オネェ騎士はドレスがお好き

オスカー邸

「ごめんね、すぐに仕事に戻らなきゃいけないの。良い子にしててね」

「大丈夫ですぅ。オスカー様もお気をつけてぇ」
あれから数日が経ち、メィリィはオスカーの屋敷に越してきた。

派手好きのオスカーのところとは思えないようなこじんまりとした屋敷で、執事、侍女、料理人、庭師くらいしか常駐していないそうだ。

ほか数人通いのメイドがいるそうだが、毎日ではないらしい。

メィリィは侍女のニーナだけを連れてきたのだが、
「思ってたのと違う！」
と二人で盛り上がってしまった。

「必要最低限な家具にストイックな暮らしですかぁ。オスカー様らしくなくて、逆に安心しますぅ」

「質には拘ったわよ。それに部屋がシンプルな方がアイデアが出やすいからね」
家具まで派手では休まらなさそう、とメィリィは密かに思っていたので助かった。

「私にも派手な服が支給されるかと思ってました。いや郷に入っては郷に従えという、他国の言葉もあるくらいですが、ドキドキでしたね」
生地は上質だが、使用人達は華美な服は着ていない。

「あら、着たいなら作るわよ。可愛い侍女服のデザインもラフならあるし」

「あっ、遠慮します」
オスカーの発言にニーナは速攻拒否った。

「じゃああとは頼んだわよ、ヴォルフ、エマ、テオ、カーリー」
呼ばれた皆は頭を下げる。

「アタシの妻になる人なの、くれぐれも頼んだわよ」
フフッと笑うとオスカーはメィリィに向き直る。

「じゃあ行ってくるわ、何かあればすぐに言ってね」
ちゅっと額にキスをされる。

皆の前で！とメィリィは顔を赤くした。

ちなみに、今日のオスカーは、左が白髪、右が空色となっている。

空色の髪は細かく編み込まれていた。

「お気をつけて……」
メィリィは恥ずかしさに小さい声しか出せなかった。







「それでは私がご案内します」
執事のヴォルフが屋敷の中へと案内をする。

まずはメィリィを部屋へと案内し、荷物を運び入れた。

作りかけのドレスやデザイン案、生地などが大量にあるが、それらは別な部屋へと運ばれる。

「作業用の部屋がありますのでそちらに、と申し付けられております」
オスカーの手配のようだ。

「普段針子は決まった時間に、作業場となっている離れの方へ来るようになってます。今日はメィリィ様をお迎えするため休みとしましたが、住み込みの者はおりません」

「そうなのですかぁ？」
デザインなどに拘るオスカーなら、住み込みがいてもおかしくなさそうだと思っていた。

「あまり人を置きたくないそうです」
ヴォルフの言葉に、またまた意外に思えた。

賑やかなのが好きそうに見えるのに。

「わかりましたぁ。明日その方達にご挨拶しますねぇ」
今度のパーティ用ドレスのデザイン案が出来たので、オスカーと一緒に見て、良ければこちらの針子達と相談したい。

店の針子以外と話をするのは初めてでワクワクする。

貴族令嬢にとって刺繍は必須であるが、平民でも手先の器用なものはこうして仕事として働ける貴重な技術だ。

家計を助けるために腕前さえあれば雇われるため、少しの道具を買うお金と器用な手先があれば雇われることもある。

「こちらをどうぞ」
渡されたのは、作成中のドレスなどが運ばれた部屋の鍵。

「普段針子達の仕事する場所は離れですが、念の為鍵を掛けさせてもらいました。メィリィ様のお店をライバル店が襲ったと聞きましたし、万が一のため盗まれるのを防ぐためもあります。我が家に通う針子は腕は確かではありますが、メィリィ様に信頼してもらえるかは断定出来ません」

「そうなのですかぁ？」
オスカーの選んだ針子達だ、彼が選んだ者達ならと、メィリィは謂われるまで警戒すらしていなかったのだが。

「腕前の良い人格者とはなかなか難しいものです。平民なら尚更でしょう。オスカー様が独身だったのも、心配の種といいますか……」
ヴォルフが言い淀む。

針子はほぼ女性である。

独身の伯爵に雇われていて、もしかしたら玉の輿で結ばれるという夢を見たとしてもおかしくない。

ぽっと出でオスカーの妻の座を得たメィリィが面白くない、という事があり得そうだ。

普通の伯爵ならば平民を妻にはしないだろうが、オスカーは普通じゃないし、話せばあのように優しい。

期待をさせてしまったかもしれない。

オスカーの雇う針子は平民だというから、貴族の考えとは違うだろう。