣を着せられ、断罪の末に国外追放された伯爵令嬢レティシア。 絶望の果てにたどり着いた辺境の国で、孤高と噂の公爵に助けられる。 彼は彼女に穏やかに微笑み、たった一言「ここにいなさい」と囁いた。 やがてレティシアは、その地で新しい居場所と愛を見つける。 だが、彼女を見捨てた王太子が、後悔と未練を胸に彼女を追って現れて――。 「どうか許してくれ、レティシア……!」 もう遅い。彼女は優しく強くなって、誰より愛される人生を歩き始めていた。

処理中です...